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2.10.速すぎる勝負


 木幕が作り出した葉我流には、二つの型がある。

 剣術と、槍術である。


 その中の槍術は、槍術というより、棒術に近い動きをする型だ。

 葉我流槍術の型は全てで七つ。

 だがこの槍の特性を考慮するに、参の型は使えないと判断していた。

 この槍はしならないからだ。


 それにこの槍は重い。

 なので予備動作の動きを必要とする伍、陸、漆の型も使えないと思う。

 だが、それでも十分だ。


 剣士が二人同時に前に出てきていた。

 二人相手とは卑怯、などとはここでは言えない。

 なにせ自分が好き好んでこの状況にしたのだ。


 相手には全力で木幕を叩きに来る権利がある。


「やあぁ!」

「はっ!」


 息の合った攻撃だ。

 前方からの攻撃ではあるが、一方が左側から攻め、もう一方が右側から攻める。

 しかし、攻撃はどちらも上段からの攻撃。


「ふっ」


 息を素早く吐いて腹に力を籠める。

 その後、腰近くに置いてあった左手をぐいっと真横から持っていき、石突側でその剣を同時に弾く。


「「!?」」


 一方の剣が弾かれ、味方の方に剣先が向く。

 それに二人とも驚き、一瞬離れようとしたが、その時間をやるつもりはない。


 木幕は右側に持っていかれた石突を強引に右側へと戻すと同時に、前に踏み込んで左にいた兵士のこめかみ部分に石突をぶつける。

 すると同時に、穂先の方も右側から戻って切るので、勢いを殺さずに今度は右側の兵士の喉元辺りに穂先の腹をぶつけた。


 非常に鈍い音が周囲に響き渡る。

 槍の真骨頂は突きではあるが、それ以外にも叩くという攻撃がある。

 この重さを利用するのは、突くのではなく叩くほうが効果的だと木幕は考えたのだ。


 攻撃を喰らった二人は、気絶こそしていないが、激痛で起き上がれないでいるようだった。


 木幕としては、今は死人を出したくない。

 これほどの群衆に囲まれているのだから、中には女も子供もいるはずである。

 実は子供が好きな木幕は、このような場所で人の血など見せてやりたくはないのだ。


 だから木幕も本気で行く。

 自分に傷がつけられないように、そして、相手に傷をつけないように。


 その闘気を感じ取ったのか、残っている五人の兵士が数歩後ずさった。

 群衆の目からすれば、木幕は槍を持って変な格好をしている異国の人物。

 だが、目の前で木幕と相対している者たちの目には、木幕が鬼人のように見えていた。


 相手方は攻めあぐねているようなので、今度はこちらから攻めてみる。

 穂先を下段に落とし、一つ口ずさむ。


「葉我流槍術、肆の型……木枯舞」


 頭を一切上下に動かさず、まるで滑るように足を運んで相手に接近する。

 一気に突っ込んできた木幕に驚いた兵士たちは、己の持っている剣を身に寄せる。

 槍を持っている者は何も考えず突きだし、剣を持っている者は、剣を体に引き寄せて防衛の構えを取る。


 防御に徹している者は後回しでいい。

 今は槍を持っている者を崩すのが先だ。


 突いてきた槍を、自分の槍で上に弾き上げる。

 槍は長いし、この槍は重い。

 かち上げるのに随分と無駄な力を使ってしまったが、その分相手の槍の穂先は、木幕から遠のいた。


 普通であれば、相手を突くために槍を戻して突きを繰り出すのだが、今回は違う。

 槍をかち上げた勢いをそのまま利用して、石突で相手の顔面をぶん殴る。


 木枯舞は、木枯しが舞うように次々に相手を切り替える戦い方……もとい技である。

 下段からの攻撃が主なのではあるが、やはりこの槍は重い。

 この技は無理だとはわかったが、足さばきだけはこのまま残すことにした。


 それが決まったと同時に、隣にいた槍兵へと目線を向ける。


「ひっ!!」


 槍を持ち換え、石突を前に出し、そのまま相手の喉元を突く。

 この槍は幸いなことに、石突が尖っていない。

 これであれば、普通の槍の扱い方ができそうだと思い、そのままの構えで今度は剣を持っている兵士へと目線を向ける。


 ゆっくりと歩き、相手を威圧する。

 それに怖気づいたのか、はたまたカラ元気なのか。

 残り三人の兵士が一気に攻めてくる。


「その意気やよし」


 木幕は三人の剣を次々に弾いていく。

 上段からの攻撃を石突で弾き、その弾いた勢いを利用して、隣から迫りくる剣を止める。

 最後に飛んできた剣を回避して、一度距離を取った。


 整えるすきを与えまいとして、剣を持った兵士が一人で突っ込んだ。

 木幕は相手が間合いに入ってくる瞬間を見計らい、しばらく待機していた穂先を右側から相手に打ち込む。

 言ってしまえば脇構えからの一撃だ。


 それに、槍は射程距離を変える事の出来る武器。

 相手がまだ来ないだろうと予測していたところで、自分も踏み込み、そして槍の持つ長さを最大限に生かした攻撃を、兵士に打ち込んだ。


 ギン! ギャイン!


 兵士はその攻撃にかろうじて気が付き、剣を引いて防御する。

 その判断は間違ってはいないが、勢いが乗り切った槍を防ぎきる事ができず、そのまま兵士は少し吹き飛んだ。


 当たった部分は頭。

 本当は腹部を狙う予定だったのだが、相手が止まって勢いがなくなったため、少し目測を見誤った。

 流石に今の攻撃を喰らってしまっては、意識を保つことはできなかったようだ。


 しかし、まだ戦いは終わっていない。

 残り二人残っている。

 すぐさま足を運んで二人に強襲する。


「葉我流槍術、壱の型……旋風」


 足を運んだと同時に半身回転し、腕ではなく、体のしなりを利用して一回転しながら槍を真横から薙ぐ。

 分かり切った攻撃ではあるが、その勢いは槍の重さも相まって尋常ではない。

 同じく剣で防御した相手も、その攻撃に耐えきることが出来ずに吹き飛んだ。


 横に伸び切った槍と腕を、体で引き戻して石突を前にして相手を捉える。

 上段からの攻撃を仕掛けると、相手は上段の攻撃を何としても防ごうと、両手で剣を持って剣の腹をこちらに向けている。

 だが木幕の攻撃は上からはこなかった。


 下から掬い上げるようにして伸びてきた穂先が、相手の顎を捉える。

 ついでにと言わんばかりに、持っていた剣も上空高くに飛んでいき、兵士が崩れ落ちると同時に剣も落ちてきた。


 木幕はふう、と一息ついて残身する。


「突ければもっと丁寧に扱ってやれるのだが……すまぬな。だが研いでやるから安心せよ」


 今の立ち合いだが、かかった時間は一分弱だろうか。

 木幕はもっと長いような時間が流れていたと思ったが、周囲からは本当に一瞬で倒しきってしまったと思えるほどに速く決着のついた勝負だった。


 野次馬の罵声や、ざわめいていたはずの声が一切聞こえない。

 周囲を見てみると、皆が皆、驚いた様子で木幕と兵士を見比べていた。


 木幕はそれを一瞥すると、勇者一行に目線を向ける。


 戦斧を持った顔に古傷を持つ男は腕を振るわせながら、嬉々としてその様子を見ている。

 一方で、杖を持っている女は怯え戦斧を持つ男の後ろに隠れ、弓を持っている男は背中にある弓に手を置いていつでも弓を使えるように身構えている。


 勇者はと言うと、変わらない佇まいで木幕を見ていた。


「おお! おおおおお!! お前強いな! 俺と戦え!!」


 勇者を置いて、戦斧を持つ男が前にズンズンと歩いてくる。

 後ろに隠れていた女は盾をなくして、すぐさま弓を持つ男の後ろに隠れた。


 この男は随分と屈強な肉体を持っている。

 流石、バカでかい戦斧を扱うだけの技量がある人物だ。

 だが……どうやらこの男は戦闘狂のようだった。


「まぁよいが……」

「っしゃおらぁ!」


 戦うのがよほどうれしいのか、ガッツポーズを決めている。


「だが条件がある」

「お! なんだなんだ! 聞いてやる!」

「防具を脱げ」

「何故だ!?」

「見てわからぬか。某の来ている物は只の布。それに対しお主は鎧……。どう見ても不平等であろう」

「ああ! 本当だな! 確かにそうだ! ちょっと待ってくれ!」


 割と聞き分けの良かった戦闘狂は、そそくさと防具を脱ぎ始める。

 別にこいつと戦うつもりはなかったのだが、勇者はこちらをじっと見ている。

 おそらく技量を確かめたいのだろうが、今回使っているのは槍だ。

 刀の筋を読めれることは無い。


 しかし木幕は、立ちふさがる敵を倒してでも、勇者に近づき聞かなければならないことがあったのだ。

 それに……この者は強そうだ。


「っしゃ脱いだぞ!」


 鎖帷子をも全て脱ぎ捨て、男はやわらかそうな綿の入っているであろう下着姿になった。

 そして戦斧を持ち、軽くブンと振る。


「俺の名前はガリオル! 勇者パーティーの戦斧使いだ!」

「某は木幕。とある理由で、勇者を探しに来た者だ」

「大将って呼んどけ。怒られっぞ」

「某の知った事ではない」

「確かにな!」


 木幕は槍を振り回し、背後に回して脇に槍を挟んで制止させる。

 槍術では扱わない動きであり、見栄えだけのものなのだが、これは牽制の一種である。

 特に意味はない。


「行くぞモクマク!」

「いざ」


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[一言] この人"キマク"じゃなかったのか…(今更)
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