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7.18.異変! 抜けた魂!


 青い空、白い雲、そして隣を飛んでいくカモメのような鳥。

 いや、よく見れば鳥ではない。

 どちらかと言えば色が白いだけの翼の生えたトカゲである。

 こんな生物もいるんだなと、男は感心しながら見ていた。


 春の空は意外と冷たい。

 叩きつけるような突風が正面からぶち当たる。

 その度に凍えそうになるほど冷たい風が体中の服の隙間を縫って肌を撫でた。


 障害物が全くないので、その突風は強烈だった。

 服がバタバタと靡いている。

 そしてどうしようもないこの状況に涙があふれ、その水滴は上へと昇っていく。


「どうして!! どうしてこうなったんだああああああ!!!!」


 悲痛な叫びも風の音で掻き消える。

 声を発している自分だけしか聞こえていないのではないだろうか。

 そもそも自分以外に声を聞いてくれる人など、ここにはいない。

 何故ならば、彼は今現在落下中であったからだ。


 上空数百メートルから何故か落下している。

 その理由は自分でも分からない。

 目が覚めたらそこが上空だったのだ。

 これ以上の説明を求められたとしても、彼はもう答えることができない。

 元来度胸のない性格の男は、男児であるのに大粒の涙を零して文句を垂れていた。


「うわああああん! 姉上ええええ!! 助けてくださいませええええ!!」


 体をバタバタと動かすが、そんな事をしたところで状況が一変するわけではない。

 刻一刻と地面が近づいてきていることに恐怖し、もうどうすればいいか分からなくなっていた。


 だが槍だけは持っている。

 これで何をすればいいのだろうかと考えた瞬間もあったが、あったところでこの落下を止めることなどできるはずがないのだ。

 どうしたって自分は今から落下しする。

 そして地面にこびりついた餅のようになってしまうことだろう。


「なんでっ!! なんで僕だけ!! 他の皆は!!? ねええええ!!」


 周囲を見渡しても、彼の仲間はいない。

 いるはずがないとわかってはいるのだが、こんな状況だ。

 藁にもすがる思いで探してしまう。


 そこで地面を見る。

 もうすぐそこだった。

 このままでは確実に死んでしまう。

 そうすれば戻ることもできないのではないかと、彼は恐怖する。

 この状態で死にたくはない。


 必死に槍を握りしめ、タイミングを見計らう。

 これで失敗すれば本当にお陀仏だ。

 涙を拭う。

 どうせ死ぬんだったら精々足掻いて見せますよと言った風に、力を込めた。


 地面が近づいてくる。

 意識を集中させ、あの時の槍居合を思い出す。


「奇術!! 一閃通し!!」


 シュアッと突き出した一閃通しは、しっかりと奇術を発動させた。

 地面に体が触れる直前に横方向へと推進力を生みだし、落下のダメージを最小限にまで抑えようと試みたのだ。

 だがしかし、そう上手くいくはずもなく結局盛大に地面を転がって行ってしまった。


「うっげっごっは! ででででででで!! あいだ!! ごっへぁ!!?」


 盛大に転がったのち、大きな大木に横腹を打ち付けてようやく止まることができた。

 暫く放心していたが、痛みが生きているということを実感させてくれている。

 また涙が出てきそうだ。

 だがそれを堪え、全身の痛みに歯をくいしばって耐える。

 暫くした後、西形正和は周囲を見渡した。


 どうやらここは平原である。

 今自分が転がって来たとおころは森の入り口のような場所だ。

 忌々しい程にいい天気である。

 なんで自分はこんないい天気に落下しなければならないのだろうか。


「っつ、つつ……。どーなってんのほんとに……」


 西形はこの状況に疑問をいだいていた。

 自分は確かに木幕によって殺されたはずだ。

 だというのに、あの空間からいつの間にか抜け出して現世へと降り立ってしまった。

 そんなことがあるのだろうか。

 死者蘇生など聞いたこともない。


 他の者たちは来ていないのだろうかともう一度周囲を見渡すが、それらしき影はない。

 何故自分だけ。

 また頭の中で思考を展開させる。


 殺されたのは間違いないし、あの空間にいたことも覚えている。

 だが今は肉体があり、手には一閃通しが握られていた。

 これは本物なのだろうか。

 それともあの空間から持ってきた空想の産物なのだろうか。


 しかし奇術を使うことはできた。

 これを使ってまたこの世界を壊せというのだろうか。


「いやいや……。もういいよ……。もー姉上には怒られたくない……」


 顔がはれるまで殴られるなど初めての経験だった。

 金輪際そう言ったことは避けて行きたいので、同じ轍は踏まないようにする。


 しかしこの状況が本当に理解できない。

 どうして自分はまたこの世界に落とされてしまったのだろうか。


「考えても分からないよ……。木幕さんだ、木幕さんを探そう!!」


 彼ならこの状況を何か知っているかもしれない。

 もう一度殺されるのは困るので、もしこのままであれば一緒に旅をして助太刀をすることにしようと決めた。

 この奇術があれば、木幕の所までは一直線で行くことができるはずだ。


「よし! 行くぞ! …………も、もも、木幕さんって……今何処にいるんだっけ!!?」


 この世界を全く理解せずに国中を回り、殺しを続けてきた西形だ。

 常識など知っているはずもなく、なんなら木幕がいた場所も知らない。

 これは困ったぞと思いながら、記憶を手繰り寄せて何とか町の名前を思い出そうとする。


 初めて木幕と会ったのはミルセル王国だ。

 そして次に沖田川がいたルーエン王国に木幕は行った。

 これはあの空間で沖田川から話を聞いているので間違いはない。

 次は……要塞だったはずだ。

 寒い場所だし、二ヶ月もいたのでよく覚えている。


 未だに死者は送られてこないが、暫くすれば一緒に送られてくる事だろう。

 そして次が……次が……。


「覚えてないッ! あの津之江とか言う人も来なかったしなぁー! 葛篭っていう人も来てないし! 無理だよ……。……あ、そう言えば最前線防衛都市とか言ってたな……! よし、その線で捜索してみよう! 町は何処かな? ていうかここは何処かなぁー!?」


 大声で叫んだ後、西形は槍を構えて奇術で移動した。

 とりあえずは町が見えてくるまで突っ切ってみる予定だ。

 そこで情報を収集して、合流を測ることにするのだった。

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