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6.25.犯罪者


 なんの障害もなくヴォルバー家を脱出した四人は、安全そうなスラム街へと逃げていた。

 もうあの宿を使うのは好ましくない。

 こうなったらこのライルマイン要塞から脱出した方がいいというのが、レミの考えであった。


 どっちが悪いにしろ貴族の屋敷を二つも破壊してしまったのだ。

 それも公爵家である。

 この二人がいる限り捕まることはないだろうが、狙われ続けるのも厄介だ。


 木幕は目的の人物である葛篭を発見しているし、同行してくれるのであれば問題はない。

 葛篭もここに居続けるのはさすがに面倒くさそうだと思ったのか、レミの提案にすぐに頷いた。


「そうと決まれば、さっさと逃げないとですね」

「某らが西形のように指名手配になる前に脱出しなければな」

「そーなるんはわてだけだらぁ(俺だけだろう)。しっかり顔覚えられとんはわてしかおらん(俺しかいない)けぇなぁ(からな)

「そうだといいんですけどねぇ……」


 不安は残る。

 確かに貴族に顔を見られているのは葛篭だけかもしれないが、木幕も戦闘に参戦してしまったし、なんならレミとスゥは実際に狙われて囚われていたのだ。

 相手が把握していないとは思えない。


 とはいえ、とりあえずここから逃げられれば暫くの内は安全だろう。

 余計なことを考えるのは止めにする。


 手配には時間がかかるだろうが、先ほどの騒動は既にライルマイン要塞全体に響き渡っているだろう。

 クレマ・ヴォルバー配下の兵士だけではなく、今度はこのライルマイン要塞の兵士も駆り出されるかもしれない。

 その前には何とか脱出したいところだ。


 しかしこの辺に馬車を貸してくれるような場所はない。

 スラム街なので当然と言えば当然なのだが。

 馬を借りるにせよ一度大通りへと出なければならないだろう。


「ここは私が行って来ましょうかね」

「すまんな」

「いえいえ。師匠たちだと絶対ぼろ出ますし、私もローブ被っておけばバレないでしょう」


 レミはそう言いながら、魔法袋の中からローブを取り出す。

 これはローデン要塞で使用していた物だ。

 今の時期的には少し暑くなってしまうかもしれないが、背に腹は代えられない。

 これしかないのだから。


 ササッと着込んだレミは、軽い足取りで大通りへと向かった。

 残された三人は一度身を潜めようということになり、この辺りにある家屋の中に入った。



 ◆



 レミは大通りに出た。

 周囲を警戒しながら歩くのは逆に目立ってしまうので、できる限り堂々とした歩き方を心がける。

 町ゆく人々は先ほどの地鳴や爆音に驚いていたようだったが、今のところその犯人が誰かなのかは分かっていないようだった。

 やはりまだ事態の収拾に追われて犯人捜しはできていないらしい。


 レミは冒険者ギルドに行って、商人たちが街を移動するために護衛を募っていないかどうかを確認した。

 だが残念ながら今のところそう言った依頼は貼られていない。

 一週間後であればあるようだが、そこまで悠長にしていられる時間はないので次の策を考える。


 少し出費が掛かってしまうが、馬車を買うか借りるかした方が良さそうだ。

 馬を買うとなると金がかかるので、ここは馬車を借りることにする。

 確か向かう国にも同じような馬車を貸し借りする店があるはずなので、そこに預ければいいはずだ。

 レミはすぐに馬車を貸してくれる店へと赴いた。


 そこの店主とすぐに話をする。


「おじちゃん、今日借りる事ってできる?」

「ああ、構わないよ。冒険者かい?」

「まぁそんなところ……」

「何処に行く予定かな?」

「あー……」


 そう言えば決めていなかった。

 適当に決めてもいいかもしれないが……この辺の地理はあまり知らない。

 変なところには行きたくないし、情報も何も持っていない状態で行くとルーエン王国の二の舞いになりそうだ。

 さてどうするかと考えていたレミに、店主が提案する。


「予定がないんだったら、アゲーテ領に行ってみないか?」

「アゲーテ領?」

「そうそう。今冒険者が少ないってんで、困ってるらしいんだ。そっちに行けば仕事もあると思うぞ。ここじゃ今は冒険者活動するの難しいだろうからね」

「な、なるほど……」


 やばい、ここで何で冒険者活動がしにくいのか全く分からない。

 少し焦ったが、聞かれなかったので適当に受け流す。

 ここに来て冒険者活動はしていなかった。

 していれば何かあったのかもしれないなと思いながら、手続きを済ませることにした。


「にしても、凄い奴もいたもんだねぇ」

「と、いうと?」

「あのヴォルバー家をぶっ飛ばしたっていう御仁がいるそうじゃないか。今じゃもう有名人だよ」

「ブッ! ゲホゲホ!」

「大丈夫かい?」

「あ、はい……」


 どうしてここでそんな情報が出てきてしまうのかと驚いてせき込んでしまった。

 外にいた時はそんな話は聞かなかったはずだ。

 だというのに既に有名人?

 加えてヴォルバー家で起こったことも把握している。


 いくら何でも早すぎる。

 この店主はいったい何者なのだろうかと疑いの目を向けたが、次の言葉でその疑いは違う人物へと向けられることになった。


「ウォンマッド斥候兵が教えてくれたんだよ。気を付けてくれってね」

「……ウォンマッド……斥候兵?」

「うん。熱心に人探しをしているみたいだったけどね。ま、俺には関係ないけど」


 店主はレミが書き上げた手続きの書類に印を押す。


 ウォンマッド斥候兵であれば、確かにこの事態を把握しているだろう。

 それにあの場にウォンマッド斥候兵の姿は見受けられなかった。

 彼らはこの事を方々に流しているのだろうか。

 となれば……既に葛篭は犯罪者として手配されていてもおかしくはない。


 人相書きなどはまだ用意できないだろう。

 だが脱出が困難になったことはこれで間違いなかった。


(やっぱり利用されてるじゃーん……)


 彼らの目的はよく分からないが、何かに利用されてしまったことは間違いない。

 長居していると碌なことがなさそうだ。


 レミは小さな馬車を借りて、三人と合流することにした。

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