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6.7.斬った数


「お主名前は」

葛篭平八(つづらへいはち)。おんしは」

「木幕善八だ」


 とりあえず全員が自己紹介をした。

 その後レミとライアの説得により、木幕だけは普通に話してくれることになった。

 あんな喋り方をする者が二人もいては解読するので精いっぱいだし、そもそも聞き取れないので頭が混乱するだけだ。

 一人であれば木幕の会話をもとに何と言ったのか大体把握できる。


 しかし葛篭はこの喋り方しかできないらしい。

 田舎にずっといたので他の喋り方をそもそも知らないのだとか。

 それはどんな田舎なんだと二人はツッコミたかったがグッと我慢して口を紡ぐ。


 彼は腹が減っているということだったので、レミが持っていた干し肉を渡している。

 乱暴な食べ方でよく噛まずに飲み込んでいた。

 一分もせずに平らげてしまったようだ。


「は、早……。干し肉って固いんだけどなぁ……」

「早起、早食、早糞は職人のうんたらら」

「へ?」

「なんでもにゃー」


 早飯早糞早算用ではないのだろうかと心の中で思ったが、こうして言葉を作る職人も多い。

 彼らは意外と厄介な性格をしているので下手に刺激しないのが得策だろう。

 もっとも彼が職人かどうかはまだ分からないが。


 しかし細身だというのに立派な体だ。

 鍛え抜かれているということが服越しでも分かる程である。

 そしてやはり一番目に付くのがその大太刀だ。

 平安時代の武将が使っていたとされるような物の様に大きかった。

 鎧ごと両断しそうだ。


 それを軽々と肩に担ぎ、欠伸をしている始末。

 この体にどこまでの力が宿っているというのだろうか。


「あー、そじゃぁ。木幕」

「なんだ」

「おんしゃー、何人斬った」

「五人だが」

「わてぁー六人」

「なに……?」


 六人。

 それが葛篭が同郷の者を切った数、なのだろう。

 それを聞いて木幕はどういうことだと首を傾げた。


 残り少ない人数だと思っていた同郷の者だが、それを聞いて一変した。

 津之江は四人斬っていた。

 木幕も当時四人斬っていた。

 そして、葛篭は六人斬った、と言っている。

 全員合わせて、十四人。


 それに気が付いた木幕は、体に力を込めて黙って怒った。

 雰囲気が変わったことに葛篭は気が付いたようだったが、他の二人は気が付いていない。


 パンッ。

 葛篭が強く手を打った。

 それにハッとして、木幕は冷静さを取り戻す。


 あの女神は、この世界に十二人の侍を転移させたのではない。

 一人の侍が十二人の侍を殺すまで、この世界に引っ張ってきてる。

 数が合わないところを鑑みるに、恐らくそういうことだろう。


 だから木幕がどんな国に行っても彼らを見つけることができた。

 一体この世界にどれだけの同郷の者がいつのだろうか。

 そう考えるだけでまた怒りが込み上げてきそうだった。


そげことかえ(そういうことか)

「……お主も、聞いているはずだ」

きーとーよ(聞いてるよ)だっど(だけど)げん(そんな)めんだなこたぁ(面倒なことは)よーせんわえ(しないよ)

「では何故六人も?」

「襲ってくっけぇだがな(来るからだよ)。身()守っただけだけぇ(だから)

「左様か」


 葛篭は呆れるようにしてそう言った。


 彼が出会って来た侍は、誰もが私欲に憑りつかれ目の前にいる布石を討たんとばかりに襲い掛かって来た。

 なんとも欲の深い者たちかと思いながら、彼らの首を飛ばすことになった。

 誰もが抵抗したが、大体は三度目の立ち合いでその魂は天へと登る。


 こういう者共は、弱い。

 だが殺してしまったことは事実であり、彼らを弔わなければならなかった。

 仏を掘って、その供養としていたのだ。


だっど(だけど)鑿ん刃が切れーなったけぇ(切れなくなっかたら)、仏掘るんができーでなー」


 そう言いながら、葛篭は掘った六つの仏を見せてくれた。

 五つは完成しているが、もう一つはまだ途中である。

 形だけは掘られているが、まだ小さな装飾や輪郭が彫られていない。

 その後葛篭は懐から鑿を入れている木箱を取り出した。


 自慢するようにして、その鑿を取り出して見せびらかしてくる。

 それをまじまじとライアは覗き見た。


「ほぁー……。日本刀みたいな刃ですね……」

だらだらぁ(そうだろう、そうだろ)? まー、切れんけどなぁ」

「え? まだまだ切れそうですけど?」

こっじゃ(これじゃ)木は相手してくれんわ」


 独特な感性を持っている人だなと、ライアは思った。

 普通木を相手にするなんて言葉は、大工でもあまり使わない。

 しかし葛篭は木に感情や意識があるかのようにして接しているように感じられた。


 隣で話を聞いていたレミも、少し首を傾げている。

 彼らにはこの感覚は分からないのだろう。


 そこで、レミが思い出したかのようにして木幕を見る。


「師匠。砥石貸してあげたらどうですか?」

「ん!!? あっだか(あるのか)!? ……つってもこん場の砥石だらぁ(だろ)? あげな(あんな)小石なんざぁ……」

「いいや?」

「おお!!?」


 そう言って、木幕は沖田川から譲り受けた砥石を見せる。

 丸くなっている物と長方形の砥石。

 更に砥粒として用いられるクオーラウォーターの中にある砂の入った瓶。


 鑿を研ぐにあたって必要なものがすべて揃っている。

 それを見た葛篭は大きな声を上げて物欲しそうにこちらを凝視してきた。


「貸してくれ!」

「では、一戦」

「よぅし!!」


 葛篭はすぐに準備をし始めた。

 普通の手合わせではないのだが、彼は砥石を借りる気満々で持っていた荷物を地面に下ろしていく。


 葛篭も神から信託と呼ばれる話を聞いている。

 興味はない様だが、木幕は葛篭を殺す気でいた。

 それがここに来た理由であり、神に手を届かせるために必要な事だからだ。


 葛篭もそのことは分かっているのだろう。

 ここで死ぬ可能性もある。

 だが、彼はまるで子供の遊びで大人げなく勝つ大人のように、楽し気にしていた。


「では!」


 葛篭は鞘を納めた大太刀を、そのまま構えた。


「……む? 何故抜かん」

「わてぁ二度までは許す! 仏の顔も三度までっちゅーだらぁ(っていうだろう)? 三度目じゃ抜く」

「大した自信だな」

「はっはっはっは!」


 木幕は本気で彼を殺しに行く。

 レミはそのことに気が付いていたようだが、ライアはそうではない。

 その様子を楽しそうに見守っていた。


 二人は、間合いを取って各々構えを取る。


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