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5.48.埋葬


 一時は吹雪いたが、今は快晴だ。

 この時期に快晴が何度も続くというのはここでは非常に珍しい。


 温かい日差しがローデン要塞に住まう人々に照らされる。

 冒険者や兵士たちは魔物の残骸を片付けるのに忙しい様だ。


 そんな中でも手の空いている者と、死者の親族は埋葬の準備を続けていた。

 しかし今回の埋葬は日本式だ。

 普通はそのまま死体を棺桶に入れて地面に埋めるのだが、木幕は火葬と言う方法を教え、それに従って準備を行って行く。


 幸い木材は沢山あるので、死者の火葬はすぐにでもできた。

 一人一人燃やしていきたいところではあったが、死者の数が多い。

 勿論この火葬というやり方に反対する者もいたので、そう言った親族は普通に死体を埋めることにした。

 だが賛成したものは、寒い場所なのでせめて温かく見送ってやりたいと言って木幕の提案に乗ってくれた。


 なので、一人ずつ火葬することができた。

 骨をしっかりと回収し、壺に納めていく。


「南無阿弥陀仏……」


 木幕はそう言いながら、手を合わせて黙祷している。

 参加者はそれに倣うようにして手を合わせた。

 涙しながら死者を見送る者もいれば、悔しそうに歯を食いしばる友人など様々だ。


 津之江の死体も、同様に火葬された。

 隣にはテトリス、レミ、スゥがいる。

 未だにテトリスは涙を流しており、目は腫れている。


「木幕、さん……」

「なんだ」

「私はっ、両立できる、かな……っ」

「成せば成る」


 木幕はそれだけしか言わなかった。

 だがその言葉はテトリスに深く突き刺さる。


 普通に見れば難しいだろうが、できないことはないだろう。

 ただ、人並み以上の努力が必要になる。

 しかしそれだけだ。

 やればできる。


 テトリスがそう決めたのであれば、それを応援してやらなければなるまい。

 欲張りではあったができるはずだ。


「お前ならな」

「うぅ……はい……! はい……!」

「黙祷せよ。見送るのだ」

「……うんっ……!」


 骨壺を、地面に埋める。

 そこに石を設けて置いて行く。

 他の参加者にも同じ様に教えて行った。


 全員が遺骨を埋め終えることを確認した木幕は、葉隠丸の鯉口を切った。


「菊」


 チンッと音を立てて納刀すると、周囲に淡い色の菊の花が舞った。

 それは一人一人の墓に備えられていき、墓に彩を与える。


「これは仏花(ぶっか)だ。墓に供える花である」


 丸っこい形をした可愛らしい花だ。

 菊はそのすがすがしい香りと花の持つ気高さから邪気を払うとされている。

 残念ながら生け花にすることはできなかったが、ないよりはましだろう。


 そして、木幕はもう一度鯉口を切って金木犀の花をだす。

 それを手の上に乗せ、津之江の墓の前に添えた。


 あまり好ましくはないかもしれないが、彼女が懐かしいといった花だ。

 津之江も喜ぶことだろう。


 供養を終わらせた一行は、その場を後にした。

 後は時間が彼らを癒してくれるだろう。


 陽光が彼らを照らし、天への道を示していた。

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