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5.38.薄い壁


 ギルドの外に出てみると、冒険者や兵士たちが慌ただしく動いている。

 今日にでも来るかもしれない魔物の軍勢を恐れ、誰もが懸命に防衛準備を整えているのだ。

 東に向かっている者が多いところをみるに、まだ四方に敵が来ているということは伝えられていないらしい。


 今さっきの話なのでそれも無理はないが、早く伝えておかないとまた物資の移動をしなければならなくなる。

 だがそれよりも木幕はまず、東以外の防衛施設を見に行かなければならなかった。

 使える物は使わなくてはならない。

 それが把握できていなければ、恐らくこの戦いを乗り越えることは困難だろう。


 魔物たちは恐らくとんでもない大回りをして配置についたに違いない。

 飛ぶことのできる魔物ははるか上空を飛んで配置についたのだろう。

 西側にも魔物がいるとなれば、完全にここは孤立する。

 そして冬である為下町に行くこともできない。

 その時期を狙ったのだろうか。


 魔物たちはこのローデン要塞の弱点を的確に突いていた。

 ここにいる冒険者はローデン要塞の周辺で魔物の討伐をする。

 その範囲外に軍を置いていた。


「先兵は捨て駒か」


 メディセオは、あの数の魔物が来るのはそう珍しいことではないと言っていた。

 だがそれは捨て駒でただの調査兵。

 このような使い方をするものかと呆れるが、彼らはそれでこのローデン要塞を調査していたのだ。


 なかなか面倒くさい策士。

 人間側には勝利という酒を常に飲ませ、その間に魔物はここを落とすための情報を探り続ける……。

 数年に渡る調査だったのだろう。

 そうでなければ完全にローデン要塞に物資が届かなくなるこの時期を狙わないはずがない。

 それほどこの要塞が脅威だとみなされていることは、誇ってもいいことかもしれない。


「……まずは南に行くか」


 方角はすぐにわかる。

 東にあるのがローデン要塞の最強の城壁。

 その右側に向かえばいい。


 歩いていけば普通の家が点在している。

 雪国だというのに良くこれだけの家を建てたものだと感心した。

 雪のかかれた道を歩いていけば、次第に建物がまばらになっていく。

 そこからまた少し進んでいくと南の城壁が見えた。


 二メートル程の城壁。

 櫓が小さくあるが、その数は非常に少ない。

 周囲には木こりの家や切り出した木材が並んでいるくらいで、ほとんど何もない。


 城壁自体はしっかりしている様だが、これではボレボアのような魔物を押さえることは到底不可能だろう。

 石造りの為そう簡単には壊れないだろうが、突破されるのは確実だ。

 それに城壁に乗ることのできる幅が少ない。

 これでは弓兵もあまり配置することができないだろう。


 南から西へ、西から北へと城壁伝いに歩いていくが、大体が似たようなものだ。

 西は物資の搬入口なので門が大きく作られており、運搬しやすい様にと入り口付近は広く取られている。

 門はあるが門扉はない。

 致命的な弱点となっている。


 北側は南側とまったく同じだ。

 鍛冶師や何かの職人が多くいる場所のようで、鉄を叩く音や様々な物資を運搬している者が目に入る。


「どうするか……」


 東以外の守りは薄い。

 かと言ってここ、ローデン要塞の戦力は少ない。

 全体の大きさを見ればなんとなく分かることだ。

 好き好んでこんな危険な地に身を投じようとする者が珍しいだけ。


 その代わり冒険者の実力は信用に値するものだ。

 木幕が思っているよりもいい成果を出してくれるに違いがないが、戦力が足りないというのは同じである。


 出撃はできない。

 かと言って守りに徹するのも限界がある。

 三方向には既に魔物が配置されており、後は合図を待つだけなのだ。

 一つの方角を防衛するだけでも体一杯になりそうなこのローデン要塞。

 それを一度に最低でも三つもしなければならないのだ。

 戦力は薄く延ばされ、そして弱くなる……。


「詳しい戦力を知らねば」


 踵を返して木幕はもう一度ギルドへと戻る。

 地形は大体把握できた。

 一番守りが手薄なのは西。

 この方角の守りは強固にせねばならない。

 飛んでくる魔物に対しても策を講じなければならないだろう。


 実際は木幕よりもこのローデン要塞を知っている者に話を聞けば済むことなのだろうが、木幕はこう言ったことは自分の目で確かめないと気が済まなかった。

 聞いて頭に入れるより、体を動かして自分の目で見た方がいい。

 体を動かせばそこに援軍が到着するまでの時間もなんとなく分かったりするのだ。

 歩いて調査しているだけでも、それが戦に使える情報になる。


 後は戦力と、彼らの得意分野を活かせば凌げる可能性はある。

 既に会議が行われているかもしれないが、木幕はこの情報を持ってギルドへと帰還した。


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