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5.37.三方


 魔物は東に待機している。

 これであれば対処の仕様はあると言いながら、メディセオとドルディンはローデン要塞ギルドへと帰還した。

 しかし木幕は、あの陣形に一抹の不安を覚えていた。


 一見烏合の衆に見えたあの魔物たちではあるが、その数は城攻めに対してあまりにも少ない。

 奥にもまだいたかもしれないが、そうであれば木幕にでもわかる程の熱気があったはずだ。

 他の場所にも待機している可能性もある。

 他の方角に向かっている者たちの情報もしっかりと聞いておく必要がありそうだ。


 ローデン要塞に帰って来た後、ドルディンは一人の斥候を担当してくれている者に指示を出し、あの場所を見張るようにと伝えた。

 彼はすぐに数名と共に出発する。


「木幕、メディセオ。こっちだ」


 ドルディンについていけば、やはりというべきかあの客室へと案内される。

 そこには未だに地図が広げられており、数個の石を並べて敵の配置と地形を把握し始める。


 あの場所から見えたのは小型の魔物だ。

 その数は多く、ざっと一千はいるように思えた。

 ドルディンはそこに小さな石を適当にばら撒く。


「どう思う?」

「進軍するのであれば、この道しかないじゃろ」


 メディセオが一つの道を指さし、ローデン要塞へと続く道を指でなぞる。

 確かにあの場所からであれば、一直線にこちらに向かうことができる。

 何よりほかの道は山で大きな起伏がある。

 東から攻めてくるのであれば、必ず東城壁を通り抜けなければならないのだ。

 谷に沿って進んでくるはずなので、メディセオが言った通りの道を進んでくる可能性が高い。

 いくら魔物とは言え、歩きやすい道などは分かるだろうし、優先してそちらから向かってくるはずだ。


「あれが、全戦力なのか?」

「んー、なんとも言えないところなんだよね」

「と、いうと?」

「あれはローデン要塞によく攻めてくる魔物なんだけど、いっつもあれくらいの数なんだよね。へたっくそな指揮官が数が揃ったので出撃しましょ、って感じの陣形。いつも通りといえばいつも通りなんだ」


 それを聞いて木幕はなめているのか? と思った。

 戦争を軽く見過ぎている。

 そんなことでこの要塞が落とせるとは全く思えなかった。


 悪戯に魔物を突撃させ、遊んでいるかのようだ。

 だがそうなると木幕たちが活躍する程の物でもないということになる。

 この辺にいる冒険者だけで事足りると、ドルディンは言う。

 仮にも最前線のローデン要塞に住まう冒険者たちだ。

 その実力は後方にある国の比ではない。


 そこで、客室の扉が開いた。

 入って来たのはリーズであり、冬であるというのにぐっしょりと汗をかいている。

 体からは湯気が立ち上っていた。


「ど、どうした!?」


 ただならぬ様子のリーズを見たドルディンが、彼にすぐ駆け寄る。

 それに合わせてガッとドルディンの肩を掴んだリーズは、必死な形相で見て来たことを伝えた。


「魔王軍約三千! 南に潜伏中! 小型や中型、更に大型の魔物がいる!」

「は、はぁ!? 二方向に陣を敷いているのか!?」

「えっ?」


 続いて、また誰かが入ってくる。

 名前は知らないが、朝一緒にドルディンの話を聞いていた冒険者だ。

 彼も大慌てで戻って来たらしい。


「ズーラ!」

「ギルドマスター! 北に魔物の軍勢がいた! メンバーにはその場に留まってもらっている!」

「西もだと!? 兵力と種類は!?」

「全部Dランクの魔物だったが……飛行できる魔物が多いし数も……」

「ぐっ……」


 木幕はそれを聞いてばっと地図に近づく。

 ローデン要塞は東側に大きく強い要塞が築かれており、その後方に町がある姿をしている。

 今まで通って来た国は円形の城壁を築いていたが、ここはそうではない。


 山から山に掛けて橋をかけるように城壁が築かれている。

 左右には鋭くそそり立つ山があるので、そちらから魔物は来ることができない。

 だが街のある後方には防衛施設が少なかった。


 普通の冒険者でも対峙できるような低ランクの魔物が入ってこないように、小さな城壁があるだけ。

 人に対しては有効そうに見える城壁だが、魔物を相手にする場合はそこまでの力を発揮することはできないだろう。


 辛うじて北東、南東の方角も強い城壁が築かれているが、あまり意味はなさないだろう。

 弱い場所から狙ってくるのが常だ。

 現状、ローデン要塞は包囲されつつある。

 下町は意外と遠いので被害が及ぶことはないだろうが、もしそちらの方が国も魔物が集まっているのであれば厄介だ。


「メディセオ殿。東以外の守りはどうなっている」

「今までは東以外から攻めてくるということはなかった……。だからあまり期待しない方がいい……」

「来るかもしれないとは考えなかったのか」

「ここ何百年もこんなことはなかったんじゃ。それにここは物資の運搬が困難だ。おいそれと簡単に城壁が作れるほどの材料が近場にないし、どうしても他国の力を借りなければならなくなる。ただでさえ物資の供給をしてもらっているんじゃ。ここは金銭的にはすっからかんじゃよ」

「落とされては意味がないだろうに」


 これは実際に見て確認した方が早い。

 木幕は話を切ってもう一度外に出た。


「ここでは死ねんぞ」


 心なしか風が強くなった気がする。

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