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5.36.索敵


 ローデン要塞では珍しい快晴続き。

 雲がまばらにしかない空は、青く綺麗で気持ちがいい。

 風はあるがそこまで強いというわけではないので、今のままの防寒具で十分にしのぐことができる。


 ローデン要塞を出発して一時間。

 南の門から出て山を登って東側へと足を運んでいた。

 この辺は既に普通の冒険者が来る領域を超えている。

 警戒しなければと木幕は思うのだが、ドルディンとメディセオは全く警戒しているそぶりがない。

 まだその時ではないと言っている風だ。


 二人は雪道に慣れているようで、木幕より一歩前を歩き続ける。

 どうやら木幕の歩く速度に合わせている様だということが分かった。

 この状況を不甲斐ないとは言うまい。

 慣れていない雪道を歩くのは意外と難しいのだ。


 幸いなのは起伏が激しくないというところだろうか。

 雪も固まっており、かんじきが要らない程に歩きやすい。

 だが砂地を歩くように足が軽く沈む為、体力が奪われるのだ。


 それを軽減しようと歩幅を小さくするのだが、そうするとやはり歩く速度は遅くなる。

 こればかりは仕方がないかと思いながら、木幕は今の速度を維持することに徹した。

 二人に合わせて無理に歩けば後に響く。


「木幕、警戒しなくてもいいんだよ? まだいないからね」

「そういうのは、早めに言ってくれないか……?」

「悪かった……」


 ドルディンはそう言ってバツが悪そうに謝ったが、その隣でメディセオはくつくつと笑う。


「魔力を感じ取れるようになれば、警戒する時としない時との区別がつくんじゃぞ~」

「某にそれは分からぬ」

「ええー……。じゃあお主どうやって魔法を使っておるんじゃ……」

「メディセオ。誰も彼もが君みたいになれると思うんじゃないよ?」

「ああー、耳にタコができるほどよく言われたの……」


 木幕は奇術を葉隠丸を通して発動させる。

 これはマジックウエポンとなるものなので、あまり公言はできないものだ。


 一瞬どう誤魔化そうかと悩んだが、ドルディンが良い様に助け船を出してくれたので何とかなった。

 こういう武器は珍しいものとして重宝されているらしいので、バレるのは避けたい。


 そもそもメディセオの言った魔力感知は、そう易々とできるようなものではない。

 自分の中の魔力を周囲に薄く伸ばし、魔力の塊……要するに魔力を持っている生物をその範囲内に捉えると、薄く伸ばした魔力が反応して何処に敵がいるのかが分かる。

 Sランク冒険者だとしても、このような芸当はほとんどできないし、勇者だったとしてもできるものは極々僅かなのだ。


 仮にできたとしても、その範囲は非常に小さい。

 だがメディセオは半径一キロにわたる程にまで広げることができる。

 規格外と言われる所以(ゆえん)なだけはあるのだ。


 戦闘に置いてできないことがほとんどなかったメディセオ。

 彼は本当の天才肌であり、それを人に教えたとしても上手く教えることができなかった。

 できない者に対し、何故できないのかというのが彼の本心であった。


「でもまぁ、歩きすぎてもあれか。少し休もうかの」

「む、某はまだ……」

「儂が疲れたんじゃ。年寄りはいたわれぃ」


 そう言いながら、メディセオは雪の上に腰を下ろした。

 どうやら本当に疲れていた様で、ぐっぐと足を伸ばしてトントンと叩いている。


 自分に合わせて逆に疲れてしまったのではないだろうかと、少し心配する。

 木幕としてはまだまだ余裕で歩くことができるのだが……こうなってしまったのであれば休むほかない。

 同じ様に座って休むことにした。


「で、それの仕組みは……」

「これを作った人は偉大だよね。さっきから言ってるけど、私はこの仕組みを説明できないよ。弓みたいなものとしかね」


 ドルディンはそう言って手に付けている小型クロスボウを日にかざす。

 一本しかつがえることができない物だが、その火力は弓より高い。

 飛距離に問題があるが、適性距離であれば有効な中距離武器となる。


 振り回してもつがえた矢が落ちない仕組みになっており、狙った場所に真っすぐ飛んでいく。

 ドルディンはこれに毒を塗って魔物とやり合うのだ。


 しかし仕組みを説明してくれと言われると、なかなかできないものである。

 引き金を引けば矢が飛び出す仕組みではあるのだが、この内部がどうなっているのか良く分からない。

 何かの歯車が連結しているということは分かる。

 基本的に自分で修理はしないので、職人に任せっきりだ。

 ギルドマスターにもなると自分で修理したり手入れをしたりする時間が取りにくくなるし、なんならこうして冒険者のような仕事をするのも久しぶりである。

 最後にこうして仕事をしたのはいつだっただろうかと思い出そうとするが、思い出せないまである。


「面白いカラクリであるな」

「そうだねぇー。あ、紅茶いるかい?」

「緑茶が良いのぉー」

「何それ……」


 いつの間にか手の平に紅茶が置かれている。

 何処から取り出したのだろうか。


 ドルディンは三つ分の紅茶を出して木幕とメディセオに手渡していく。

 それを飲んでみるが、やはりこれはあまり好きではない。

 甘ったるいというか……妙な味だ。

 苦虫を嚙み潰したような顔をして、その紅茶から顔をそむける。


「あれ、木幕は苦手かい?」

「好かん。白湯の方がましである」

「そ、それ貴族の前では言わないでね……?」


 その瞬間、メディセオがばっと立ち上がった。

 彼は一つの方向を睨み続ける。


「いたぞ」


 その言葉が示すものはただ一つ。

 まさかこんな近くまで接近しているとは思わなかった。

 すぐさま三人はその方角へと走って向かう。


 木幕とドルディンはまだ気配を感じとれてはいない。

 なので先頭を走るメディセオが頼りだ。

 だがその躊躇のない走り方を見るに、まだまだ遠くに敵がいるということが分かる。


 暫く走っていたが、メディセオが急に止まって後ろの二人を制止させた。

 彼は雪の上にしゃがみこみ、その状態で少し前へと進んだ。

 二人も同じように動く。


 三人がいる場所は崖の上だった。

 顔を覗かせてみると、その下には無数の魔物がたむろっているということが分かる。

 随分と多い。


「……魔族がいるぞ。気を付けねばなぁ」

「い、いるかぁ?」

「某はそもそも魔族を知らん」

「ここにはいない。だが隊列を組みここに魔物を待機させているんじゃ。それだけで指揮する者がいるということが分かる」


 確信するようにそう言ったメディセオは、口元に手を当てて魔物を吟味する。

 何やら不気味な感覚が襲ってきたが、それは一瞬で霧散した。


「帰るぞ」

「ああ」


 三人はバレないように、その場を離れた。

 魔物の騒ぐ声が未だに聞こえている。

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