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5.35.調査開始


 一階に降りてみれば、やはりテトリスが厨房に立っていた。

 彼女は朝の支度を常に任されているらしい。

 やはり津之江はこの店を継いでほしいのだなということがこれだけで分かる。


 しかしテトリスはまだ迷っているらしい。

 どちらにも期待されているということが枷になり、決めることができていないのだ。


 そんな風に見ていると、上からバタバタと音がして誰かが降りてくる。

 もう少し静かにできないものかと嘆息する。

 犯人はレミであったようで、薙刀を持って頭に鉢巻をしていた。


「あ、師匠おはようございます!」

「おはよう。今日は早いな」

「はいっ! 今日は津之江さんに舞いを教えてもらうんです!」

「舞い……?」

「私も良く分かってません!」


 それはどうなのかと思ったが、今日はいつになく元気である。

 朝だというのに大声で会話をしていた。

 だが元気なのは良いことだ。

 そのことにはあえて突っ込まずにそのまま見送ることにした。


 寒い中飛び出していくレミは、なんだか嬉しそうだ。

 今までほとんどのことを教えれなかったことを少し申し訳なく思う。


 そこで、声を聴いていたテトリスがひょっこりと顔を出す。


「あれ!? レミさんもう行っちゃった!?」

「うむ」

「ええ……。朝ごはん食べて行かないと津之江さん怒るよぉ……」


 食にうるさい津之江のことだ。

 その姿は容易に想像することができる。


 この寒い中での稽古だ。

 朝の食事はしっかりとっておかないと、昼まで持たない。

 まぁこれも経験が教えてくれる教訓となるだろう。

 今日は木幕も用事があるし、何も言わずに一人で朝食を取ることにした。


「スゥちゃんは?」

「む、そうであった。起こしてくるから二人分頼めるか」

「はいはーい」


 テトリスはそれを聞いて二人分の朝食をよそいはじめる。

 その間に木幕はスゥを起こしにレミとスゥの部屋へと向かった。


 後は二人で朝食を取り、スゥをテトリスに預けて木幕はギルドへと向かう。

 今日は調査開始の日である。



 ◆



 ギルドに向かってみると、そこには既に多くの冒険者がいた。

 ほとんどの冒険者はいつも通り仕事をやろうと来ている様だが、高位の冒険者はギルドの奥へと入って行っている様だ。

 さて、こういう時はどうすればいいのだろうか。

 招待は確かにされたが、何処に集まればいいとかは何も聞いていない。

 そういう張り紙がある訳でもないし、そもそもあったとしても読むことができない。


 誰か見知った人物が通ってくれればいいのだがと思ってはみるものの、そんな都合よく物事が進むはずがなかった。

 とりあえずギルドの奥へと行こうとしている者たちの後を少し離れてついていくことにする。


 すると、肩を掴まれた。


「やっ」

「む、メディセオ殿」


 そこには布を巻いた武器を背中に背負ったメディセオがいた。

 彼も呼ばれていたのだ。

 相変わらず寒そうにしながら、背に背負っている武器を担ぎなおす。


「お前も呼ばれておったのか」

「ボレボアを倒したのは某だったからな」

「ああ、通りで。じゃがそっちは向かう場所が違うぞ。儂らはあっちじゃ」


 そう言いながら、メディセオはまったく別の方向を指さす。

 どうやら木幕が向かっていた方向は防衛準備のための会議をする場所であり、そこにパーティーリーダーが招集されていただけらしい。

 本来向かうべき方向へとメディセオは木幕を連れて行く。


 向かったのはギルドマスターのドルディンに案内された客間。

 聞いていれば一人でも来ることができたではないかと、木幕は心の中で愚痴をこぼしたが、聞いていなかった自分にも非がある。

 確認不足を反省しながら、その場に集合している者たちの顔を見た。


 その中の三人は見たことがある。

 一人は勇者ティアーノで、もう一人は稽古場で出会ったリーズ、最後にギルドマスターのドルディンだ。

 ティアーノは木幕の顔を見るや否やむっとした表情をして睨みを利かせるが、リーズは嬉しそうに声を上げた。


「やっぱり来たか! 木幕さん!」

「お主もか」

「おうっ! 俺たちは四人でAランクの冒険者なんだ!」

「そうは見えなかったな……」

「おい! 酷いな!?」


 思ったことを正直に伝えただけなのだが、何やら笑いが取れてしまった。

 それを制するようにしてドルディンが咳払いをする。

 冒険者たちはそれを聞いて静かになり、ドルディンの次の言葉を待った。


 ここに居るのは総勢七名の猛者がいる。

 その姿からして確かな実力を有しているということが分かった。


「悪いなメディセオ。出張ってもらって」

「暇だったからの」

「そう言ってくれると助かる。じゃ、簡単に説明するぞ。君たちはメンバーと共に東西南北の方角を調査しに行ってもらう。今日は晴天で荒れる予定はない。今日だけしか調査できないから、今日一日ずっと働いてもらうことになる。負担が大きくなってしまうが、これも民のためだ。よろしく頼む」


 そういった後、ドルディンは大きな地図を引っ張り出してくる。

 どうやらそれはローデン要塞周辺の地図のようだ。


 冒険者たちは基本的にローデン要塞周辺でしか活動をしない。

 今回の調査範囲はその更に奥となる。


「チームだが、木幕とメディセオ。リーズのパーティー、ズーラのパーティー、それとティアーノという形になる。ティアーノは一人の方がいいよね?」

「うん。置いて行っちゃうことになるから」

「だよね。私は木幕とメディセオに付き添うよ。だから一番危ないと思われる方角を捜索するね」


 そう言いながら、ドルディンは地図に一つの石を置く。

 その方角はいつも魔物が進軍してくる方角と言われている東だ。

 他のメンバーは違う方向に行くように指示される。


 今回の調査は時間との勝負だ。

 朝から夜明けまでの調査となる為、準備はしっかりとしておかなければならない。

 しかしそこは冒険者。

 魔法で何とでもなるとの事。


 各々の行く方角が決まったので、準備ができているリーズと知らない二人組はすぐさまその場を出て行った。

 ティアーノもそれに続いていく。


「じゃ、私たちも行くとするかね」


 そう言いながらドルディンは、机の隣に置いてあった剣を腰に携え、小型クロスボウを腕に備え付けた。

 木幕の知らない装備だ。

 興味こそ惹かれたが、それは道中にでも聞くことにしよう。


 三人はギルドを出て調査へと向かった。

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