表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/428

5.28.ローデン要塞の加護宝石


 その宝石を見たドルディンは酷く驚き、宝石に顔を近づけてまじまじと見る。

 そこまで驚くものなのだろうかと、木幕は彼の反応と行動に若干驚いて少し身を引いた。


「木幕さん、これを何処で……」

「ローデン要塞の下町で、薬草を採取した時に凍竜滝(とうりゅうだき)という場所の付近で見つけたものだ」

「下町……」


 木幕の回答が府が落ちないのか、ドルディンは首を傾げて疑いの目を向けてくる。

 とは言えこれは本当のことであり、嘘は言っていない。


 しかし木幕としては、この宝石が危険を察知してくれるものだということしか分かっていないのだ。

 まずはこの宝石について話を聞きたい。


 話を聞いてみれば、これは木幕が感じた通りの性能を持っており、有り得ない高価な物であるようだ。

 魔物の接近を光によって知らせてくれる宝石。

 中には様々な魔法回路が組まれているようで、Sランクの魔物から取れる魔石を使用して作られているらしい。

 貴族や王族などは持っていて当たり前なのだが、一般の兵士には手が出せない代物で、そもそも作ることすらできないのだとか。


 こんな石ころがそこまで高価な物だとは知らず、随分と乱暴に扱ってしまっていた気がする。

 とりあえずこれは誰が持っていたのかを聞いてみた。


「これはローデン要塞の加護宝石で勇者殿が持っているはずの代物だ……」

「そうなのか。持ち主が分かって良かった。で、この持ち主の勇者はどっちなのだ?」

「知っていたか。恐らくだが引退された方の勇者、メディセオ様のものだな。捨てたというのはおかしな話だし、届けてあげるのがいいはずだよ」


 確かにそうだと木幕は頷く。

 元よりそのつもりだったので、後で元勇者のいる場所を訪ねてみることにする。

 だがそれは後だ。

 どうやらドルディンはまだ木幕に話があるらしい。


「まぁ、それは置いておいて……。貴方にはここローデン要塞周辺の調査を行って欲しいのだよ」

「調査?」

「ああ。ここローデン要塞の冒険者でも単騎でボレボアを討伐できるものは少ない。だがボレボアが出現した何処かに魔物が潜伏している可能性がある。発見して報告してくれればそれでいい」


 一見簡単そうな依頼に思えるのだが、ここローデン要塞の冬は厳しく外に出て調査すること自体難易度が高いものになっている。

 スノードラゴンを討伐した時はたまたま天気が良かっただけだ。

 帰っている時には既に雲行きが怪しくなって風も強くなってきていたし、あの中で調査をするのは過酷である。


 碌な装備も整えられていない木幕が長時間ローデン要塞の外で調査を行うのは少し難しい案件だ。

 流石にこれには首を横に振る。


「某だけでは無理だな」

「勿論それは承知している。だからパーティーをこちらで決定して調査に向かってもらう予定だ。東西南北、一チームが一方向を調べてもらう形になる。全てで四つのパーティーを結成するつもりだよ」

「四つの方角を一気に調べるのか。何か見つかった場合はどうする?」

「その場合はギルドにまず報告をしてもらう。その後四つのパーティーを集めて会議だね。大体はその方向に向かうことになるだろうけど」

「まぁ、妥当であるな」


 天候が良く変わるこのローデン要塞では、数日をかけて周囲を調べるのには向いていない。

 なので天候と相談して一気に調べるという作戦なのだろう。


 天候が悪い日は調べることができないと思うので、ほぼ運任せの探索になりそうだと思いながら、木幕は招集するメンバーのことを聞いておくことにした。


「さすがに今回は引退した勇者様にも出張ってもらうよ……。後はS~Bランクの冒険者を募る予定だよ。メンバーの中にSランクの人がいれば死にはしないだろうからね」

「そんなものか」

「戦うわけじゃないからね。調査だけだから……」


 あくまで調査。

 戦いに行くわけではないが、基本的には逃げに徹する戦いを重視してもらうことになっている。

 帰ってきてくれなければ意味がないからだ。


 一日の調査であれば、木幕も問題がないだろうと判断してドルディンの提案に頷いて了承した。

 明日にでも招集がかかるということなので、その時を待つことにする。


「他に何かあるか?」

「いや、今日のところはもうない。明日ここに来てくれさえすれば問題ないよ」

「そうか。では今日のところはお暇させていただこう」

「明日には引退された勇者様も来るだろうから、その時にその宝石を返すといいぞ」

「そうさせていただこう」


 これからギルドは大忙しになるのだが、それは木幕の知らぬところ。

 SランクやBランクの冒険者に連絡を入れたり、今後来る可能性がある魔物の軍団に備えて防衛準備を整えさせたりするのだ。

 今日、ギルド職員は残業が確定した。


 木幕はスゥを連れて、ギルドを後にした。

 どこに行っても何かしらの問題に巻き込まれるなと思いながら、とりあえず今日のところは泊めさせてもらっている津之江の店に帰ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ