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5.22.スノードラゴン


 風は冷たく空気も冷え切っているが、風自体はそんなに強くはなかった。

 針葉樹の木に積もった雪が風で木が揺れるのを完全に抑えてしまっている。


 雲の合間から太陽の日が木幕たちを照らすのだが、それが何とも優しい温かさであり、少しだけ気分が良くなった。

 寒いのには変わりがないが、日が当たるだけで変わってくるものだ。

 道もそれなりに歩きやすいので、体力の消費は思った以上に少なかった。


 木幕はいつもの速度で歩いているのだが、スゥはそれに涼しい顔をしてついてくる。

 息も全く切らしておらずまるで散歩のようにして楽しそうにしていた。

 腰には護身用の小太刀が携えられているが、それはまだ一度も抜かれていない。

 ここで使う機会があればよいなと思いながら、木幕とスゥは前を見てまた歩き始める。


 今回はスノードラゴンの間引きが目的だ。

 この魔物は小さい体をしているのだが、力は非常に強い。

 一匹一匹は大したことはないようなのではあるが、数が数なだけに脅威度としてはBランクと設定されている様だ。


 それを三匹だけ狩ってくれば依頼達成……。

 数が多いのであればもう少し狩っておいた方がいいのではないだろうかとは思ったが、そこはギルドなりに何か策があってのことなのだろう。

 無駄な殺生は好みたくはないので、とりあえずそれに従っておくことにする。


 すると、遠くの方に銀世界と呼ぶに相応しい景色が見えて来た。

 雲の隙間から零れる太陽の光が雪に反射され、キラキラと輝いて見える。

 どうやら日の光で少し雪が解け、また凍って輝きが一層増している様だ。


 広い草原のような雪の原。

 何もないというのがまた良いものだと思っていると、遠くの方で何かが跳ねてこちらに向かってきていた。


 目を凝らしてよく見てみれば、それはスノードラゴンの依頼書に描かれていた絵そっくりの姿をしている。

 恐らくあれが今回の討伐対象、スノードラゴンなのだろう。

 青白い色をしているので、非常に見辛くはあるが雪を泳いでいるためその動きはなんとなくわかる。

 しかし、数が非常に多かった。


 まるでイワシ漁をしている時と同じような数。

 いくら一匹が弱かったとしても、あれだけの数がいればそれはもう脅威の何者でもない。

 流石に三匹だけを殺して回収するというわけにもいかなさそうだ。


「スゥ、少し離れていろ」

「っ!」


 遠ざかっていく足音を聞きいた後、木幕は葉隠丸の鯉口を切る。

 音なくして抜刀し、剣先を下段に降ろして奇術を発動させた。

 針葉樹の葉が舞い初め、それが一気にスノードラゴンへと向かって突撃していく。


 跳ね上がりを狙われたスノードラゴンの胸にその針葉樹の葉が突き刺さり、雪の上を何度か跳ねて沈黙する。

 今の一撃で大多数の数が死んでしまったことに気が付いた他のスノードラゴンは、慌てて身を翻して撤退していった。

 なんとも簡単な仕事だと思いながら、葉隠丸を納刀する。


「っ~!」

「む? スゥ……お主……」

「っ! っ!」


 いつの間にか、スノードラゴンが二匹ほど後方へと回り込んでいた様で、後ろにいたスゥを狙っていたらしい。

 しかしスゥは持っていた小太刀を抜刀して、スノードラゴンを串刺しにしていた。

 見たところ怪我もないようなので、ひとまずは安心だ。


 戦っている姿を見れなかったのが残念だと思いながら、寄って来たスゥの頭をぐりぐりと撫でてやる。

 ここまでできるとは思っていなかった。

 これはレミよりも良い逸材かもしれないなと思いながら、さぁこの死骸を全部回収しないといけないのかと若干気が遠くなる。


 だがやってしまったものは仕方がない。

 殺し過ぎてしまったということも、あとで報告しておこう。

 さっさと魔法袋に回収して持ち帰ることにする。


 しかし近くで見てみると、このスノードラゴンは意外と大きい。

 全長は五十センチから七十センチ程だろうか。

 翼があり、トゲトゲとした厳つい顔と、硬そうな大きな鱗に覆われている。

 トビウオとはまた違うだろうが、生態としてはそれが一番近いだろう。

 そもそも住んでいる場所が違うが、この際それは置いておく。


「……アゴ出汁……んー、食いたい……」


 アゴとはトビウオのことだ。

 木幕の故郷ではトビウオのことをそう呼ぶのである。

 その出汁で取った汁がなんとも濃厚で美味い。

 塩があればもっと完璧なのだが、何せこの世界の塩は高いし品質も悪い。

 あまり期待はできないだろう。


 こいつで出汁が取れるだろうかと、妙な考えに至ってしまったのでとりあえずこれを津之江に出してみることにしよう。

 そう考えた木幕は、奇術でそのスノードラゴンを全部回収していく。


「スゥ。これをこの中に入れてくれるか?」

「っ!」


 手の空いているスゥに、スノードラゴンを魔法袋の中に入れるように指示を出す。

 この子にとっては少し重いかもしれないスノードラゴンだが、これも鍛錬。

 一生懸命運んで入れてくれたあとで、また褒めてやる。


「ご苦労さん。では帰るとするか」

「っ!」


 魔法袋を懐に潜らせ、さぁ帰ろうとした時……。


「む?」


 木幕がいつぞや拾った家紋の様な物が彫られている宝石が光り輝きだした。

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