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5.14.よければ


「それで、木幕さんたちはどういった経緯でこちらに?」

「放浪の旅である。それと修行だ」


 津之江の質問に、軽く答える。

 旅というのは不便ではあるが、様々な経験や知識を与えてくれる。

 この世は知らないことばかり。

 自分の使っている奇術も分からないことばかりなので、それを旅の中で見つけていくのも一興。


「それだけですか?」

「大体はそうだ。お主も天女より聞いているだろう。某の目的は十二人の侍を殺すこと」

「あー、そう言えばそんなこと言われましたね」

「興味はなしか」

「はい。逆にこの生活に満足していますよ。知らない食材、知らない料理、知らない食べ方……。毎日が新鮮ですね」


 津之江は確かに天女であるナリアと出会っている。

 そこで何を話していたかは既に覚えてはいない。

 ただ氷輪御殿という薙刀を奪われて激高した程度である。


 人様の物を奪ってそれを交渉材料に使う神などいてたまるものか。

 偽りの神だと、津之江は考えていた。


 こいつの相手をしてしまったナリアはさぞ大変だっただろうと、木幕は心の内でつぶやいた。

 同情するわけではないが、こういう相手は意外と面倒なのだ。


「で、木幕さんはどうしてレミさんと子供を? それにこの子って……」

「妙な事を考えるでないぞ。これは話すと長くなるが……」

「構いませんよ。今日はもうお店開かないですしね」

「左様か。では……」


 一度姿勢を直してから、木幕はレミとスゥとの出会いについて話し始めた。

 思い出してみれば、レミとの出会いは相当奇妙だった気がする。

 運が良かっただけかもしれないが、妙なところで出会いというものは訪れるものだ。


 スゥは沖田川に騙されて連れてきている。

 約束をした以上違える気はないし、剣も教えて行こうとは考えている。

 しかしこんな寒いところでは学ぶに学べなさそうだ。

 道場でもあれば別かもしれないが、この辺にそう言った建物はなさそうである。


 説明をしている時に、レミが横から口を出してきて間違っていたりする部分を修正してくれた。

 大した違いではないのだが、これは認識の相違だろう。


「いや、村人が畑燃やしたって……畑燃やさせたでしょ……」

「提案したのは某だが、やってはおらん」

「そうですけども……」


 あの時はそうしたほうが良かったのは明確である。

 放っておけば盗賊団の棲み処になっていたかもしれないからだ。


 良い判断であったのは間違いない。

 それは今になっても誰に文句を言われようとも変わらないことだ。


「なかなか面白いことをしてますね」

「いろいろあったからな」

「レミさんは、何か武術を?」

「んー……まだあんまり教えてもらってないんですよね。槍よりも剣の方が今は得意です。でも師匠は剣を教えたくないみたいで」


 それを聞いて、津之江は納得したように何度か頷いた。

 日本刀は女が持つ物ではない。

 例外はあるかもしれないが、普通の日本刀を持ち、流派を学ぶということはほとんどないだろう。

 水瀬はその例外に入る人物ではあったようだが。


 すると津之江は少し考えた後、こう提案してくれた。


「よければ、私が教えましょうか?」

「良いのか?」

「「……ええ!!?」」


 その提案に、テトリスとレミが声を上げて驚く。

 これから戦う相手の仲間に、剣を教えるなどどういう風の吹き回しだろうか。

 それは木幕も分からないところであった。


 しかし彼女の目は嘘を言っているものではない。

 真剣にそう提案してくれている。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ津之江さん! 貴方を殺そうとしている人の仲間ですよ!? どうしてそんなことするんですか!?」

「そうねぇ……。強いて言えば……流派を残したいから、かしら?」


 流派の継承。

 これは開祖であれば誰もが考える事だろう。

 しかし津之江は免許皆伝こそしているが、開祖ではない。

 だが津之江の使う流派を持っている人物は、自分だけであることに少し懸念を抱いていた。


 このまま廃れていくのはなんとも勿体ない程、綺麗な流派。

 無形文化財と呼ばれても差し支えない程のものなのだ。


 何もしなければ、この流派はここで途絶えてしまう。

 新天地ではあるが、この世界の誰かに自分の流派を継承してもらいたいと考えていたのだ。

 しかしそれには条件がある。

 まずは女性であること。

 次に、剣術の基礎を身に着けており、他の邪魔な流派が一切混じっていない人物であるということだ。


 それであればと、隣にいたテトリスが挙手をする。


「私は!?」

「貴方はもう凝り固まってるから無理よ」

「ほぐぅ……」


 津之江の容赦ない鋭い言葉がテトリスに突き刺さる。

 確かにテトリスは剣術の基礎を身に着けていた。

 だが彼女が得意とする武器は薙刀ではなく普通の剣だ。

 誰かから教えてもらった特殊な流派の剣であるということは、彼女の足取りを見ていればすぐにわかる。


 要するに、薙刀を扱えるほど、彼女の動きは柔らかくない。

 長い間一緒に過ごしてきた津之江は、その事を看破していたのだ。


「そこでレミさん。貴方です」

「私……ですか……」


 一度も剣を握ったことのない状態から、木幕が基礎のみを教えて武器だけを薙刀に変更。

 だが薙刀の足捌きや動きなどを木幕が知っているはずもなく、教えることもできないのでそのままにしていた。

 それが最善だと思っていたからである。


 だが自分の身を守れるだけの動きだけは身に着けている。

 それも剣術としての。

 そして基礎以外誰にも教わっていない技や足捌き。


「完璧な逸材です! 木幕さん! 是非彼女に私の流派、永氷流を教えさせてください!」

「構わんぞ。それで強くなれるのであれば尚更だ」

「うぇええ!? いいんですか!? 師匠!? 葉我流は!?」

「某の流派は成長することを見越した流派。真似て吸い込め。己がものとせよ」


 木は知らない間に成長する。

 一つの流派に拘らず、使えると思ったものは自分のものにしていけばいい。


 葉我流剣術裏葉の型はそうやって作ったものだ。

 そして今は四つの型がある。

 全て彼らに教えてもらった、良い技である。


「よっし! じゃあ早速稽古しましょうねレミさん!」

「え、あ……は、はい! よ、よろしくお願いいたします!」

「んーいい返事ね! 薙刀は持ってるみたいだし、すぐにでも稽古に移れるわ。あ、宿はここを使って頂戴」

「津之江さん!!?」

「余ってるんだからいいじゃない」


 どうやらテトリスは、木幕たちが同じ屋根の下で暮らすことに反対している様だ。

 無理のない話ではあるだろうが、そこはここの店主として断固として譲らなかった。


「よしっ! 早速行きましょう!」

「は、はい!」

「励めよ」

「っ~!」


 引っ張られていくレミを、とりあえず二人で軽く手を振って見送った。

 そして、問題児だけがここいに残ったのだった。


「……」

「っ?」

「うっ……」


 鋭い形相でこちらを睨んでいたテトリスだったが、流石に子供にまでその視線を向けることは憚られたようだ。

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