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5.6.一安心


「スゥちゃん飲める?」

「っ」


 手渡した薬を自分で飲み、宿屋の店主に用意してもらった白湯を飲ませる。

 とんでもなく渋い顔をしながら口直しとして白湯を一気飲みにするスゥ。

 良薬口に苦し。

 相当苦かったのだろう。


 だがまだ自分で薬を飲める分には元気だ。

 これであれば完全に風邪は引かないかもしれない。

 ほっと一息ついた木幕とレミは、長旅の疲れを癒すためにベッドに腰かける。

 木幕の部屋は違うが、スゥが寝付くまではとりあえず一緒にいてやろうと思っていた。


 とりあえずは一安心だ。

 長旅で疲れていたのか、ポスッと布団にくるまって寝てしまう。


「そ、そういえば師匠……」

「どうした?」

「あのー……実は宿屋の店主さんから話を聞いたんですけど……。いや、まずその前に要塞の方に行く予定はありますか?」

「ある。とりあえず見ておきたいからな」

「あー、そうですか。となるとですね……」


 少し言いにくそうにしながら、レミは木幕に聞いたことを話した。


「要塞の方に行くと、二ヶ月は動けなくなるそうです」

「……なに?」


 元々雪が多い国。

 それは奥へ行けば行くほど酷くなっていき、ローデン要塞に至ってはこの真冬の時期は身動きすら怪しくなるほどの猛吹雪と積雪に見舞われるのだという。


 だがそれは今の時期でも同じだ。

 問題なのはその道中。

 この中継地点からローデン要塞までの道のりは、まず山をある程度登ってから下り坂となる。

 登りまでは普通に行くことができるのだが、その下りが問題らしい。


 中継地点は大きな山に遮られて強い風は入ってこないが、その山を越えると暴力的な猛吹雪が襲うのだという。

 下り坂なので要塞に行くことはできても、ここに戻ってくる事はあのクープを使っても不可能なのだとか。

 そしてその猛吹雪の時期が過ぎ去るのは二ヶ月後。

 それ以降でなければ山を登ることはできないのだという。


 もしそこに探している人物がいなかった場合、完全に無駄足となり、足止めを二ヶ月も喰らってしまうのだ。

 中々に決断がいる事だったが、行かないという選択肢はない。


「その時は運がなかったと諦めるだけだ」

「ま、そうですよねぇ……」

「それに、鍛錬にも励む時間が増える。それはそれで良い」


 ここは強い魔物が出ると聞く。

 であれば修行に持って来いの良い場所だ。


 なんとなく木幕の考えていることが分かったレミは少し引き気味にその話を受け流した。

 まず次元が違うのだから、できるだけ手加減をして欲しい。

 そもそも木幕にとってはこの辺の魔物は相手にならないのだから、その辺を考慮してもらわないと本当に自分が死んでしまいそうで怖い。


 というより奇術が強すぎるのだ。

 マジックウエポンとも劣らない特殊過ぎる武器。

 同郷の人は全て何かしらの能力を持っている。

 だが、使用者が死ぬとその能力も武器には残らない。


 本当に不思議だ。

 普通は使用者が死んでも能力自体は武器に宿っているので誰でも使える。

 無意識に武器に能力があると思い込んでいるだけで、本当は本人の力なのかもしれないと、レミは思っていた。

 武器を抜刀している状態でしか発動していないので、武器自体に能力があると見えても仕方がないが……どうなのだろうか?


 本人に聞いても分からないと言われるだけなので、まだしばらくは観察を続けようと思った。


「というかあれですよね。今まで凄い運が良くないですか?」

「む? ……言われてみればそうであるな。行った国には必ず一人はいた」

「ですよね。これも、仕組まれている事なのでしょうか?」

「……さてな」


 順調すぎる、と言ってしまえばその通りである。

 空振りしなかったことが一度もないのだから。


 これもあの女神が仕組んだことだとすると、辻褄は合ってしまうが……。

 大方探させるのも面倒くさいのだろう。

 あの女神が見たいのは、その戦いだ。

 暇つぶしでコマを盤面に放り投げているだけだが、国への移動をしてもらわないと会う事は出来ない。

 一気に潰し合わさせても面白くないのだろう。


 つくづく癪に障る。

 言葉に出せないその苛立ちを大きなため息に乗せて吐いた。


「幸せが逃げますよー?」

「フッ。スゥの体調が戻り次第出立だ」

「分かりました」


 今日は疲れた。

 長旅からの採取依頼。

 慣れていない雪道を長期間歩くのはなかなかに堪えた。

 疲れを癒す為、ゆっくり休むことにした木幕は自分に当てがわれた部屋に足を運んだ。


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