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5.5.風邪薬


 往復二時間という速度で帰って来た木幕は、早速薬師に薬を調合してもらう為に戻ってきていた。

 早すぎる帰りに驚いてはいたようだが、これくらいは朝飯前だ。


「早かったなぁ……」

「他愛もない」

「それに多い……」


 ごっそりと机の上に山積みにされたカポエ草。

 量と鮮度を一つ一つ確認し、それを小分けにして袋に詰めていく。

 質の良い物は薬になった後は一時的ではあるが保存ができるようなので、質の悪い物から順に調合をしていくらしい。


 十分な量が集まっているし、これらは根から取られている物だ。

 これであれば周辺の雪に植えて長期の保存ができる。


「いやはや、助かった」

「構わん。困った時はお互い様だ」

「是非腕を振るっている冒険者に言って欲しい台詞よ」


 ごそごそと調合するための道具を準備し、早速薬を混ぜていく。

 作るのにはさほど時間がかからないらしいので、木幕はここで待たせてもらうことにした。


 ゴリゴリと薬草を潰す音だけが響く中、そう言えば彼の名前を聞いていなかったという事を思い出して聞いてみる。


「お主、名は何という」

「僕はリトル。リトル・アーデルイド。見ての通りの薬師さ。君は?」

「某は木幕という。とりあえず冒険者だ」

「はぁ~。強そうなのに慢心していない人ってのはこんなにも良い人なんだねぇ」

「まだ未熟だ」

「ご謙遜を。そのローブ着てるんだから強くないわけないでしょ」


 リトルは調合中に余している手を使って、木幕の着ているローブを指さす。

 レッドウルフのローブだ。

 何故これを着ているだけでそう言われるのだろうか?


 聞いてみると、レッドウルフを狩れるだけの力を持つ冒険者というのは、この国では優遇されるらしい。

 それ程強い魔物だった気はしないのだが、称賛されるのは悪い気はしない。


「そんな強い狼だったか?」

「いやーそんな言葉初めて聞いたよ」


 多分ここでそんな言葉は二度と聞かないだろう。

 そんな事を平然と言う木幕は、初対面のリトルであっても彼が腕の立つ人物だという事は理解できた。


「はい、風邪薬。それと、薬草の料金。薬は液体だけど、それは温かい水と一緒に飲ませてあげてね。三日たって改善しない場合はまた来て。そしたら新しい薬を作ってあげるから」

「かたじけない」

「こっちこそ助かったよ。木幕さんが出て行ってから結構風邪薬求めてくる人がいたんだ。今頃薬の依頼がギルドに貼られまくってるだろうね……」


 リトルは基本的にギルドに依頼は出さない。

 店を離れることが出来ないというのもあるが、依頼をすると出費が重なるところが大きいだろう。

 色んな手順を踏み、冒険者への報酬金、数に応じた買い取りなどを続けていれば薬が余ってしまうからだ。

 それに今回の風邪薬は必要な時に必要な分だけが欲しい。

 備蓄ができないからこそ、どれだけ需要があっても依頼だけは出さないようにしているのだ。


 不良品を扱っていると思われても困る。

 昔、需要のある薬の素材を依頼して余し、その素材の効力が消えて殆ど効果のない薬を売りつけたとして薬師の職を離れざるを得なくなった同僚がいた。

 それを間近で見ていたものだから、こういう事には警戒心が強くなってしまっている。


 それにここに薬師は一人しかいない。

 信頼がものを言う業界で、失敗はほとんど許されないのだ。


「っととと、ごめんね。変な話だったかな」

「いいや、良い心がけだ。お主の様な跡継ぎが見つかることを願っている」

「僕も切に願ってるよ。誰かいたら連れてきてほしいものだね」

「善処はしよう。では某は行く。薬、確かに受け取った」

「きーつけてなー」


 扉を開けて寒い風が吹く外に出る。

 雪が光を反射して目に刺さってくるので、少し眩しい。


 さて、暫くはここに厄介になるのだ。

 できるだけ彼の支援はしてみるとしよう。

 良い志を持っている者には何かとやってやりたくなるものだ。


 とは言え、今の本当の目的を忘れてはいけない。

 そろそろスゥにこの薬を持っていくとしよう。

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