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5.4.凍竜滝(とうりゅうだき)


 外に出てみると吹雪は去っている。

 指定された場所に到着した木幕だったが、その幻想的ともいえる美しさを持つ滝を前にして固まっていた。


 凍竜滝(とうりゅうだき)

 もう一度方角を聞いた時、そのような名前で呼ばれていた滝だ。

 自然が作り出した物とは思えない程の美しさがそこには眠っていた。


 高さは約十三メートル程だろうか。

 そこから飛び降りてくる水は完全に凍っており、それが竜の顔を模しているかのようだ。

 続く下の水も凍り付き、滝を登っていく姿が見て取れる。

 普通流れのある水は凍らないと思うのだが、今目の前にある滝は完全に凍り付いていた。


 どうやら岩の配置が少し特殊らしい。

 ゆっくりと凍っていき、最後には氷が水をせき止める形になっている様だ。

 その為滝から水が飛び出し、受け皿の様になって流れてくる水がこうして凍ってしまっているのだろう。

 下に続く滝壺も、水が流れてこなければ凍るしかない。

 だが少し水が少なくなっている様だ。


 こんな所もあるのかと驚いたが、当初の目的はこの光景を見る為ではない。

 その周辺に生えているカポエ草を採取する為に来たのだ。

 幸い採取依頼を誰も受けていないこともあって、沢山自生していた。

 それを持っていた魔法袋の中に詰め込んでいく。


 手元に資料もあるので、間違えることは無い。

 白色の少し細い形をした葉。

 地面ではなく雪に生えているという特徴からして、これで間違いないだろう。


 こんな簡単なことで金を手に入れることが出来るのに、全く腕の立つ者は何をしているのだと悪態をつく。

 確かに強ければ強い程死なないし、褒められるし、金も多くもらえる。

 それは間違った事ではない。

 ただ、自分の為だけに行動をしすぎる節があると、今までの冒険者を見ていて思っていた。


 まぁそれは人それぞれの在り方。

 自分が口出しする権利などない。

 ちょっと外に出るだけでこうしてお金を稼いでスゥの薬を作り、尚且つ他の人々を助けられるのであれば、これほど誉なことはないだろう。

 自分の自己満足と行ってしまえばそれまでではあるが。


「しっかし……多いな……」


 随分採取したつもりだったのだが、まだまだ様々な所に群生している。

 特に木の下には多く生えている様で、鷲掴みで取ることも出来そうだ。


 もしかするとここを知っている人が少ないのだろうか?

 いや、この場所を聞いて普通に地名まで教えてくれるほどだから、知らないことはないはずだ。

 やはり薬草の知識を聞かないから採取をすることが出来ないのだろうか?


 今回はギルドではなく直接薬師に頼んでの依頼だ。

 ギルドではここまで詳しく説明してくれないのかもしれない。

 そんなことはないと信じたいが……。


「む?」


 腰を伸ばしていると、妙に煌めく物が目に入った。

 凍っている川を渡らなければならないが、意外とすんなりと通ることができた。

 完全に凍っていなかったらどうしようかとも思ったが、思いっきり叩いて確認したので問題ない。


 雪に沈む足を持ち上げて、その煌めく物の場所まで近づくと……。


「? なんだこれは」


 家紋の様な物が彫られている宝石がそこにはあった。

 なんとも器用なことをするのだろうかと感心したが、どうやら宝石を張り付けている台の下に家紋を掘り、その上から透明度の高い宝石をはめ込んでいるだけの様だ。

 この国の細工師もなかなか技術力が高い。


 砦と門を基調としているその家紋。

 こういうのは何処かのお偉い貴族などが持っていることが多い。

 バネップの屋敷でも似たような物があったので、この持ち主はこれを無くしてさぞ困っている事だろう。


 会えるか会えないかは別にし、とりあえず持っておくことにする。

 大切な物であれば、探し回っている可能性もあるからだ。

 もし会えない様であれば、その辺にいる貴族に話を聞くことにしよう。


 そう思い、宝石を懐に仕舞い込んだ。

 さて、もうやることは無い。

 さっさと帰って薬を煎じてもらわなければならないので、すぐに帰路についたのだった。

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