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4.56.奇術……雷神の雷鼓


 一体何人に囲まれているのだろうか。

 ざっと見ても数十人だという事が分かるが、実際にはもっといるかもしれない。

 まぁ数えても仕方がない。

 ただ飛んでくる敵から始末していけばいいだけの話。


 さて、敵は奇術を使うのか使わないのか。

 使うのであればこちらも使わせてもらうし、使わないというのであれば同じ土俵で戦う事を勝手に約束するのだが、どうにも何かの呪詛を唱え始めている輩がいる。

 これは早々に仕留めておいた方が良いかもしれない。


「沖田川殿。背中は任せる」

「老いぼれに期待するでないぞ?」

「謙遜を」


 そこで、木幕の後ろから有り得ない程の圧を感じた。

 耐えれないという事はないが、ここに生半可な気持ちで立っている者であれば膝から崩れ落ちてもおかしくはない。

 実際に数人がドサッと地面に腰を落としてしまっている様だ。


 沖田川は全力を持って敵と対峙していた。

 目が大きく見開いているが、その表情は恐ろしいものだ。

 その目からは柔和な老人とは全く別の、双眸のない骸に睨まれている様な重圧がのしかかってくる。

 当の本人でも、ここまでの圧が出せるとは思っていなかった。


 だがこれには理由がある。

 彼は今しがた研ぎを終えたばかりであり、その集中力は未だに体に残っていたのだ。

 全盛期を遥かに超えるこの集中の境地。

 敵が一歩でも動けば全てを蹂躙してしまう程の危うさがあった。

 そのおかげで詠唱が止まったのは有難い事でがあったが。


 だが流石は暗殺部隊。

 その圧に負けず飛び掛かってくる。

 敵は五人。

 居合術はすぐに捌くことのできない数だ。

 だが、沖田川は全く心配をしていなかった。


「雷閃流奇術……」


 バチリと沖田川の体に電気が走る。

 雷は手に集まり、静かに小さく消えていく。

 その間にも敵は沖田川に接近しており、各々の持つ得物を振りかぶって攻撃を仕掛けていた。

 上から降ってくる者、正面から飛び上がって攻撃してくる者と様々だ。


 そこでカッと目をもう一度見開き、左足をズザッと引いて止まった。


雷神(いかづちのかみ)雷鼓(らいこ)


 ズドンッ!!!!

 雷が落ちる様な音が鳴った瞬間、飛び掛かってきていた敵が静止した。

 それは空中にいる者も同じであり、時間が止まったかのように動かない。


 パチン。


「八閃」


 途端、彼らはバラバラに崩れていく。

 荒い斬り方ではあったが、あの一瞬で八度の攻撃を行っていたらしい。

 その証拠に、時間差はあるが地面が八回ほど抉れていく。


 それに巻き込まれた者もいて、敵の数は少しばかり減った。

 だがこれで士気はガッタガタに落ちた事だろう。


 神の御業を持つ沖田川藤清。

 名前も神にあやからねばならないと思い、このような技名を付けた。

 奇術と武術の合わせ技。

 木幕が嫌っていたことを、この老人は簡単にやってのけた。


 彼は己の自尊心を守るよりも、子供たちを絶対に守れるほどの強さを欲した。

 それがこの結果である。

 元より雷閃流は沖田川が開祖。

 これをどのようにしたとしても彼の自由なのだ。


「な、な……何をしたんだ!」

「斬っただけじゃ」

「クッ……遠距離での攻撃に変更! 魔法を撃て!」

「隊長声でけぇよ」


 指示を合図に周囲の者が魔法を唱えていく。

 単体攻撃を得意とする沖田川にこれを捌くすべはない。


「忘れてもらっては困る」


 木幕は、“周囲の草木”を操って詠唱を開始している者に攻撃を仕掛けた。

 それは地面に生えている草を刃とし、足元から串刺しにする技。

 このようなことも出来るのかと驚いたが、その威力はえげつなかった。


 相手の防具が布というのもあるのだろうが、殆どの敵はそれで倒すことができてしまったようだ。

 だが相手が奇術を使うのであればこのような戦い方をしても問題はない。

 これは自分で決めた事だが、やはりこの奇術は強すぎる様だ。


「お、おいおい……聞いてねぇぞ……」

「逃げるぞ……! 上に伝えなけれ──」

「……あ? !?」


 隣を見てみれば、隊長の首が消えていた。

 そして目の前に、あの老人が恐ろしい形相でこちらを見ている。

 反射的に動こうとした体だったが、それを本能が阻止してしまう。

 動けない間に何連撃を入れられたか分からないが、痛覚が脳に伝達されるより先に意識は手放されていた。


 敵はいなくなった。

 後は部屋に残る者だけだが、どうやら善戦している様だ。

 これであればいく必要はないかもしれない。


 すると、沖田川が歩いてきた。

 いつもの優しい表情で木幕の顔を見るが、何か様子がおかしい。

 だが、何を考えているのかは理解できた。


「この混乱に乗じてやり合うのか」

「それが一番良いと思うのじゃ。どちらかが死んだら、こいつらにやられたと言っておけばよい。そうすれば、子供も、弟子もどちらかを恨みはせん……」

「……」


 木幕はそれを聞いて、静かに構えた。

 沖田川も距離を取って体勢を少し低くする。


 沖田川の言っていた事。

 これは木幕も考えていた事だ。

 どうすれば彼らを悲しませずに果たしあえるのか。

 このような機会が来なければ即座に決断できなかっただろうが……やらなければならない。


「そう言えば、約束は?」

「お主が勝ったら、話そう」


 それを聞いて頷いた木幕は、初めて本気の圧を放った。

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