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4.46.稽古①


 目を覚ますと、周囲は既に明るく太陽が窓から見えていた。

 どうやら少し寝過ぎてしまったようだ。

 昨日の酒が堪えたかもしれないなと思いながら、窓を開けて空気を入れ替える。


「やぁ! とぉ!」

「せい! はぁ!」

「よーし、いいぞ皆! 後百本!」

「「「うえー!?」」」


 外から子供たちの声が聞こえる。

 指導しているのはライアだ。

 皆の前に立って手本となり、一緒になって木刀を振っていた。


 そう言えば、まだしっかりと子供たちの相手をしたことは無かった。

 彼らの名前も言えるかと言われれば少し怪しい所ではある。

 何せこの世界の名前は覚えにくいのだ。

 だが、それでも子供たちの性格は全て把握していた。


 子供たちは全てで七人。

 男の子が五人で女の子が二人だ。


 上から見ているが、全員筋がいい。

 まだ連続で振る時は乱れが生じてしまう様だが、それでも十分様になっている。

 後は実践と経験を積めば、すぐにライアを超す武人となれるだろう。


 今日は特にやることもないので、子供たちの面倒を見てみることにしよう。

 そう思って部屋から出た木幕は、この屋敷が全て綺麗になっているという事に今更ながら気が付いた。

 どうにも酒を飲むと意識が散漫になって覚えていることができない様だ。


 皆頑張ったんだな。

 そう思った木幕は、子供たちに何か褒美を取らせてやらねばならないと思いながら、階段を降りる為に廊下を歩いていく。

 だがその道中、背を向けて歩いているシーラの姿が目に入った。


「シーラ殿」

「はいっ!?」


 肩を上げて驚かれてしまった。

 これは申し訳ない事をしたと思い、謝ろうとしたのだが……何か様子がおかしい。

 驚いているというのに片手だけは絶対に木幕に見せようとしないのだ。

 何か隠していることは明白ではあるが……。


「驚かせたか。すまん」

「いえいえ! 大丈夫ですよ……はははは」

「……今日は何かするのか?」

「あーそうですね。とりあえず片付いた部屋の荷物整理でもしようかと……。高価な物とか多いですし!」

「左様か。某は子供に稽古をつけてくる。レミは何処だ?」

「まだ寝てますよ」

「では、起きたら来るように言っておいてくれ」


 とりあえず普通に接しておき、横を通り過ぎていく。

 だがやはり背に隠している物を見せる気はないらしい様で、正面は常にこちらを向けていた。


 妙な動きではあったが、この屋敷で高価な物でも見つけたのだろう。

 今木幕が持っている物に比べたら、その様な物は石ころ同然の値打ちの物ばかりだ。

 特に気にする必要はないだろう。


 扉を開けて庭に出ると、素振りをしている子供たちが目に入る。

 彼らも木幕の存在に気が付き、元気のいい挨拶をしてくれた。


「木幕さん、おはようございます」

「おはよう。今日は某も暇だ。付き合ってやろう」

「おお、それは有難いですね! 子供たちもしっかりしたご飯が食べれるようになって、体力も付き始めたんです! という事で皆! あと二百本!」

「「「増えてるー!!」」」


 文句を言いつつも、うりゃああああと叫びながら木刀を振っていく子供たち。

 強くなるためにはこれ以上の鍛錬が必要だ。

 こうしてがむしゃらにやっていくのも間違いではないが、やはり連続でやっていると基礎が疎かになりがちである。


 子供たちの近くに寄り、間違った振り方を正していく。

 その中で一番筋がいいのはスゥだ。

 切っ先で弧を描くようにして振っている。

 足捌きも綺麗だし、背筋も伸びていて頭も動いていない。

 木幕が教えることが無い程に綺麗な物だった。


 それに比べて……元気な性格のウルスという少年とウィリという少女はガッタガタである。

 全てにおいて力任せに振っているせいで、素振りをした時の一閃がぐちゃぐちゃだ。

 足も踏み込むようにしているので、これでは変な癖がついてしまう。


 なので、お互いを向き合わせた状態での素振りをさせることにした。

 力が強く、地面すれすれまで切っ先が降りていたので、今度は相手の頭の手前で止めさせる。

 その事により全力での素振りができなくなり、お互いに当てない様にと慎重になった。


 だが、まだ良くない。

 今まで矯正されなかった為、妙な癖がついてしまっているようだ。

 楽をして振ってはいけない。


「左手のみで振って見よ。柄頭だけを持つのだ」

「え? ……おっ……も!」

「右手に力が入り過ぎている。左手だけで振ることを意識せよ。右手は支えだ」

「こうですか?」

「持ち方はこうではない。力任せに握ると拳が丸くなる。人差し指と親指の間で柄に添え、次に手の平を添え、小指から順に握り込む。力を入れるのは小指と薬指だ」

「こう?」

「よいぞ。右手も同じようにするのだ」


 これにより、構えは良くなった。

 足捌きと一緒に教えるとどちらか一方に集中してしまう為、まずは一番大切な握りから教える。

 足は動かさずに木刀を振ってもらい、体になじませる。

 だが構えだけは取ってもらわなければならないので、右足を前に、左足を半歩後ろに。

 そして左足のかかとを少し上げた状態で、左足三、右足七の体重比率で立ってもらう。


「振り方は天を突き上げつように押し上げ、左手の小指と薬指に力を入れて剣先で弧を描くように振り下ろし、雑巾を絞るように握って止める。止める位置は相手の頭。力任せに振るでないぞ?」

「「はい!」」


 それから二人はゆっくりと素振りをするようになった。

 相手が正面にいる為、真っすぐに振り下ろせているかどうかが自分からも相手からも分かる。

 何か間違いがあればすぐに指摘し、軌道を修正、握りを確認してもらう。

 とりあえずこの二人はこれで良さそうだ。


 あと四人。

 どれもあまり良くない振り方だが、それからどの様な剣が似合うのかが想像できる。

 だがまずは基礎を固めなければ、得意な剣など握らせることも難しい。

 まずは全員に基礎を叩き込むことにした木幕は、一人一人回って教えていった。

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