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4.44.許された一閃通し


 号令がかけられた瞬間、西形は低姿勢になって槍を下段に構える。

 足はまっすぐ前を向いており、いつでも飛び出せる準備が整った。


 木幕はそのまま中段に構えて相手の動きを見る。

 目線は合っており、相手もこちらの動きを探っているように感じた。


「生光流……」


 すーっと槍を後ろに引き、槍の長さを隠さんと身を前に出す。

 面白い動きであり、あれでは手元が見えない。

 するとすぐに動き出し、左足で地面を蹴って大きく踏み込んだ。


「一閃通し!」


 槍が飛んできてから、ようやく今の構えを見ることができた。

 西形の左手は正手持ちだが、前にある右手は逆手持ちだ。

 この構えは……。


「はっ!」

「せいっやぁ!」


 曲がりながら伸びてくる突き技。

 右手の位置を動かしていないので、左手で突き抜く方向を決められる。

 普通に見れば真っすぐ飛んできているのではあるが、攻撃される側からはそれがどうしてか曲がっているように見えた。


 木幕はその突きを軽く受け流し、ずるりと懐に潜り込む。

 だが相手の構えが槍を持つ普通の構えではない為、すぐに槍を縦に立てられて次の攻撃を阻止してくる。

 だが打つと打たないでは全く別の行動が可能となる。

 木幕は今回、攻撃を打たないことにした。

 その事により攻撃が来ると考えていた西形は大きく後退して距離を取ろうとする。


 だがそれを見逃すわけにはいかない。

 刃を向けられる前に間合いを殺し、一撃を与えたい。

 ここまで来れば槍を使う者の行動は限られてくる。


 下段に刀を下げて西形の槍を押さえ続ける。

 これを破られるとかち上げられかねないからだ。

 西形もそれができないことに気が付いてから、また違う行動を取った。


「ふん!」


 下段から持ち上げるのを止め、石突の方を振り下ろして木幕に攻撃した。

 良い判断だと思ったが、この動きを木幕は知っている。

 槍術と棒術を組み合わせた葉我流には、その動きが備わっていたのだ。


 身を半歩横に引いて、その攻撃を回避。

 刀が後方に流れて停止する。

 そして勢いを付けながら西形の空いた胸に攻撃を繰り出した。


「よいっ!」

「む!?」


 あり得ない程の低姿勢。

 上半身に攻撃を仕掛けた攻撃はあっさりと回避され、今度は木幕の方が隙を見せる形になってしまった。


「生光流、一閃通し!」


 ギンッ!

 間一髪下段に振り下ろした葉隠丸が一閃通しをいなした。

 流石に間合いが悪いと感じた木幕は、一度距離を取る。


 西形は追いかけようとせず、そのまま突きを繰り出した状態から動かない。

 そしてゆっくりと立ち上がってまた低姿勢の構えを取る。


 あの低姿勢から足を滑らせながらの体勢の立て直し。

 下半身の筋力と体幹があってこそできる技だ。

 あれだけの速度の攻撃を放っていただけはある。


「……一閃通し。どの様な構えからも打ち出せる突き技か」

「そうです! 細かく見ていけばそれぞれに名が付くでしょうが、叔父上は突くことには変わりない、本質は全て同じだと教えてくれました!」

「良い技であり、厄介な技だ」


 片鎌槍であるからこそ、その攻撃範囲も広くなる。

 西形はしっかり狙っているのか、飛び出している刃の方を木幕の方に向けて突きを繰り出していた。

 全ての攻撃がそうだ。

 単純な事ではあるのだが、丸い柄を握っての方向転換は思っているより難しい。


 長く槍を持っているからこそ、その感覚を理解できているのだろう。

 修行の成果と行ってしまえばそれまでだが、そこに辿り着くまでには相当な鍛錬を行ってきたはずだ。


 感心していると、次の一手が繰り出される。

 低姿勢からの突き技であるのは間違いないが、今までと違い普通の突きに近い。

 これであれば簡単に往なせると思って刀を振るうが、やはり簡単に往なせた。


 だが次の瞬間、槍が消えた。


「ホヒュゥ……」

「速い」


 突きは今まで通りの速さだ。

 だが構え直す時の引きの素早さが尋常ではない。

 確かに押し出すより引き戻す方が速いのだが……。


「シッ!」


 これも往なすことに成功した。

 だが、やはり往なされた後の引き戻しが早過ぎて中に潜り込むことができない。


 それに加え、先程よりも速度が上がっているように感じる。

 この感じは何処かで見たことがある気がする。

 いや、実際に対峙したことは無い。

 だがこの異様なまでの攻め辛さ。


 居合だ。

 まるで納刀している刀をいつ飛び出させようかと睨みを利かせている居合である。

 来る方向は分かっていても、その攻撃の速度は普通の斬撃の比ではない。

 あり得ない程の集中力から生み出される無言の圧。

 西形もその境地の片鱗を有していた。


 彼は既に許されているのだろう。

 突き技の境地の片鱗を少しでも浴びているのだ。

 今は一閃通しも、やはりこの主を選んでよかったと喜んで柄を握らせてくれているように感じた。

 やはりここに呼び出されるだけのことはある。


 ギンッ! カッ!

 二度の突きが繰り出された。

 やはり速度が徐々に上がっている。

 大きく開いた足が土台となり、腕への集中を高めている様だ。


 狙いも寸分たがわず木幕を狙ってくる。

 片鎌槍の刃もしっかりとこちらを向いていた。


「やるな」

「ホヒュゥ……。有難う御座います」

「では、某も技を繰り出そう……。葉我流剣術、伍の型……枯葉」


 葉隠丸を下段に下ろし、すり足で西形に迫った。


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