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4.42.夢の中の説教


 スッパアン!!


 手の平で頬を思いっきりひっぱたかれる音が響いた。

 それは一度だけではない。

 数十回に及んで鳴り響いており、その場に居合わせてしまうことになった男はその光景を白い目で見ていた。


「……」


 槙田正次。

 木幕に殺されて精神世界に魂を置いている男だ。


 残念ながら木幕は槙田の頼みを聞かずに西形からこの世界に送り込んだ為、暫くの間いじけていたのではあるが、女が来たとなればそうも言っていられない。

 水瀬と呼ばれる人物の魂がこの空間に到着した瞬間すっと立ち上がって近づいたのだが、彼女はそれより先に動いて西形の頬を思いっきりぶった。

 そして今に至る。


 死んでからこの空間に来るのには少し時間を有してしまうらしい。

 だが時間は決められているらしく、死んでからぴったり一週間。

 とは言えこの空間は時間軸の流れが違うのか、木幕のいる所では随分時間が進んでしまっていた。

 妙な感覚だ。


 まぁそれは別に問題ない。

 今着眼するべきはこの状況を止めるか否かである。


「あんたって子は本当にもう!!」

「あぐっ! ふべっ! ごめんなふぶっ!」

「……」


 気が付いていないのか、それとも気にしていないのか。

 もう既に槙田は止めに入ることは出来そうにない程の圧が水瀬から放たれていた。

 あれに触れてしまえば自分も巻き添えを喰らうことになってしまうだろう。

 流石にそれは避けたい。


 なんせ女性からのあの仕打ちは痛くはないが、胸が痛むのだ。

 それが他人だとすれば尚更だ。

 何がどう悪かったのかすら分からない状況でひっぱたかれる人の気持ちにもなって欲しい。


 というか、水瀬は何故あそこまでがっちりと西形を拘束で来ているのだろうか。

 体も軽いはずだし、どかそうと思えばどかせそうだが……。

 良く見てみると、彼女は両膝で西形の両腕を完全に抑えこんでいた。

 腕が使えないとなれば、あの状況で動く事は難しいだろう。


 そして塞がっていない両手は千手観音の如く動いて西形の頬を捉え続える。

 見ているこちらが痛くなりそうだ。


「あんたのっ! 考えはっ! 浅はか! すぎるっ! 人を! 子供を! 殺して! 何にっ! なるとっ! 言うのっ! ですかっ!」

「──」

「お、おいぃ……。その辺にしておけぇ……」

「あ゛?」

「ぬぅ!?」


 女性がしてはいけない目線がこちらに向けられた。

 蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事だろう。

 この自分が、鬼のように強いと謳われた槙田の体が強張ってしまった。


 ちゃっかり震眼を発動させてその恐ろしさを増幅させている。

 細かく揺れている眼球はここからは見えないが、その目の開き方は独特だ。

 その不気味さは良く伝わる。


「あっ」


 そこでようやく槙田の存在に気が付いたのか、威嚇を解いて立ち上がる。

 ついでに思いっきり頭を蹴り飛ばしたが、それは見なかったことにしておこう。


 その後の彼女の動きは非常にしなやかだった。

 きっちりとした教育を受けて来たのだろうという事が分かる。

 女性らしい動きをしながら、手を前に置いて腰を折る。


「お初にお目にかかります。水瀬清と申します」

「ぬ、うむぅ。槙田正次だぁ……」


 あの威圧からこのような動きをされては、彼女の本質がどちらか分からなくなりそうだ。

 恐らくは前者であろうが、流石にそれを聞くには憚られた。


「因みにぃ……あれは……」

「愚弟です」

「まぁ知っておるがなぁ……。見ていたのでなぁ……」

「そうでしたか! でしたら話が速いです。ちょっと今から細切れにしようと思うんですけど、抵抗されても面倒ですし抑えておいてはくれませんでしょうか?」

「拷問の趣味はないぃ……」

「あら、残念」


 にこやかな笑顔でそう言うと、この空間で再生されている鏡面鏡を抜刀して西形に近づいていく。

 彼女としては子供を殺したことがどうしても許せないのだろう。


 とは言えやろうとしていることはあまり宜しい物ではない。

 止めに入るべきかとも思ったが、この空間で死ぬのかどうかという事も気になるところだ。

 それに西形がいなくなれば女性と二人きりではないか。

 そうであれば清く死んでもらった方が都合がいい。


 うんうん、と一人で納得しながらその様子を見ていたが……。

 流石に拷問が趣味の女性とは反りが合わないだろうなという考えに至った。

 今から男の断末魔を聞くのも堪えるので、ここは渋々止めに行くことにしたのだった。


 止めに行った時に、またあの目で睨みつけられたのは想像に難くない事実だった。


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