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4.37.一苦労


 トタトタという音を聞きながら待っていると、ゆっくりと扉が開け放たれた。

 出てきた人物は背の低い白い髪の女性であり、赤い瞳をしている。

 華奢な体でよくこの扉を開けることができたなと驚いてしまった。


 彼女は二人を交互に見ると、驚いた様子で声を出す。


「えっと! あの……! 誰ですか!?」

「あー、まぁそうなりますよね。連絡もなしに突然来てごめんなさい。冒険者をやっているレミです。こっちは木幕師匠」

「少し用があって来させてもらった。バネップという者に会えるか?」

「わわわわっ! バ、バネップ様とお呼びくださいませ!」

「それと、いきなり襲って来た執事と兵士が向こうの門の前で倒れてるから、回収お願いしますね」

「はい! ……え? え!? ええええええ!?」


 わたわたとしながら二人の発言に驚く彼女は、ここに仕えて間もないという素人感が出ている。

 どう対応すればいいのか分からず困っている様だ。

 そこで、彼女は何かに気が付いたようで、サーっと血の気が引いていく。


「犯罪者ですか!? 盗賊ですかっ!?」

「違うわよっ! バネップさんが依頼していたクオーラ鉱石を見せたら襲い掛かって来たの!」

「……という事は……うちの者何か失礼なことをが!?」

「失礼通り越して殺しに来てたわよ!」

「ええええええ!?」


 話が進まない。

 あまりにも酷い勘違いのせいで、レミも敬語を忘れてしまっている。


 というかここまで騒いでいるのに他に誰も出てこないのはどうしてだろうか。

 まさか今しがた倒してしまった彼らが客を招待する仕事を担っていたのかもしれない。

 あのような輩に荷物を任せるのは絶対にしたくはないが。


 しかしこれからどうしたら中に入れてもらえるのだろうか……。

 まずは彼女を落ち着かせるほか無さそうだ。


「お主名は何という」

「はひっ! りゅ、リューナです! リューナ・エイリックと申します!」

「まずは落ち着け。曲がりなりにも某らはこの屋敷を訪れた客人だ。求めているわけではないが、それ相応の対応は無いのか?」

「わわわわっ! 申し訳ございません! でも、でも盗賊の方をお招きするわけには……」

「だから違うって言ってるでしょう!? さっきの話聞いてあだぁ!?」

「怖がらせるでない」


 また怒鳴ったので、今度は木幕が平手打ちでレミの頭を叩く。

 そのあとしゃがみ込んでリューナと同じ目線になり、話を聞いてもらう。


「某は賊などではない。先程も言ったが、バネップ殿がギルドに依頼していた鉱石を渡しに来ただけだ。しかしこれは人眼にあまり触れたくないものでな。それにギルドの小娘が強情で某を信じてもらえず、やむなくここに来た次第だ。どうだろう、ここの主と少しばかり話をしたいのだが、今は忙しいだろうか?」

「師匠ってホント子供相手だと態度変わりますよね」

「喋るな」

「クッ!? ~~!」


 手の甲の第一関節の骨でレミの弁慶の泣き所を殴る。

 コッといういい音がした後、彼女は足を抑えて蹲ってしまった。

 辺りどころが良かったのだろう。

 相当堪えている様だ。


 一方リューナという白髪の女性は、木幕の語り口調での説明に安堵したのか、ようやく理解してくれたらしい。

 すぐにバネップに話を聞きに行く為、中に戻って階段を上がって行った。


「師匠……痛いです……」

「痛みに耐えるのも修行だ」

「クゥ……ッ」


 そのまま暫く待っていると、先程とは違う老齢の執事と一緒にリューナが戻って来た。

 執事は大層迷惑そうな顔をしながらこちらに歩いてきている。


 確かにこのように突然押しかければ迷惑になるのだろうが、何もそこまで嫌な顔をしなくてもいいだろうに。

 その様に思って顔をしかめたのだが、どうやら彼にそれが伝わってしまったようだ。

 ギクリと顔をこわばらせてから、顔を振るって真顔に戻す。


「おほん……執事のクレインです。しかし困りますな、このように来られては。然るべき手続きを行ってからお越しいただきたいものです」

「む、先程の者より話は通じる様だな」

「先程の者……?」

「あっ、ごめんなさい! お伝えし忘れていました! この方たちが来た時に、兵士に襲われたらしいのです……」

「なに!? どうしてその様な……!」

「もう面倒くさい。百聞は一見に如かず。これを見よ」


 説明が面倒くさくなったので、クオーラ鉱石を取り出して二人に見せる。

 これを見せた途端、相手の反応が変わって襲って来たのだ。


 リューナとクレインもそれを見て目を見開いて固まった。

 見たこともない大きさのクオーラ鉱石。

 市場で出回っている物も、今までに一番大きなものであっても、この大きさには叶わないというのがすぐにわかる程のものだ。


「これを見せたら襲って来た。返り討ちにしたがな」

「なな、なんと……! ま、まずその者は何処に!?」

「門の前で伸びてます」


 それを聞いて流石にキリッとした表情を崩すクレイン。

 このようなこと、普通はあってはいけない事だ。

 すぐにでもその者の処罰を決めなければならない。


「も、申し訳ない、自体の収拾ができ次第正式に謝罪させて頂きたい。リューナ、とりあえずお二方を客間に」

「わ、分かりました! こちらにどうぞ……」


 これでようやく中に入ることができる。

 何故これだけのことに力を使わなければならないのだろうかと思ってしまう。


 その後、クレインは兵士を呼んで問題を起こした八人の兵士と一人の執事を捕縛した様だ。

 後になって分かる事だが、彼らは上手く公爵の地位にいるバネップに取り付いた不届き者であるという事が分かった。

 他の貴族からのスパイや暗殺者と言った立ち位置に属する者だったらしく、盗賊との繋がりもあった様だ。

 叩けば叩くほどその悪事は出てきたらしいが、木幕とレミがそれを知ることは無い。


 明るすぎる客間に入った木幕は目を細める。

 促されて座った椅子はどうにも座り心地が悪い物だ。

 柔らかすぎる。


「全く、一苦労だな」

「確かに……」


 同感だ、という風にレミもため息をついた。

 

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