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4.36.そうはさせない


 後ろから呼び止めることを聞いて、ようやく振り返った二人。

 とりあえずこれで話ができると安心したのだが、次に彼が口にした言葉には耳を疑った。


「えー、では、そちらの品はお預かりします」

「……は?」


 真顔で言う執事ではあったが、その裏にはどす黒い笑みが見えている気がした。

 何かを企んでいる顔だなと一瞬で察知できるほどだ。


 だがレミはその事に気が付かなかったらしい。

 首を傾げて素っ頓狂な声を出す。


「いやいや、私たちがバネップさんにお渡ししますよ。依頼の品ですからね」

「それは私どもが送り届けても同じこと。それに貴方たちはギルドを通さずにここに来ておられる。贋作の可能性もありますからね」


 流石のレミも、ここまでの発言を聞いてようやく相手が何を考えているか察知したらしい。

 自分たちの手柄に出もしたいと思っているのだろう。

 その場合かなりの問題が発生するのだが、その事については気が付いていないのだろうか?

 目の前にあるお宝を目にして考えが安直にでもなったのかと思うが、彼もこの屋敷に住む者。

 何か策があってのことかもしれない。


 とは言えそう簡単に渡すわけにはいかないのも事実。

 市場では扱えない程の高級品だという事はレミも木幕も既に理解している。


 レミは首を振って相手の説得を否定し、また口を開く。


「その場合、貴方はこれの出所を説明できるのですか? それに私たちの報酬はどうなるのです?」

「出所ですか。確かにそれを聞かれると困りますが、まぁ何とでもなりますよ。報酬に関しては……貴方方が居なければ払う必要もないですしねぇ……」


 何処から取り出したのか、彼はレイピアのような細い武器を片手に持っていた。

 それに気が付いた時には足を踏み込み、低姿勢でこちらに向かってきていた所だった。

 周囲の兵士もそれを黙認している様で、何も声を出さない。

 そればかりか二人を囲む様な配置に変わり始めている。


「師匠!」

「遅い!」


 細身の刀身が木幕に向かって飛んでくる。

 細いだけあって軽いのか、その動きはとても素早い。

 レミも声をかけるだけで精一杯だったので、持っている薙刀を構えるまでとはいかなかった。


 だがその遅さが功を奏した。

 木幕は相手が動いたと同時にレミの薙刀をひったくって、石突を前に伸ばす。


 ドッ……。


「ほぐ……」

「遅いのはお主だ愚か者」


 細身の刀身は前に突き出されているが、槍の長さに敵うはずもなく木幕の前で止まっていた。

 薙刀の石突は腹部にめり込んでおり、ゆっくりとした動きで崩れ落ちていく。


 木幕はすぐに薙刀を返して抜刀する。

 それに続いてレミも構え、敵となった者たちの動きを警戒した。

 彼らは一瞬で倒された執事を見て戸惑っている様だったが、すぐに得物を構えて距離を取る。


「レミよ。貴族とかいう者共はこのような家臣を付けているのか?」

「んー、メランジェさんも貴族に殺されたとか言ってましたし、こういう人たちは少なくはないんじゃないですかね?」

「これならばあの小娘を説得した方が良かったか……」

「さて、これからどうします?」

「決まっておる」


 木幕は相手の数を数える。

 甲冑を身に纏った敵が八人で、彼らの武器は全て槍。

 本当であれば奇術なしで倒したいが、これ以上騒がれても面倒だと思ったので一気に片を付けることにする。


 葉を周囲に展開させて、相手を思いっきり吹き飛ばす。

 とは言っても葉の塊をぶつけているだけなので、切り傷ができることは無い。

 仮にも甲冑を身に纏っているのだ。

 これくらいは耐えてもらわなければ困る。


「がはっ!?」

「なんだっ!!?」

「ギャア!」


 だが思った以上にその攻撃が強力だったようで、甲冑の胸に当たる部分が凹んでいた。

 それに加えて相手を数メートル吹き飛ばしてしまう。

 斬ると叩くでは奇術も効果と威力が違うのだなと気付かされた瞬間だった。


 これを扱いきるのはやはり時間と修行が必要だなと思いながら、葉隠丸を納刀する。

 あの一撃で全員が気絶してしまったらしい。

 家臣の兵士であるというのに情けないと思いながら、問答無用で屋敷に足を踏み入れた。


「あ、強行突破ですか……」

「手柄を取ろうとしたのだろうが、そうはさせん。直々に持って行ってやろう。金も要りようであるしな」

「この説明をする方が大変そうですけどねぇ……」


 レミはそう思いながら、倒れている兵士を冷たい目線で睨みつける。

 あの動きからして執事がこの集団のリーダーだったんだろう。

 まだ中に潜んでいるかもしれないので、その事についてもバネップに報告してやるつもりだ。


 しかしこのような連中が公爵ともあろう者の下についているとは思ってもみなかった。

 もしかしたらどこかの貴族の使いか、スパイかもしれない。

 あの行動が主の顔に泥を塗る行為だと思っても居なさそうなそぶりからして、その可能性の方が高いだろう。


「ていうか、師匠あれですね。能力使いこなせて来てますね」

「単純な物だ。あれくらいは誰にでもできる」

「でも誰も持っていない武器ですからね? 扱いには本当に気を付けてくださいよ?」

「わかっている」


 そんな軽口を叩きながら、二人は誰の邪魔もされずに屋敷の玄関に辿り着いた。

 とんでもなく大きな扉が出迎えてくれる。


「では後は任せた」

「はいはい~。ごめんくださーい! 誰かいませんかー!?」

「……だから、もう少し違う方法は無いのか?」

「貴族に対する作法なんて知りませんっ」

「……確かに」


 中から誰かが扉に走ってくる音が聞こえた。

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