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4.32.盗人


 思った以上に素早く地上に出ることができた。

 外周をぐるっと回りながら奥に進んでいたので、あの湖に行くまで時間がかかっていただけで直進すれば歩いて十五分程の道であった。


 やはり下調べは大切だなと思ったが、こちとら急ぎの様だったのだ。

 言ってしまえば今すぐあの屋敷に帰って日本刀を研ぎたい。


 入り口に近づくときは暗くなってしまうので、ランタンを付けて明かりを確保する。

 そう言えば冒険者に会わなかったなと思いながら、日の光が差す外へと出ることができた。


 周囲を見渡してみれば、出てきた二人を凝視する冒険者たち。

 だが後続がいないことを知ってすぐに興味を無くしたのか、各々が洞窟に入る準備の続きをし始める。


 あれだけ時間が経っているのに準備もできていないのかと思ったが、それは彼らなりに何か事情があっての事だろう。

 野暮なことを言うのは止めて、とりあえず手首についているこの輪っかを外してもらう為、あの門番に話しかける。


「おい」

「お! 帰って来たか。って、手ぶらじゃねぇか!」

「手ぶらではない」

「あ、マジかい。いやそれならいいんだ。じゃ、クオーラ鉱石二つだ」

「うむ」


 懐から魔法袋を取り出し、比較的小さな鉱石をガシッと掴んで門番の手の平に乗せる。

 取り出した瞬間驚愕の表情を浮かべて固まっていたようだが、一つ目の鉱石を両手で持ち直して重さに耐える事はできた様だ。

 更にもう一つをその上から乗せて、魔法袋を懐に戻した。


 目を白黒させながら両手に乗っている物と木幕たちを交互に見る門番。

 腕がプルプルと震えていて、持っているのもやっとの様であると見て取れた。


 こんなに軽い鉱石なのにどうしてそこまで腕が震えるのかと呆れたが、彼の一言がその原因を教えてくれる。


「で、でで……」

「?」

「デカすぎだろ!!!!」


 周囲の目を全く気にしない怒号に近い大声で叫んでしまった。

 その声に周囲の冒険者や行商人も反応して目線を移すと、そこには人の頭ほどあるクオーラ鉱石を持つ門番がいる。

 あり得ない程の大きさに見てしまった全員が固まり、言葉を失った。


 急に静まり返ったので少し不気味ささえ覚えるが、そんな事よりこの輪っかを外して欲しい。

 少し苛立ちながら輪っかを門番の目の前に出し、無言で外せと要求する。


 彼は暫く戸惑っていたが、鉱石を足で挟んで盗まれないようにしながら、木幕と沖田川についた輪っかを外した。

 やれやれと思いながら手首をさすり、二人はその場所を後にする。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! こ、これどうやって採ったんだ!?」

「普通に蟹を殺してゆっくりと」

「こっ殺しただぁ!? いやそんな事よりも! 普通こんなでけぇのは採れねぇ! 鉱石を割って欠片が手に入れば上等なんだぞ!?」

「知らぬ」


 門番はそう言うが、実際の採れているのだから何の問題もないだろう。

 それに反応からして大きければ大きい程いいらしい。

 これは得をしたかもしれないなと思い、後ろから叫ぶ声を無視して歩いていく。


 これ以上足止めを喰らっていると日が暮れてしまいそうだ。

 暗くなる前には換金して、土産として子供たちに持ち帰ってあげたい。


「……」

「……はぁ……」


 だがやはり、これを狙ってくる物は現れる。

 先ほどから何人もの気配が後ろをついてきていた。

 これを振り切るのは少し厳しそうだ。

 とは言え全て捌くわけにもいかないし、どうしようかと二人で悩む。


 まさかこんなことになるなど思ってもいなかったのだ。

 このまま帰れば子供たちにも危険が及ぶ可能性があるので、早々に換金したい。

 こういう物は持っているから狙われるのだ。

 砥石に仕えそうなクオーラ鉱石を数個残して置いて、クオーラウォーターは全て割って中の砥粒を回収しておけば、もう狙ってくる輩はいなくなるだろう。


「さて、まずはあいつらをどうしようか……」

「そうじゃのぉ……」


 木幕が一瞬足を止めると、若い男性がドンとぶつかって来た。

 人の通りもあるのでこういう事もよくあることなのだが、その男性は沖田川にもぶつかる。

 あまりにも妙な動きだったので、すぐに手を伸ばして捕まえようとしたが、それを沖田川が阻止した。


 何故止める、という言葉が喉まででかかったが、彼の表情を見ると悪い笑みを浮かべていた。

 その瞬間、何をしたのか大体の想像がつく。


「これ、気を付けなされよー」

「わりぃなー!」


 男性はそう言いながら、人混みの中を走って消えていく。

 その様子に気が付いたのか、二人を付けていた連中は若い男性の方を追いかけていった。

 よく遠巻きに見ていて分かったなと思ったが、先程の沖田川の掛け声がそれを誘発したのかもしれない。


 だが、彼が未だに何をしでかしたのかはよくわかっていない。

 分かっていることは、木幕の懐から魔法袋が消えているという事。

 やはり今のはスリだったのだ。


 その事を小声で説明しても、彼は笑顔のまま小さく頷いた。

 懐に手を入れ、持っていたはずの魔法袋を誰にも見せない様に手渡してくれる。

 それに加え、あの若い男性が持っていたであろう小銭入れを一度中に放り投げてまた掴んだ。


「手癖が悪いな……」 

「ほっほっほっほ。若気の至り、昔取った杵柄じゃわい」


 こういう優しそうな老人に限って、若い頃はとんでもない悪ガキなのだ。

 しかし器用な物である。

 盗られた物を盗り返して、更には全く別の物を盗ってしまうとは。


 とは言えそのおかげで尾行も居なくなったのは確かだ。

 木幕はため息を一つ吐いてから、やれやれと足をギルドへ進めた。

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