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4.28.見つからない


 終始青白い洞窟の中にいると、色彩感覚がおかしくなってきそうだが、目に優しいのは変わりない。

 だが同じ色を見続けるのは飽きてきた。

 時折手元にあるツルハシを見て、その感覚を取り戻そうとするが、やはりこれも青かった。


 二人は今、大きな洞窟を周回していた。

 光るキノコがあったところから数分も歩けば、すぐに開けた場所に出たのだ。

 そこからは壁伝いに歩いていって、砥石になりそうな石を探す為にツルハシで適当に叩きながら、その石の特性を手の感覚のみで把握していた。


 なにせ色が全て青なのだ。

 目視で得られる情報は非常に少ない。

 かれこれこの洞窟に潜って一時間以上たっているが、目的の物は見つかっていなかった。


「ふぅむ……そう簡単には見つからぬか」

「根気じゃ根気。無いことは無いじゃろうからな」

「それもそうである……なっ!」


 すぐにツルハシを振るって岩を取る。

 沖田川にそれを渡して見てもらい、持っていた石をすり合わせた。

 だが、これも良くない物だとして、またぽいと捨ててしまう。

 この繰り返しだ。


 かれこれ数十個は石を取ったのだが、どれもこれも捨てられるだけ。

 ここにはもうないのではないかと思う程である。


 暫く同じことを繰り返していると、沖田川がふと足を止めてキノコを触った。

 千切ると、すぐに力を失って萎んでしまう。

 それを見た沖田川は、何かに気が付いたようで先ほど掘りだした石に萎んだキノコを置いてみた。


 すると、すぐに力を取り戻して光りはじめる。

 なんとも不思議なキノコだと思ったが、これではっきりしたことがある。


「……ここに砥石になる石は無さそうじゃの」

「何?」

「このキノコじゃが……この洞窟全域に広がっておる。キノコが育つという事は、同じ性質の壁である可能性が高い……。キノコが育つ特殊な栄養をこの岩は持っておるのじゃろう」

「という事は、全てが同じ質の石であるという事か……。外れであるな」


 諦めた様にしてツルハシを魔法袋の中に収納する。

 ここでやれることは鉱石を回収して売るだけになってしまった。


 無いのであれば、長居する必要はない。

 すぐに魔物を探して洞窟を出た方がよさそうだ。

 その考えに辿り着いた二人は、砥石探しを中断して依頼をこなすことにした。


 鉱石を回収しなければこの洞窟から出ることができないのだ。

 せめて土産になるくらいは持って帰りたい。


 依頼書によれば、持って帰って来た分だけ報酬を払うと記載されていたようなので、この魔法袋がパンパンになるまで回収したいものだ。

 どれだけ中に鉱石が入るのか気になっているというのもある。

 要するにただの好奇心だ。


「依頼は二つ。魔物の背中に生えている鉱石と、その魔物の住処の水中にある鉱石を回収してくる、であったな」

「うむ。じゃがすまんの。水中にいる魔物は何とかなりそうなのじゃが、陸に出ている奴はちと厳しいかもしらん」

「では某が対処しよう。水中にいる奴は任せる」


 自然と役割分担ができたので、木幕が前に出て沖田川が後ろにつく。

 後はその魔物と住処を見つけるだけなのだが……。

 流石に壁の周辺にはいない様だ。

 中央付近に行って、別の道が無いかを探し出す。


「──ぁ」

「……む? 何か聞こえなかったか?」

「はて。儂は耳が少し遠くてのぉ……」


 木幕は立ち止まって集中する。

 周囲の音を聞いているのだと理解した沖田川はすぐに静かにして邪魔をしないようにしゃがんだ。


 今聞こえている音は、衣擦れの音と何処からか落ちてくる水滴の音。

 洞窟なのでよく響く。


「──ケテ」


 今度はしっかりと声を拾うことができた。

 そして金属音と叫び声が混じっているという事が分かる。


「……誰かが襲われているらしい」

「いかんのぉ。すまぬ、儂は足が遅い。先に向かってはくれぬか?」

「任された」


 前傾姿勢になり、体重を前に倒しながら走っていく。

 近づくにつれて声が大きくなってきているので、道は間違っていないと理解できた。


 その声は罵声と悲鳴の声が混じっていた。

 更に聞いたことのない妙な音……。

 大きな生物がそこにいるのだと理解することができた。


 遠めからでも分かる位置で、冒険者一同が一匹のクオーラクラブと思わしき生物と奮闘していた。

 だが状況は劣勢。

 捕縛するために使用していた網が上手く引っ掛からなかったようで、まだ暴れ続けている様だ。


「グブウググブウブウグググブク」


 あの姿を簡単に説明すると、蟹だ。

 その図体は確かに人の背を優に超え、横幅はその三倍ほどある。

 正確な色は分からないが、やはり青白いのでそこまで深い色ではないのだろう。


 そして、背中には大量の黄色い鉱石が生えていた。

 あれこそがクオーラ鉱石なのだろう。

 足や腕にも少し生えているのだが、何か別の岩がへばりついていた。


 だがその岩はそれなりの硬度があるらしい。

 動きこそ遅いがその攻撃は強力で、殴った地面が割れていた。

 あんなものに直撃してしまえば、怪我どころでは済まないだろう。


 ようやく冒険者たちの声が聞こえるところまでやってくると、このような会話が聞こえてきた。


「おい! 網は!?」

「こっちは使っちまった! そっちは!?」

「絡まって使い物にならねぇ!」

「こんの役立たず!!」

「助けて! いやだぁ! ああああああギュッ──」


 ズガンッ!

 クオーラクラブが振り下ろした腕が冒険者一人に直撃した。

 鮮血を巻き散らして絶命してしまう。


「う、うわ! うわ! うああああ!!」

「まって! 待ってくれ!」


 その光景を見て血の気が引いた冒険者一同は、すぐさま逃げ出してしまった。

 敵を討とうとは思わないのかと声を掛けようとしたが、そんな暇は無くなってしまう。

 クオーラクラブの目がこちらを向いたのだ。


 標的を完全に変えてしまった。

 すぐに葉隠丸を抜刀して構え、切っ先を相手に向ける。


 ブクブクと口元にある泡が唸り声を上げていた。


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