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4.26.砥石が欲しい


 移住二日目。

 今日は屋敷の中の掃除だ。

 部屋の数が多いのでこれには数日の時間がかかりそうだが、これだけの人がいるのだから何とかなるだろう。


 だが、そこで木幕と沖田川はどうしても行きたい場所ができてしまったようだ。


「砥石ですか?」

「無いのであれば取りに行くしかあるまい」


 流石に自分の武器の手入れがしっかりとできない事に、苛立ちを覚えてしまっている様だ。

 今まではこの世界で常用されている砥石を使っていたのだが、やはりそれでは満足できないらしい。


 だが流石のレミも砥石の取れる場所は知らない。

 鍛冶師や武器屋の店主であれば知っているとは思うのだが、そこで使っている砥石も彼らに合うかどうか微妙な所だ。

 恐らくは駄目だと思うので、こうなったら自分たちの目で確かめに行ってもらうしかない。


 そしてその採掘の為の道具も必要になってくる。

 だがこれはギルドから貸し出しが行われているので、別に難しく考えなくてもよい問題だ。

 それに、この屋敷の倉庫にも古びた採掘道具があった。

 柄だけを変えればまだまだ使えそうなほどだ。


「とりあえず……採掘場などはこの辺りにないかのぉ?」

「採掘場ですか? んー、それもギルドの依頼として一緒に聞いてみてもらった方が良いですね。私もこの辺の事については分からないので」

「そうかえ。じゃ、レミ殿、ライア。留守番を頼んだぞ」

「分かりましたっ!」

「お土産期待していますね~」


 木幕と沖田川は、これからギルドに行ってお金を稼ぐついでに砥石の採掘だ。

 情報の収集から始めなければならないので、今日一日はこの屋敷には帰ってくることができないだろう。


 残された者たちはここで屋敷の掃除だ。

 料理もレミが子供たちに教えるそうなので、面倒は彼女に任せておいて大丈夫だろう。

 まだまだ資金は底をつかない。

 生活が安定するまでは持ちこたえることができそうだ。


「じゃ、ライアさん」

「はい?」

「水お願いしますね」

「うげっ! きょ、今日は荷車借りて来ますからね!」


 因みに井戸には毒はもう残っていなかった。

 子供たちが水を置いた場所を確認すると、ネズミが何匹か一緒に飲んでいたらしい。

 これで安全性は確保されたので、ライアにこうして水の運搬を頼むことになったのだった。



 ◆



 ギルドに辿り着いた二人は、早速情報を収集することにした。

 まずは受付に行って、砥石が採掘されている場所を聞く。


 変わった姿をしていると、注目を集めてしまっているようだが、これも慣れたものだ。

 待っている間はそうして何やらコソコソと話をされていたが、暫くするとそれも収まる。

 自分が思っているほど、他人は興味が無いものだ。

 物珍しいというだけで、そこまで問題になるようなことは無かった。


 そうしていると、受付嬢が依頼を数枚持ってきてくれた。


「採掘依頼……とはちょっと違いますが、鉱石の回収の依頼が数件あります。どれも危険な洞窟にあるので採掘がとても困難なのです」

「ふむ……この鉱石は硬いかのぉ?」

「そうですね。十分硬いと思われます。武器にも使われますし」

「という事は加工自体は出来るのじゃな。ふむ、ではこれにしよう」


 そう言い、沖田川は二枚の依頼書を手に取った。

 目的地が同じ場所なので、一気にやってしまおうという魂胆だ。

 だがそれを見た受付嬢はそれを止めた。


「む、無理ですよ。二人でこの依頼を受けるのは……」

「そうなのか?」

「はい。えーっと、説明しますよ」


 彼女は沖田川の手に取った紙を一枚取り上げて、それを見せながら説明してくれた。


「これはここから東に行った場所にある洞窟で取れるクオーラという鉱石です。ですがこの鉱石は自然に生えているのではなく、クオーラクラブという魔物の背中にくっついている物なので、採掘が非常に困難なのです」

「? 倒してしまえば問題なかろう?」

「簡単に言いますけど、クオーラクラブの甲羅はとても硬いんです。それに大きさも人の背を優に超えますし、横幅なんてその二倍はありますよ」

「ふむ、問題なさそうだ」

「今の話聞いてました!?」


 それだけ大きな魔物が洞窟にいるという事は、それなりに大きな洞窟という事だ。

 立ち回りが制限されることもない。

 そうなれば自分の持っている奇術が役にたつ。

 沖田川も同じだったようで、コクコクと頷いていた。


 受付嬢は呆れたが、諦めない彼らにもう一つの依頼書を見せつける。

 これであれば流石に引くだろうと考えていた。


「もう一枚の方ですけど、こっちはクオーラクラブが生息する水の中にある鉱石を採掘する物です。クオーラクラブが水中で落としたものになるので潜らなければなりません。勿論その水の中にも魔物は生息しています」

「大丈夫そうじゃ」

「うっそ……」


 これは流石に木幕では対処できないと思っていたが、沖田川はそれを対処する術を持っている様だ。

 話を聞いて一瞬で大丈夫と申し出たのであれば、信じてもいいだろう。


 木幕は依頼書をひったくるようにして取り上げ、懐に仕舞う。

 この流れだと渡してくれない気がしたので、早々に取り上げてしまったのだ。

 予想通り、受付嬢はその依頼書を渡す気は無かったのだろう。

 すぐに手を伸ばして取り返そうとしたが、もう木幕の懐に入ってしまった。

 これでは受付のカウンターが邪魔で取り返すのは出来ない。


「ああっ!」

「場所は東であったな」

「荷車でも持っていくかえ? 流石に大荷物になりそうじゃわい」

「もうっ! どうなっても知りませんからねっ!」

「ぬぉ!?」


 受付嬢はそう言うと、ツルハシと小さめの袋を木幕に向かってぶん投げる。

 流石にツルハシは避けたが、小さめの袋はしっかりと掴み取った。


「危ないではないか!」

「これくらい避けれなきゃ冒険者失格です! それと、それはギルドの物なのでしっかりと返す様に! その魔法袋は大量にものを入れることができる貴重品なので、絶対に返してくださいね! 持ち去った場合は冒険者登録書の解除。紛失、破損した場合は金貨二十枚の罰金です! いいですね!」

「お主、受付をせずに冒険者をやってはどうだ」

「はぁー!?」


 それを聞いていた周囲の冒険者一同は、一斉に笑い出した。

 どうやら先ほどの木幕の発言が相当可笑しかったらしい。


 しかし、彼女の力は相当なものだ。

 華奢な体でこのツルハシをぶん投げる程の力があるのだから、こんな書類整理よりも体を使った仕事をするべきではないのかと思ったのである。

 だがよくよく考えてみれば、女性にこの発言は失礼だったかもしれない。


「はーっはっはっは! あー可笑しい!」

「兄さんそりゃ名案だ! 嬢ちゃんに物ぶん投げられた冒険者の数はしれねぇからなぁ!」

「手斧投げるだけでも十分戦力に……」

「あんたたちー!!」

「逃げろ逃げろ!」


 別にそうでもない様だ。

 というか彼女はそれで有名になっているらしいし、言ったら言ったでまだ物を投げられるだけだから自重していたのだろう。

 また何か言われても面倒なので、二人はそそくさとギルドを後にした。


「これは報告するときが大変であるな」

「まぁ、依頼をしっかりこなせば問題あるまいて。さーて、馬でもおればよいのだがのぉ」

「だがこれがあるから、問題は無い」

「じゃな。では東に行くとするかえ」


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