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真の海防  作者: 山口多聞
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終盤戦 7

 1945年5月中旬、新たに北大西洋方面へとその戦力をシフトさせた日本海軍の近海防衛艦隊派遣部隊は、アイスランドや英国・米国東部・カナダなどを起点とする航路の護衛任務に就いた。


 北大西洋方面の船団規模は、インド洋・太平洋・南部大西洋方面のそれとは桁違いに大きい。場合によっては、一つの船団に100隻を超える輸送船が加入する場合があった。


 この船団を、連合軍は護衛空母や各種護衛艦、航空機、飛行船、場合によっては戦艦等の有力な艦艇まで投入して、護衛していた。


 一方攻撃する側のドイツ海軍も、フランス沿岸のロリアンやラ・ロシェール、さらにはノルウェー沿岸部のフィヨルドやスピッツ・ベルゲンなどを拠点として攻勢を行っていた。その使用艦艇も、旧型のⅦC型等からエレクトリック・ボートであるXXⅠ型に切り替わりつつあり、さらに使用する音響魚雷も精度・性能共に飛躍的に進歩しつつあり、連合軍船団の脅威となっていた。


 特に1945年5月から6月にかけては、新型音響魚雷の採用を行ったために戦果が拡大した。それまでの主力音響魚雷であったミソサザイ、その改良バージョンでは連合軍側のフィクサー(欺瞞装置)に釣られてしまったり、自分の騒音に騙されないため航行速力を大きく制限せねばならなかった。


 しかし1945年1月頃から試験投入されたT11型魚雷においては、内部の電子機器の精度向上によって速力が35ノットまで引き上げられ、また複数の音響パターンに対応できるように、発射前にセット可能となっていた。


 この魚雷は、誘導装置の大型化によって炸薬量を減らさざる得ないこと、さらに価格が以前にも増して高価になると言う弱点を抱えていたが、命中率は大幅にアップした。


 特に、それまでフィクサーによって音響魚雷は回避できると信じ込んでいた連合軍護衛艦艇の指揮官たちを、大いに驚かせ、そして悩ませることとなった。


 またUボート艦長たちはあまり積極的ではなかったが、水中における対潜水艦戦にも時折使用し、特に北海ならびに北太平洋方面で活動する米英潜水艦をわずか2ヶ月で11隻も撃沈することとなった。これらの多くは、レジスタンスへの補給任務中に撃沈された物であった。


 一方、連合軍も音響魚雷は配備していたものの、これは主に防備用であり、攻勢に使用する枢軸側に比べて使用できる場面が限られていた。加えて、ドイツ側の潜水艦はこれに対する対策を既に身につけており、連合軍側においては早急にドイツ側と同等、もしくは凌駕する誘導魚雷の開発に迫られていた。

 

 戦争とはあらゆる面でのシーソーゲームである。それは技術にも当てはまるものであった。連合国はその中心である日米英の科学者たちが、その総力を上げて新兵器の研究開発を行っていた。

 

 ただし、当たり前のことだがそれぞれの国家の事情や利益のため、公開に至らない、融通できない技術も多々あった。特にアメリカがリードしていた核兵器(ただし、核兵器は理論的には既に他の2カ国も完成段階にあり、アメリカが秘匿したのは主に製造状況だった。しかし、これに関しても日英はそれぞれ独自のルートを駆使して、ある程度の部分は掴んでいた。)はその典型たる物であった。


 一方で、艦船や航空機、電子機器等最前線で消耗される兵器に関する部分に関しては、それなりに融通が図られている部分であった。


 日本は色々な部分で、人種偏見的な面から、比較的遅れているとこれまでは見られがちであった。しかしながら、第二次世界大戦がそうした面を大きく払拭した。


 この世界における日本は第一次大戦への本格参戦や、その後の国力充実によって欧米に遅れを取る部分はあったが、際立って遅れていると言うわけではなかった。むしろ戦艦「大和」を建造した造船技術、零戦や「烈風」、「震電」を開発した航空技術、酸素魚雷を開発した水雷技術等々、欧米を上回っている部分も多々あった。


 だから、日本海軍も見返りとして様々な兵器の供与を受けており、補給も米英軍と同等な物を受けられて、贅沢な戦争を行うことが出来ていた。


 第一次大戦と同様、極東の島国はその存在感を増しつつあった。逆に言えば、それは色々と危険な仕事を任されると言うことでもあった。


 北大西洋方面への船団護衛に、日本海軍が部隊単位で参加したのも、戦略レベルの事情もあったが、それと共にこの頃急速に高まっていた連合国商船乗組員や連合国国民の期待に答えての部分もあった。


 1945年4月7日、帝国海軍はアイスランド・イーサフィヨルドに北大西洋派遣艦隊司令部を設置し、太平洋やインド洋、南大西洋から転戦してきた近海防衛艦隊や連合艦隊各部隊を指揮下において、連合国海軍と共に北大西洋の航路防衛に本格参入した。同司令部の司令長官には連合艦隊水雷戦隊司令官として活躍した木村昌福中将が、参謀長には近海防衛艦隊より派遣された神部健少将が着任した。

 

 なお英国でも米国でもなく、わざわざアイスランドに司令部を置いたのは、アイスランドがこの時期北大西洋の重要な戦略上の拠点であり、またノルウェーの基地にて虎視眈々と出撃の機会を窺う、ドイツ水上艦隊の牽制に持って来いの地理的条件によるものであった。


 実際、アイスランドには連合艦隊より分派された機動艦隊と戦艦部隊が後に前進し、拠点となっている。


 ただし、北大西洋派遣艦隊司令部やその指揮下にある各部隊内では、「アイスランドを拠点に定めたのは、温泉を楽しみたい木村中将の我侭があったからだ」と実しやかに噂されていた。


 そんな司令官の私情があったかどうかはともかくとして、日本海軍がこの地を拠点に定めたのにはもう一つ理由があった。それは、援フィンランド・援スウェーデン向け物資の出発拠点であったからだ。


 1939年の冬戦争によって、屈辱的な領土割譲を強いられたフィンランドは、ソ連に盗られた土地の奪還を狙っていた。しかしながら、北欧の小国にそんな国力がある筈が無く、同国はジーッと我慢することを強いられていた。


 転機が訪れたのは1944年3月のことである。ソ連がドイツの尻馬に乗って連合国に対して宣戦を布告したのである。この際ソ連は、フィンランドに対しても宣戦布告して、占領地の拡大を図った。


 しかし、ここでソ連が思いもしなかった番狂わせが起きる。かつての冬戦争と同じく、フィンランドは頑強に抵抗した。さらに彼らが使っていた武器も問題であった。


 何とフィンランドは、潤沢とは言わないまでも充分な量の枢軸及び連合両陣営製の武器で武装していたのである。戦闘機の主力はMe109、Do510、「スピット・ファイア」、2式戦闘機「飛燕」、P39等、戦車も4号戦車や3号突撃砲、M3戦車やバレンタイン戦車を保有していた。


 どうしてこうなったかと言えば、これは枢軸ならびに連合両陣営がそれぞれ支援合戦を繰り広げた結果であった。


 連合国としては、北欧に連合よりの国家を出現させておくことは、ドイツならびにソ連への大きな牽制となる。一方枢軸としては、潜在的敵国であるソ連への牽制と、フィンランドを敵国化しないこと、ならびにフィンランドから物資を横流ししてもらうためであった。


 実はフィンランド、中立国である立場を最大限利用して、連合国からコーヒー等ドイツが欲しがる一次産品を大量に買い付け、それをドイツに転売していた。もちろん、それ以外でもかなりギリギリな物品までドイツに横流しをしていた。


 もちろん、連合国としては憤慨物であるが、取締りをきつくしてフィンランドの国力を著しく弱めたり、枢軸陣営に参加させたりするのは得策ではなかった。また北欧はスパイなど、情報の中継地としても有望であり、この方面を独ソどちらからの勢力圏下に置きたくはなかった。連合国側にしてみれば、フィンランド経由でスパイや情報を流してもらっている関係上、あまり強くは出られなかった。


 ドイツとしても、万が一フィンランドが連合国に参入したりする事態だけは避けたかったし、またコーヒーなど、国内では代用品になっていた嗜好品を輸入出来るか出来ないかは、兵士の士気に著しい影響を及ぼす案件であった。


 そう言うわけで、フィンランドは両陣営が持つ不安やメリットを最大限に生かした外交で、双方の兵器を買い漁り(実際には、中古兵器ばかりなのでかなり廉価で買っていた)質的には冬戦争とは比べ物にならない程の進化を遂げていた。


 さらに、ソ連が正式に参戦してもドイツは「我が国はフィンランドには宣戦布告しない」と宣言し、ソ連は単独でフィンランドと戦う結果となった。


 そしてこれによって、連合国は本格的にフィンランドへ援助を行える口実を得た。ただし、北海経由での物資輸送はソ連のみならず、ドイツによる妨害の可能性も高かった。


 そこで、連合国はフィンランドと秘密協定を結んで、ある作戦を実行に移した。それがムルマンスク攻略作戦であった。この作戦は、1944年8月に実施された。

 

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