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真の海防  作者: 山口多聞
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終盤戦 2

 連合軍によるマダガスカル島攻略作戦は、第二次北アフリカ上陸作戦とともに連合軍の総反攻の目玉であった。そのため、日英両海軍の主力艦隊が出撃すると共に、上陸する兵力も日英(豪と印を含む)軍プラス自由フランス軍合わせて6万近い大兵力であった。


 装備する兵器もいずれも最新式で、また日本軍の場合は中東戦線や対ソ戦からの転戦組が多かった。その他の軍もドイツ軍への総反撃の先方を担うこともあって士気が非常に高かった。


 ちなみに各軍の装備する兵器の内、アメリカ製の兵器が占めるウェイトが高い。もちろん、英軍や日本軍はそれぞれ自国での兵器開発能力を持っているから、それぞれ自国製の兵器も装備に含んでいる。


 しかしながら、兵の持っている小銃をみるとほとんどの兵士がアメリカ製のM1を持ち、また戦車も英国製のファイア・フライや日本製の4式戦車(88mm砲装備戦車)なども混じっているが、数の上ではアメリカ製のM4シャーマン戦車が主力であった。


 兵員輸送車両やトラックなどに至っては、全部隊の9割近くがアメリカ製のジープやトラック、もしくはそれをライセンス生産した車両であった。


 さすがに民主主義国家の兵器工場を自称するだけはある。とてつもない生産力である。


 加えて、英国製のファイア・フライ戦車は砲塔こそイギリス製だが、車体はシャーマン戦車のそれを流用している。また日本の4式戦車は純国産ではあるが、元々自動車生産能力の低いのがこの時代の日本である。そのためエンジンやトランス・ミッションなどの技術をアメリカから供与されており、そうした面から見ればやはりアメリカの存在が大きい。


 まさにアメリカの軍産複合体の大勝利である。しかもそれは戦争の勝利ばかりではなく、アメリカと言う国の利益面でも大きい。同国にしてみれば、多少の血は流さざるを得ないが、それでも許容範囲内とも言える。


 こうなると、日本をはじめとする他の国が損しているように見えるが、ここでどう犠牲に見合うだけの利益、しかも将来を見据えたそれを出せるかが外交手腕の見せ所なのである。


 ただし、情けないことに外交の歴史が浅く経験も乏しい日本はここでも他国に劣った結果しか出せないのが現状と言えよう。それでも、全く結果を残せなかったと言えばそうではない。


 例えばアメリカから大量に流入した技術は、日本が本格的に農業国から工業国へと発展する要因となったし、また海外への派兵はそれまで知名度が今一つ(特に中東やヨーロッパ)であった日本と言う国の存在感を示すこととなる。


 話を戻す。そうしたアメリカ製兵器での統一は何もアメリカの利益を潤すだけではない。戦場においても色々な面でメリットがある。まず補給が非常に楽になる。同じく国の兵器で、しかも同一の物を使っているのだから、他の部隊同士でも部品などを融通して使用することが出来る。また出発前の準備段階において、連合して一括発注できると言うメリットも見逃せない。


 加えて、アメリカからの補給であるなら補給路の距離が短くなる面やコストパフォーマンス的にも自国製兵器よりも安くつく場合もある。


 もちろん、兵士の中には自国製兵器にプライドを持つ人間も当然いるし、アメリカを儲けさせるだけとして嫌がる人間もいる。特に今回はこの作戦にアメリカ軍が参加していない分、そうした感情は大きくなる。


 しかし、それを抜きにしてもアメリカ製兵器で固めることによる上記のようなメリットの方が上回ったわけである。


 こうしてマダガスカル島攻略に従事する連合軍は、制服や細々とした装備を除けば、その多くの装備をアメリカ製兵器で身を固めることとなった。


 これら各部隊はセイロン島やインド各地の港に各方面から進出、集合の後輸送船や輸送艦に乗船して出撃している。ここでもアメリカ製のLST等の姿が目立つ。しかしながら、それ以上に存在感を放っている船がいるのも事実であった。


 それは日本陸軍の揚陸母船であった。船体内に多数の上陸用舟艇を収用し、さらに殆どの船が上陸支援用の航空機を搭載している。後の強襲揚陸船の先駆けと言えるこの船に、各国軍の注目も集まる。各船にはそれぞれ1000名ずつの歩兵と12機ずつの航空機が搭載されている。


 今回マダガスカル島上陸作戦で充当されるこの種の船舶は8隻であり、帝国陸軍の保有する同種船の3分の2を動員した大規模な物であった。


 これら揚陸母船の歩兵戦力は、航空機の援護の下で、他の輸送船に乗船している兵士たちよりも逸早く海岸へと突入し、橋頭堡の確保や進撃路を開くことを担っている。もちろん、その装備は最新式の物で固められ、まさに精鋭である。


 また彼らと同時にアメリカ海軍のLSTと同じ直接海岸に乗り上げ、戦車を揚陸する二等輸送艦が海岸に戦車や自走砲を送り込み、歩兵を支援する。加えて一部の二等輸は戦車の搭載数を減らして艦上にロケット砲等を搭載して上陸援護を行う予定であった。


 もっとも、それら陸上兵力も無事上陸できて何ぼの物である。海上で沈められれば、それこそ千単位で兵力が喪われ、文字通りの大惨事となってしまう。


 だから今回上陸部隊を護衛する護衛艦隊には歴戦の近海防衛艦隊の艦艇や、イギリス・インド籍の護衛艦艇や護衛空母、さらには数は少ないがやはり大西洋やインド洋、太平洋で経験を積んできた自由フランス軍の艦艇も混ざっている。


 自由フランス海軍は艦艇や造船所の殆どをドイツ軍やイタリア軍に押さえられてしまったので、主力となる艦艇の多くがアメリカやイギリス製である。しかもほとんどが護衛用艦艇である。それでも、彼らの士気は高かった。


 ちなみに今回の作戦に動員された護衛艦艇は、各軍各種艦艇合わせて60隻近い数となる。これに加えて上陸地点の掃海用艦艇や補給用艦艇も加わる。


 その規模は同時進行の第二次トーチ作戦に比べれば小さいが、それでもこの方面では初めてとなる大規模なものであった。


 先発する日英機動艦隊の後を追う形で航行する輸送船団の周囲を、護衛空母や護衛艦艇ががっちりと固め、それこそ蟻の子一匹近づけない様な厳重な警備網を敷くことで、ドイツ空海軍からの攻撃に備えていた。

 

 その他にも、インド洋各方面へと散らばった日英潜水艦も活動しており、これらも間接的に上陸作戦を支援する予定であった。


 マダガスカル島を巡る戦いは、艦隊が出撃した直後から始まった。定石通り、まず最初に艦隊に接触したのはUボートで、この艦が艦隊と輸送船団発見の報をマダガスカル島へ向けて打電した。


 この報告を受けて、マダガスカルではただちに全部隊が臨戦態勢に入ると共に、早速敵艦隊への攻撃準備を進めた。


 ただし、本来的艦隊攻撃の先方を担うべきドイツ空軍にとって、致命的と言えたのは長距離攻撃機は多数あったが、それを護衛できる戦闘機がほぼ皆無であったことだった。


 ドイツ、イタリア、フランスの各国空軍の運用思想は、ヨーロッパの空軍で採られる物で、すなわち航続距離の短い戦闘機と爆撃機による自国防空と地上部隊支援用の戦術空軍としてのものでしかない。


 第二次大戦開戦後は、相次ぐ勝利や戦線の広がりに対応して長距離飛行可能な戦闘機や戦略爆撃機も製造したりしたが、いずれも数は少なく、さらに長距離飛行可能な戦闘機と言っても、その基準となるべき航続力はヨーロッパのそれであり、本格的な長距離戦闘機の水準ではなかった。


 そのため、空からの攻撃と言うオプションをマダガスカル島の枢軸空軍は取ることが出来なかった。


 そこで、マダガスカルの枢軸軍総司令部が考えたのは、敵が近海に現われた所での陸海連携による全力迎撃であった。


 確かに、有力な水上艦艇こそいなかったが、マダガスカルにはSボートをはじめとする魚雷艇部隊、さらにはUボートや潜航艇が配備されていた。これらが空軍の支援の下で出撃すれば一定の成果を収められそうではあった。


 しかしながら、この作戦はすぐに破綻することとなった。

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