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真の海防  作者: 山口多聞
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戦線拡大 8

 昭和19年下半期から日本海軍はインド洋・アラビア海のみならず、南大西洋や中部太平洋を走る船団の護衛を行う必要に迫られた。当然ながらその範囲は広大である。これまで派遣した巡視隊程度ではどうにもならない。そのため帝国海軍は近海防衛艦隊のみならず、連合艦隊からも一部の艦艇を派遣している。もちろん、陸上基地航空隊も増援が派遣された。


 日本海軍にとって幸いだったのは、北から攻めてきたソ連海軍を早々と壊滅に追い込み、さらに陸軍や満州や樺太で善戦していることであった。これにより、北を憂うことなく艦艇を増派出来た。


 近海防衛艦隊の派遣艦艇は、相変わらず「松」型護衛駆逐艦や海防艦、そしてアメリカ製のフリゲートや護衛駆逐艦であったが、連合艦隊の艦艇は最新鋭の改「夕雲」型と「秋月」型駆逐艦が投入された。


 改「夕雲」型は日中戦争やノモンハン事件の戦訓を生かして建造された新型駆逐艦で、両用砲兼用の12,7cm砲6門と61cm魚雷発射管8門、爆雷60発を装備した対艦・対潜駆逐艦である。後期生産分からは、両用砲を性能の高いアメリカ製に換装した艦もある。


「秋月」級は日本海軍初の新規建造された対空用艦艇である。魚雷を撤廃した艦体に10cm連装高角砲8門と対空ロケット砲2基、40mm連装機関砲6基に、25mm連装機関銃を6基、爆雷60発を積んだ対空・対潜駆逐艦である。


 両級ともに艦隊決戦を念頭に置いた設計のため速力も速く、潜水艦を相手にするだけなら過剰な戦力である。しかしながら護衛艦艇が不足している状況であり、また相手がドイツ海軍であるため艦隊決戦もほとんど起こりえないと思われたので、投入が決定された。


 またこれら駆逐艦の旗艦として、改「阿賀野」級軽巡が4隻投入されている。「阿賀野」級は当初水雷戦隊の旗艦任務に特化した設計あったが、日中戦争やノモンハン事件の戦訓を生かして、主砲口径を当初より大きくし、さらに高角砲の増設と次発魚雷装填装置の廃止、対潜装備の強化を行っている。


 改「阿賀野」級は「阿賀野」級の拡大発展版で、「阿賀野」級では主砲が自動装填装置付きの15,5cm連装3基であったものが、連装4基に強化されている。また高角砲も8cm連装4基8門から連装6基12門と強化された。


 もっとも、実際にはそれらでも米軍の「クリーブランド」級やイギリスの「サザンプトン」級に比して火力不足であることが、その後アメリカやイギリスの交流で判明している。このため、帝国海軍では新たに「大淀」級の拡大改良型で15,5cm3連装砲4基搭載の「十勝」級を建造している。


 また航空機の脅威に対処するため、改「阿賀野」級と共同艦体で雷装を撤廃して10cm連装対空砲6基搭載した対空巡洋艦の「綾瀬」級も建造されている。これはコストと建造期間を抑えるための措置であった。


 これら軽巡洋艦は昭和16年ごろから竣工が始まり、未だ残っていた5500t級の旧式軽巡を置き換えた。ちなみにそれら旧式軽巡は改装を実施した上で玉突き式に近海防衛艦隊へ移籍したり、海外へ売却されている。


 また対潜作戦用として高速軽空母の「瑞鳳」と「翔鳳」も同時に派遣されている。日本海軍は予てからの計画に従い、特務艦や水上機母艦を空母へ改装している。これらは搭載機が30機程度(アメリカ製の機体なら40機程度)ではあるが、新型の油圧カタパルトや電探を搭載しており、搭載機も対潜哨戒機としては新型の「北海」が搭載されていた。


「北海」はアメリカから購入したTBF「アベンジャー」雷撃機の改良機で、対潜用に特化した機体である。具体的にはそのペイロードを生かして磁気探知機やレーダーを搭載している。そのため、膨らんだ胴体が特徴的であった。


 ちなみに、日本海軍では同機を雷撃機として使う機は全くなかった。既に「流星改」が就役していたのに加えて、日本製の航空魚雷を積めなかったからだ。


 余談ではあるが、アメリカ海軍は万能機と言える「流星改」やドイツ空軍が少数運用したFw190の多用途機を見て、「スカイレーダー」の開発を急がせたとされている。

 

 なお、船団護衛が主任務であるから戦艦や重巡洋艦と言った砲撃力はあるが、燃料をバカ食いする艦艇の類は出撃していない。そんな種類の艦艇を連れて行ってもあまり役には立たないからだ。


 こうした連合艦隊所属艦は順次本土やトラック島の軍港を出撃し、シンガポール・セイロン島経由でアラビア海へと入っている。


 この方面には、未だ最新型のXX1型の配備はなされていなかった。しかししながら、同級が北海や北大西洋方面に配備された影響で、それまでその方面にいた旧型艦がこの方面へ新たに派遣されていた。


 旧型と言っても音響魚雷やシュノーケル、最新式のレーダーや逆探を装備しているので手ごわい相手である。しかもドイツ海軍はアルゼンチンに新たな基地を設け、Uボートの行動範囲を拡大するとともに1回当たりの出撃期間を短くしていた。こうすることで、乗員の士気や戦闘力を上げていた。


 ドイツ海軍潜水艦も脅威であったが、マダガスカル島を中心に活動する仏伊の潜水艦も厄介であった。いずれも旧式艦が中心であるせいか以前ほどの勢いは無かったが、ドイツからの技術供与の元で改装を施し、音響魚雷を装備している艦もあった。


 またイタリア海軍潜水艦は伝統的に小型潜水艇を搭載することがある。この小型潜水艇は日本海軍が計画した甲標的などとは違い、水中スクーターに毛の生えたようなものもあるが、地中海では港に停泊していた英戦艦2隻を撃沈するという武功を建てている。


 集団での戦闘には弱いが、個人的に武功を建てる機会が巡ってくると命を掛けて戦うのがイタリア人と言う風評をよくあらわすような兵器であった。もっとも、イタリア人の名誉のために言えばそれは大きな間違いで、ちゃんと部隊単位で奮戦した事例もある。


 それはともかくとして、イタリアとフランスもドイツが勝ち戦を続けているということもあって、それなりに余裕があった。やはり物資があるというのは、精神的にも余裕を与えるものだ。特に戦争中は。


 イタリアにとってみれば、石油さえあれば戦える。どこぞの世界の1943年に連合国に寝返ったイタリア海軍が不甲斐ない戦いしか出来なかったのは、備蓄していた重油の量が限られていたからだ。


 イタリア本国では石油は出ないし、後に有望な油田地帯として有名になるリビア油田はまだ発見されていなかった。そして海外からの石油の輸入も困難になった状況で戦争を行ったことが、イタリアにとっての大きな間違いであった。


 しかしながら、この世界のイタリアの場合は中東の油田とソ連からの石油輸入のおかげで、燃料に事欠いてはいない。燃料どころか、鉄やアルミといった戦略物資もなんとかなっていた。


 こうした豊富な物資があるおかげで、イタリア海軍は大戦に突入してから戦艦2隻、空母2隻、巡洋艦8隻、駆逐艦20隻を新たに竣工させていた。潜水艦はさらに多く34隻である。


 枢軸海軍の潜水艦が根拠地としていたのが仏領マダガスカル島で、ディエゴ・スワレスの軍港には修理用のブンカー(厚いコンクリートで造られた潜水艦用格納庫)まで造られていた。また、同島が日本海軍機動部隊に襲撃を受けたことから、少し下がった航海の出口であるジブチやソマリアなどにも補給基地が設置されていた。


 以前はここを出撃した枢軸海軍潜水艦は、アラビア海やベンガル湾、さらに一部が南大西洋に出撃して再びマダガスカルに戻る方法を採っていた。このため日本海軍や英海軍は、暗号解読や商船襲撃情報などからの予測の上でこの出戻りのドイツ潜水艦を襲撃するための潜水艦を派遣していた。


 しかしながら、新たにアルゼンチンが敵になったことや後方の拠点が整備されたことで、マダガスカルを出撃した潜水艦がそのまま戻らないという事例が増えた。


 さらに、枢軸各国の空軍も対潜哨戒を厳しく行うようになった。日本やイギリスが基地航空隊を対潜哨戒に投入したのを、ドイツやイタリア空軍も実践するようになった。


 このおかげで、日英海軍潜水艦によるUボートやドイツ艦船の基地近海での襲撃は極端に制限された。


 こうした諸々の事情が重なり、日本海軍はこれまで担当してきた海域においても、船団護衛の負担が以前にもまして増えた。


 そうした状況下で連合艦隊から艦艇が分派されたことは、守られる商船側にとっても、守る近海防衛艦隊派遣艦隊や基地航空隊にとってもありがたいことであった。


 昭和19年10月25日、連合艦隊派遣部隊に守られた最初の護送船団がセイロン島を出航、ケープタウンを経由して英本土へと向かった。


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