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真の海防  作者: 山口多聞
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戦線拡大 4

1944年2月、ドイツ海軍が投入した新型UボートのXX1型は再び連合軍を恐慌状態に陥れた。これまでの潜水艦に比べて水中において発する音が遥かに静かであり、動きも素早く潜航時間も長い。


 すなわち、これまで潜水艦を狩っていた護衛艦や対潜哨戒機からすれば捕まえにくく、見つけても撃沈し難い船ということとなる。もちろん、Uボートにすれば以前の艦より攻撃し易くなったと言うわけである。


 XX1型は「U2511」が単艦で護衛空母「ブロック・アイランド」を始めとする多数の艦船を沈めたのを皮切りに、各地で暴れ始めた。


 わずか12隻の投入でしかなかったにも関わらず、1回目の出撃だけで撃沈は各種艦船26隻に上り、さらに撃破された艦船はその倍となった。対するXX1型は連合軍側にしてみれば未知の敵であったこともあり、2隻が軽い損傷を受けたのみであった。


 つまり、XX1型の初陣は完全なワンサイドゲームに終始したわけで、当然ながらゲッべルス長官のドイツ宣伝省はラジオで声高にこの戦果を宣伝した。もちろん、XX1型の詳しいことには触れず、単に「画期的な新型潜水艦」とだけ報じた。


 ドイツ国民、それに海軍兵士やUボートの関係者はこのニュースに狂喜乱舞したのであった。特にUボートの乗組員は、連合軍側が対抗策を造り上げた旧式Uボートから乗り換えられることに胸を膨らませた。


 一方、連合軍はこの新型Uボートに頭を悩ませることとなった。何せ静粛性や運動性がこれまでの概念からかけ離れているのだ。そのため、これまでの戦備や戦術の多くが役に立たなくなる可能性が出てきた。


 特に低速な漁船改造の対潜トロールをはじめとする小型護衛艦艇やそれらに比べて大きく量産されている護衛駆逐艦、加えて商船改造の護衛空母も危なかった。これらの艦艇は速力が10ノット前半から20ノット前半程度しか出せない。これでは新型Uボートを逃すばかりか、逆に狩られてしまう。


 また静粛性能が向上したと言うことは、聴音機もより精度の高い物が求められる。当然レーダーや磁気探知機もそうである。


 対潜運動や対潜攻撃術も新型のUボートのスピードを想定した新しいものを作り、訓練を急がなければならない。でなければ、再び大西洋はUボートの天下となってしまう。


 この件に関しては日本も同じであった。日本の護衛駆逐艦は取り敢えず30ノットは出るので良かった。しかしワンランク下の海防艦や駆潜艇などは、連合軍の同種艦と同じく速力が遅い(18~24ノット程度)という弱点を抱えていたからだ。ただし日本にとって幸運なことは、主戦場であるインド洋にこの新型がやってくるまでに、まだ時間がありそうだということであった。


 ただし、この新型Uボート配備までの時間的余裕は結局日本側にとってメリットがあるのかわからないものであった。なぜならついに枢軸よりの姿勢を見せていた南米のアルゼンチンが3月に、続いて4月にはソ連が連合国に宣戦を布告した。


 この両国の宣戦布告は、明らかに新型Uボートの活躍で再びドイツ側に戦局が傾き始めたことに触発されてのことであった。もちろん、連合国にとっては頭の痛すぎる問題であった。


 アルゼンチンの宣戦布告は南米にドイツ海軍の拠点が出来ることを意味し、これでUボートは南大西洋、アラビア海、インド洋、さらにホーン岬を回って太平洋方面への活動を拡大できる。


 そうすると連合軍側が哨戒すべき範囲は極端に広くなり、各国はこれまで以上に対Uボート戦力を投入する必要に迫られることとなった。


 またアルゼンチンにドイツの空軍や陸軍が進出すれば、連合国側についているブラジルとの衝突も有り得るし、今後の戦局によっては中立のチリが枢軸側についてしまうかもしれない。


 そして日本にとって厄介だったのは、南米の宣戦布告ではなくソ連の宣戦布告であった。何せソ連は日本のお隣であるから。


 案の定と言おうか、ソ連軍は宣戦を布告すると早速樺太や千島、満州方面で作戦行動に移った。この日のために戦力を大幅に増強してきた太平洋艦隊と極東ソ連軍が一斉に動き始めた。


 ちなみにソ連太平洋艦隊は、日本軍による空襲を警戒して既にウラジオストックから出港し、北にあるペトロハヴロフスク・カムチャッキーに移動していた。


 さすがに海軍力、特に水上艦隊戦力では増強したとはいえ巡洋戦艦1隻、重巡洋艦4隻程度の太平洋艦隊ごときでは、日本の誇る連合艦隊には対抗できないことくらいソ連軍もわかっていた。


 それに対して、極東ソ連軍の方は満を持して進軍を開始した。一応ヨーロッパと中央アジア戦線が主戦線であるため、ソ連軍の誇るT34やKV1と言った戦車は部隊の半分ほどしか充足しておらず、残り半分は旧式となったT26やBT7型戦車であった。


 それでも、ソ連軍上層部は勝利を確信していた。かつてノモンハンの戦いで登場した日本軍の戦車は、極一部を除いて旧式な車両か小型の車両ばかりであった。こうした車両相手ならソ連側の旧式車両でも勝てる。


 日本側は一応ドイツ軍と戦える戦車を開発していると言う情報も入手していたが、それらは全て中東へ行っており満州には旧式な車両しか残っていないというのがソ連側の情勢判断だった。


 確かに、前線近くの駐屯地の戦車ならばそうであった。しかしながら、実際のところはそうではなかった。実は国境から大分下がった基地には中東でドイツ戦車と戦っている長砲身の75mm砲と正面装甲圧75mmの装甲版を装備した3式中戦車が配備されていた。また同戦車の車体に100mm砲を固定砲として装備した4式砲戦車も少数ながら存在した。


 ただし、これらの戦車はいずれも少数もしくは部隊の半分程度の充足率で、主力の戦車は口径の小さい75mm砲を搭載した1式中戦車やアメリカから輸入したM3「グランド」中戦車、M3「スチュワート」軽戦車であった。


 これらは日本の満州帝国駐留軍に格上げされた関東軍のみならず、満州帝国陸軍にも大量配備されていた。


 創設以来傀儡国家と言われ続けた満州国であったが、米英が圧力をかけてきた関係もあり、依然として日本の影響下にあるもののかつてよりは自治出来る範囲が大きくなっている。


 日本としてはいずれ満州を併合する腹積もりだったようだが、結局それは早い段階で費えてしまった。日本側の同化政策的な植民地政策は物質的な貢献は別として、人々の顰蹙を買いやすかったからだ。そのため、国を造り上げた直後から反乱が頻発していた。


 アメリカやイギリスの干渉で高圧的な支配を取りやめた結果、ようやくそれも収まった。加えて日中戦争後の戦争景気のお陰で日本からの移民者が予定より少なくなったことや、大慶油田やアメリカ・イギリス資本の進出によって、満州国が空前の好景気に沸いていたのも国が安定した一因だった。


 この時期の満州は奉天などの都市近郊における重工業化が急速に進み、特に自動車生産では早々と日本を追い越して輸出するくらいであった。戦車の生産も日本側のレベルにほぼ追いついていた。だからこそ、日本陸軍の近代化は成功したのである。


 また満州国は固有の満州族に入植した日本人・朝鮮人・蒙古人、亡命してきた白系ロシア人にユダヤ人、進出してきた企業と共にやってきた米英系の人々、内戦を恐れて逃げてきた漢族など人種の坩堝状態となっていた。


 こうした人々で編成された満州国軍は、言語問題など多種多様な問題を抱えていたが、装備についてはアメリカなどから輸入することで忠実しており、またかつてと違って将兵の満州国に対する愛着が格段に増していた。すなわち、士気はかつてより遥かに高くなっていた。


 その満州国軍が主力となって、満州国では極東ソ連軍との戦闘に入った。


 国境線付近の要塞はソ連軍の抜かれることが前提だったため、早々と抵抗を諦めて撤退している。かつてはソ連軍の足止めに有効とされた要塞も、ヨーロッパや中近東の戦訓によってその価値は減じていた。


 その代わり満州側は空軍による徹底した攻撃を掛けた。日本製の3式戦闘機「疾風」を木製化した「火鳥」戦闘機や、アメリカから輸入した戦闘爆撃機P39「空蛇」、同じくアメリカ製のA20「破壊」爆撃機などがソ連軍に反復攻撃を仕掛け、また前線に部隊を運ぶ満鉄線の列車を守った。


 ソ連空軍も出てきたが、戦闘機はLag3など1世代前の機体ばかりであり、Il2「シュトルモビク」襲撃機も後部銃座が無い初期型が多く投入されたため損害が続発した。何より、航続距離が短かったため充分なエアカバーを出来なかった。長距離出撃可能な爆撃機も戦闘機の援護がないため大損害を負った。


 ソ連軍は当初こそ快進撃であったが、その後空襲が始まると停滞してしまった。そうこうしている内に、満鉄を使って運ばれた戦車部隊や線路上から砲撃可能な装甲列車が反撃を開始した。


 こうして満州における戦闘は一気に激化した。ただし、圧倒的に損害が多かったのは満州国軍を舐めきっていたソ連軍であった。しかしながら、ソ連側も圧倒的な物量(特に兵士)を持って抵抗し、戦闘はすぐに長期戦の様相を呈した。


 一方、ソ連と日本の戦いは海でも行なわれていた。


 御意見・御感想お待ちしています。


 先日深夜に再放送していた宇宙戦艦ヤマトの劇場版を見て、久しぶりに熱くなりました。

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