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真の海防  作者: 山口多聞
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第一次世界大戦 上

 1914年9月、ボスニア・ヘルツェゴビナの州都サラエボにて、現地を訪れていたオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子フェルディナント夫妻が、セルビア人の青年に暗殺された。これを口実にオーストリア=ハンガリー帝国はセルビアを併合、一方のセルビアはロシアを味方につけた。ロシアはもちろんセルビアを支援する目的でオーストリア=ハンガリー帝国に宣戦布告した。


 その後オーストリア=ハンガリー帝国のお隣に位置するドイツ帝国は、それに味方してロシアに宣戦布告した。対してロシアに味方する形でイギリス・フランス等がドイツに宣戦布告し、連合国となって対抗した。


 帝国主義時代、ヨーロッパの中心国同士の戦いは即世界的な覇権を巡る戦争に繋がることを意味し、後に第一次世界大戦と呼ばれる戦争はこうして始まったのであった。


 戦争の初期こそ、ナポレオン時代以来変わらない戦術や装備で戦われていたこの戦争も、間もなく各国が機関銃を始めとする新兵器を投入したために、前線の兵士は進撃を阻まれ、西部戦線では戦線全体が膠着した。


さらに国家の全力を挙げて戦う総力戦という形態で維持したこの戦争は、これまでの戦争と比べて犠牲者の数や物資の消費量も飛躍的に増大することとなった。例えばフランスではパリのルノー・タクシーが大量動員され戦場へ兵士をピストン輸送した。ロシアでは1ヶ月で弾薬が底をついた。


灯火管制や子供の疎開、さらに代用品の生産や切符による配給制等、後の第二次世界大戦で大々的に導入された方法が生まれたのもこの戦争である。


 クリスマスまでには決着が着くとほとんど全ての人々に思われた戦争は、1年目からそうした予想を裏切って長期戦の色を濃くした。独仏国境の西部戦線には機関銃の射撃から身を守るために塹壕が掘られ始め、その長さは北海にまで達した。


 前線における両軍兵士は塹壕の1本1本を多大な犠牲を出しながら、奪ったり奪い返されたりを繰り返した。


 こうした膠着した戦況を打破するために、さらに様々な新兵器が投入された。急遽実用化された戦車や毒ガス、新型のトラックや装甲車。こうした兵器は前述した戦争の犠牲者や物資の消耗を伴うと共に、それまでの戦争になかった新しい戦術や概念を生み出していった。


 また陸上以外の兵器の進歩も目覚しかった。空ではライト兄弟の初飛行から10年ちょっとしか経っていないにも関わらず、初歩的な偵察機や飛行船からあっというまに本格的な戦闘機や爆撃機へと進化を遂げた飛行機が飛び回るようになり、有名な戦闘機同士の空中戦や大型爆撃機による都市爆撃、果ては戦場への物資の空輸まで行われた。


 海上ではイギリスの「ドレッドノード」以来急速にその攻撃力や防御力を向上させた大型戦艦や、水中から目に見えない攻撃を仕掛ける潜水艦が走り回った。


 ユトランド、シュットランド沖海戦ではたった10年前の日本海海戦を上回る性能と量の戦艦が激突し、その戦闘距離も主砲の大型化や新型砲の採用によって大幅に伸びていた。戦艦の主砲射程の長距離化は、砲弾の進入角の増大も意味し、それまでの防御装甲では敵の砲弾に対処できなくなった。


 そうした直接の艦隊同士の戦いも然ることながら、この戦争で大きな威力を発揮したのがドイツ海軍による通商破壊戦である。


 1870年に独立したドイツは、建国がかなり後であったこともあって、精強な陸軍こそ保有していたが、海軍についてはしばらくの間貧弱であった、ようやく20世紀に入る頃から急速にその戦力を拡大した。


 皇帝ヴィルヘルム2世の夢とも言えたこの大海艦隊は、英国海軍と戦えるまでに成長した。しかしながら、所詮は陸軍国家の海軍であった。英国海軍と戦えるまでには成長できても、圧倒できるまでにはならなかった。


 艦の性能的にはイギリス海軍を上回っている点があったにも関わらず、最終的に皇帝自慢の大海艦隊はロイヤル・ネービーの前に敗れることとなった。


 そこでドイツ海軍は、自国の貧弱な海軍力で強力な連合国海軍に対抗すべく、少数の水上艦や仮装巡洋艦、さらにはこの時代の最先端兵器であった潜水艦による通商破壊に移行した。


 10年ちょっと前の日露戦争では、ロシア海軍が日本の商船を襲い戦果を挙げたが、攻撃の規模自体は小規模であり、あくまで満州行きの輸送船が主目標であった結果、日本という国自体を危機的状況に陥らせるには至らなかった。


 しかし先にも書いたがこの第一次大戦は総力戦である。すなわちあらゆる分野に戦争が関係することとなった。(ただし民間への攻撃は戦争がどんな形態であっても国際法違反)そのため例え軍と関係しない商船や客船を沈めても、それが何らかの形で響くようになるわけである。


 そしてその洗礼を受けたのが、イギリスであった。イギリスは島国という特性上、どうしても近代的な生活を送る上での必要物資を海外へ依存する必要がある。この時代の場合はそれが植民地であったが本質的には何も変わらない。


 インドやオーストラリア、カナダ、マレー半島と言った世界中の植民地からもたらされる様々な資源あってこそ、七つの海を支配した大英帝国は成り立ったわけである。しかし、それには絶対条件としてそれら国々からの輸送が滞りなく行われなければならない。


 民需・軍需関わらず、輸送が何らかの支障をきたせば即英本土では物資不足が起きる。そしてそれは現実に起きてしまった。


 ドイツ海軍は多数の潜水艦(Uボート)を実戦投入し、英国の通商路を破壊しようとしてきた。この時代のUボートは潜航することが可能な艦という程度の性能で、積んでいる魚雷自体の性能も低かった。


 しかしながらこの頃英国の商船のほとんどは船団を組まずの独航であり、しかも非武装であった。また潜水艦を狩るべき水上艦艇の対潜兵器はまだ初歩段階であった。ようやく爆雷が開発された程度で、敵の潜望鏡を見つけてカッターで近付いて布を掛けるという戦法も真剣に討議された時代だ。また上空から襲う対潜哨戒機という概念もまだなかった。そのためUボートは魚雷どころか、浮上して積んでいる小型砲で砲撃するだけの余裕が充分にあった。


 ドイツは英国海軍によって通商路を締め上げられていたが、ドイツは新兵器を使ってこれに報復したわけである。数多くの英国や英国へ物資を運ぶ中立国の商船が討ち取られ、数多くの物資と共に海深く沈んでいった。


 さらにドイツは水上艦艇や仮装巡洋艦による通商破壊も実施している。この内東洋艦隊に所属し、インド洋方面で暴れまわった軽巡「エムデン」の活躍は伝説となったし、また仮装巡洋艦も活躍している。ちなみに余談であるが、日露戦争で悲劇の船となった「常陸丸」の2世はドイツの仮装巡洋艦によってインド洋で撃沈され、現在に至るも船主の日本郵船は「常陸」という名を船に冠していない。


 さて、そんな世界規模でありなおかつ様々な新機軸が投入されたこの戦争に当然日本も参戦している。当時の日本は英国の同盟国であったため、即座に連合国として参戦した。(ちなみにこの参戦には、日本のアジアにおける勢力拡大を怖れたイギリスが反対を示したなど、諸説ある。)


 日本軍が攻撃したのは中国の青島であった。青島はドイツの租借地であり、数少ないドイツにとっての海外領土であった。また港町でもあるため、ドイツ東洋艦隊の基地でもあった。


 日本軍はこの青島のドイツ軍要塞と、東洋艦隊撃滅を図った。しかしながら、シュペー提督率いるドイツ東洋艦隊は強力な日本艦隊との交戦を避けるため逸早く脱出しており、日独の海戦はついに生起しなかった。


 最終的に青島のドイツ軍は数に物を言わせた日本軍に対して降伏した。なおこの時日本は袁世凱率いる中国政府(清朝崩壊当時の中国で正当な政府がどれであるかを判断するのに苦しむが)に対して21か条の要求を出し、中国はこれを国辱としたのは有名な話である。


 またこの青島の戦いでは日本軍が初めての独自の航空部隊を実戦参加させたが、性能的に欧米の飛行機に劣った日本軍航空部隊はたった1機のドイツ偵察機に掻き回されるという苦い経験を味遭うこととなった。


 これに対して、フランス軍航空隊に義勇兵として参加した滋野男爵他のパイロットたちの方が戦争に貢献したと言えるかもしれない。


 ドイツとのアジアにおける戦闘はそれだけであったが(マリアナ等の攻略はほとんど戦闘が起きていない)、日本軍は先にも述べた「エムデン」掃討のために戦艦「伊吹」を派遣したりしている。この時は残念ながらオーストラリア巡洋艦「シドニー」が「エムデン」を撃破している。


 さて、それ以外にも日本軍は連合国としてこの戦争に関与することとなる。もちろんそれはヨーロッパの戦場である。ここからまたも違う歴史が動き出すこととなる。


 御意見・御感想お待ちしています。


 次回更新は22日から24日にかけて行う予定です。帝国海軍がヨーロッパへと出撃します。

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