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咲き誇る花々は世界を知らない  作者: 入沢日呂
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8.……ツンデレ疑惑の校内案内

 相楽が教卓から離れ、教室のドアに手をかける。それを合図に生徒達は席を立ち、教室を出た相楽の後を追ってぞくぞくと教室をあとにする。


 まずは一番下の階である地下二階から校舎案内は始まった。

 地下二階は二つの演習場がある。大きさは二つともほぼ同じ大きさで、廊下からは演習場の中が見えるようにガラス張りになっている。


「この演習場は授業開始前や放課後は申請が必要になるが、自由に使ってくれて構わない。そしてガラス張りだが、能力を使っても武器を使っても割れない構造の特殊加工ガラスだから遠慮することはないからな!」


 相楽はそう説明して、生徒を連れて演習場の中に入る。


 中はガラスの箇所意外はコンクリートと木材でできているらしく、非常に殺風景だ。

 こんな広い演習場が学校の校舎内にあることに、生徒達は少なからず驚いているようで、辺りをキョロキョロとしている。


「……なんか、これだけ見てると本当に能力使っても耐えられる場所なのかわかんないわね」


 万折の近くを歩いていた干奈が疑問を口にする。その質問を待っていたかのように、相楽は干奈のほうを見て笑顔になった。


「その疑問はもちろん浮かんでくると思っていた。じゃあ今からどんだけ強固な場所なのか証明して見せようじゃないか!」


 そう言うと、右腕を大きく振り上げる素振りをする。そして何も無いはずの右手から魔方陣のような陣が浮かび上がり、光を放ちはじめた。

 その光っている右手をゆっくりと下に下げると、大鎌が姿を現した。


「これが俺の武器だ。能力は物理強化と言って、その名前の通り俺が触っている物の強度を上げる能力だ。今からこの武器と能力を使って、この演習場を破壊するほどまでに暴れてみようと思う」


 すると相楽の纏う空気がガラリと変わった。

 演習場がピリピリと緊張感のあるものに変わり、生徒達はその空気に唾をごくりと飲み込んだ。


 鉄でできている鎌は、傍から見ても銀色に光っている。それは鎌という物を知っている人から見たら当たり前のことだ。しかし、その銀色に光るその鎌が、能力を纏った瞬間に黒く光った。


 それは錯覚でもなんでもなく、生徒達全員が目視した事実である。


 相楽はその能力を纏った大鎌を何の躊躇いも無く振り上げ、そしてその鎌は演習場の床に重力に従って勢いよく落ちてくる。

 だが、能力によって強度を増した大鎌は、その床に突き刺さることは無く大きな音をさせて弾かれてしまった。

 もちろん強度を増している大鎌はヒビなどもなく無傷だったが、なんと言ってもその大鎌を弾いた床は、攻撃される前と変わらず綺麗なものだった。


 その後も何度も何度も演習場を攻撃したが、傷など一つも存在しなく、訪れたとき殺風景の景色のままであった。


「……さぁ、これでこの演習場の強度がわかったと思う。この学園自体こんな造りになっているから、何かあったとしても崩壊するなんてことは無い。そこは安心してほしい」


 大鎌の持ち手を床にトンと置いて、相楽は言う。そして生徒達が感心している間に、出している武器はあっという間に姿を消した。


「実技の授業なんかはこの演習場で行う。最初の間は授業は無いが、さっき言った通り申請書さえ出せば使っていいからな」


 それじゃ、次の階に移動するぞという相楽の言葉を受けて、生徒達は見回していた視線を相楽に向ける。そして演習場を出た相楽に今までのように付いて行った。


 次に案内されたのは一階上の地下一階のフロアだった。


「ここは授業で使うことは無いが、ほとんどの生徒はここを使うだろう。ここは学園の食堂になっている。昼ごはんはここで取っている者がほとんどを占めていて、一般のレストランなんかよりもかなり安く食事をすることができる。弁当派だという奴も、一度でいいからここで食べてみてくれ!ちなみに俺のオススメは『キムチラーメン半チャーハンセット』だ。旨いから辛いのが好きな奴は是非食べてくれ!」


 得意げに語る相楽に生徒達もわくわくした様子だ。


 食堂の前に移動すると、そこに今月の人気学食ランキングなるものが張り出されていた。王道のカレーライスが一位で、二位はミートソースパスタ。相楽のオススメであるキムチラーメンは三位にランクインしていた。

 食堂の入り口付近に近づけば、様々な食べ物の良い臭いが廊下まで漂っていた。


「この匂い、めちゃくちゃ腹が減る……」


 腹の虫を鳴らしながら、万折は空腹を訴えている自身の腹を擦る。他の生徒たちも同じなのか、何人かは盛大な腹の虫が空腹を知らせている。


「ははっ、あと少しで昼だ。それまで我慢してくれ」


 地下一階は食堂で占めているらしく、他に案内するような場所は無いと言う。食堂は食券を購入してスタッフに渡すだけの単純なものだと言う説明だけして、一同は次の階に移動する。


 次は地上階に上がって、学園の玄関がある一階を見て回る。


 ここは学園に関わるものが出入りする場所。全校生徒全員分の靴を入れるための下駄箱と、教師や来訪者のための靴箱。豪華絢爛な校舎に見合うような美しい花達。

 人の家に入ったときも、玄関を見ただけでどんな家なのか大体が想像つくという。この学園は入った瞬間から誰もが溜息が出るような美しさに目を奪われる。


「ここはお前たちも知っての通り、昇降口だな。一階は別館に行くための廊下が存在する。他の階からは別館に移動できないから気をつけてくれ。別館の説明はまた後日するから、今はこの本館だけ頭に入れてくれ」

「別館……。別館って何があんだっけか?」


 万折は相楽の説明で、別館に興味が湧いたらしい。端末を忘れた所為で校内の見取り図が見れないので、自身の近くにいる干奈に近づいた。そして干奈の端末を覗き込む。


「別館のマップみーしーてー」

「はぁ!?自分の見なさいよ…って、そうだった。あんたタブレットないんだったわね…」


 大きくはぁと溜息を吐きながらも、干奈は万折が見えるように端末を近づけた。


 見せてもらっている当人は、アップにしたり引きで見て見たりと、様々な大きさや角度で見取り図を見ている。


「へぇ、別館は図書館だったりトレーニングルームみたいなところとかあんだな。…あとは、音楽室?とか技術室みたいなやつか。これ必要かぁ?」


 ブツブツと独り言を言っている万折を冷たい目線で干奈が見つめる。


「ちょっと、いつまで見てんのよ。もういいでしょ!」


 端末をいつまでも弄り続けているのを見て、干奈は痺れを切らした。万折の手から端末を奪い取り、別館の地図から本館の地図に戻す。


「――お二人とも、早くしないと置いていかれてしまいますよ…?」


 そんなやり取りを切り裂くはっきりとした声が、二人に届く。


 ぱっと顔を上げれば、可奈子が心配そうにこちらを見ており、そして辺りを見渡せばクラスメイトや担任の相楽の姿は無かった。可奈子の姿より向こうに視線を向ければ、クラスメイトや相楽はいた。

 そこで自分達がまた独自の世界に入り込んで、周りに置いて行かれたのだと理解した二人は、早歩きで全員がいるところに向かった。


 そんな姿に可奈子は笑いを堪えきれないようで、くすくすと可愛らしく微笑んでいた。


「あんたのせいでまた置いていかれるところだったじゃないの!」

「またぁ?おいおい、変な言いがかり言うなよ。いつ置いて行かれそうになったよ」


 意味が解らないとでも言いたげに、万折は干奈を見る。干奈はその視線の主をギロリと鋭い瞳で睨みつけ、少し声を荒げた。


「入学式の祝電と今よ!」

「そんな前の話未だに引きずってんのかよ。女々しいなぁ」

「あんたは…!口も悪いし、性格も悪い!」

「いやー、褒められると照れる」


 褒めてないわよと今度こそ大声で声を荒げる。周りが何事かと二人に視線をぶつけるが、万折と干奈の言い合いだとわかると元に視線を戻した。

 数時間しか経っていないにも関わらず、クラスメイトは二人の関係性や性格を何となく理解したようだ。


 そんな二人を可奈子は見つめながら、未だにくすくすと笑っている。


「ふふ、本当にお二人を見てると楽しいですね。見てるだけでこんなに楽しい気持ちになるなんて、なかなかないですよ」

「何それ……。褒めてるのかもしれないけど、全然嬉しくないんだけど」


 干奈は肩を落とし、げんなりした表情で言う。そんな彼女を見ても可奈子は可愛らしく微笑んでいる。


「人を楽しませられると言うのは、ある意味で才能だと思うんです。わたしはお二人を見ているととても心が弾むので、わたしの中では最大級の褒め言葉です」


 褒め上手と言うのはこういうことなのだろう。本人が短所だと思っていることも、他人から見てみれば長所である。それを言葉にすることは簡単だが、本人の心に刻み込めるかは別問題だ。


 可奈子の最大級の褒め言葉は、干奈の心に少なからず刻み込めたようで、彼女の顔は少し赤みがかっている。傍から見ても解るように、照れている。


「ま、まぁ、そんなことは今はどうでもいいのよ!ほら、さっさと行くわよ!」


 全く上手くない照れ隠しをし、干奈は他の生徒達がいるとこへ早歩きで歩いていく。


「天然砲炸裂。というかあれが俗に言うツンデレか…」

「ツンデレ?何ですか、ツンデレって」


万折の独り言に可奈子が反応した。

 疑問の表情で万折を見上げる可奈子を横目で一瞥し、少し考える素振りをする。そして口角を少し上げ、にやりと笑った


「んー?今の一連の流れ」

「一連の流れ…?」


 万折の答えに疑問を解消できなかったらしい加奈子は、頭にハテナマークを浮かべる。

 また横目で可奈子を見ながら、笑いを堪えきれない表情で万折はニヤニヤしている。そしてその表情のまま、クラスメイトがいる場所まで歩き始めた


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