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咲き誇る花々は世界を知らない  作者: 入沢日呂
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7.……無関心と迷子

メインの奴らほぼ喋りません

 その男性の年齢は、顔の皺などからして四十代ほどの年齢と思われる。きりっとした眉毛だが、その瞳は優しい少したれた瞳。見た目的に言えば、厳しくも優しい人なのだろうと思うだろう。


「席を立っている者は着席するように。今から初回のホームルームを始める。俺がこのクラスの担当教員、相楽孝治だ。これからよろしく頼むな」


 自席に座っていない生徒は、その声を合図に自分の席に戻り着席する。


 見た目どおりに爽やかな挨拶をした相楽という男性教諭は、黒板に自身の名前を書く。小さすぎず、大きすぎないその文字は誰からも見やすいだろいう。字も一般的な男性のイメージよりも綺麗に書かれている。


 自身の名を書き終わると、相楽は生徒達に向き合う。

 生徒に向き合うと、ゆっくりと教室を見回し、一人一人の顔を確かめるようにじっくりと視線を動かす。


「――…よし、全員いるな。じゃあ、今から始めるぞ。全員起立!」


 相楽のその声に全員が席から立つ。そして礼と言うと、生徒は頭を下げる。

 特に何か指導されたわけではないのにも関わらず、皆が皆行動が綺麗に揃っている。今着ている軍服のような制服のおかげで、その姿はまるで軍隊のようにも見えなくもない。


 そこからはとてもスムーズだった。

 生徒全員に資料として三枚の紙が配られる。全員に配り終えると、クラス全員の名前が呼ばれ、それに個人個人で返事をする。そして理事長と校長が話した内容をもう一度確認するかの如く、相楽は同じような内容の話をした。


「君達は今日からこの学園の生徒であるということを自覚してほしい。この学園に入学するということは、【能力者】であることが大前提だ。ここに入学した君らは選ばれし【能力者】であることだろう」


 何の感動も感情もなく、当たり前のこととして相楽は話す。生徒たちもそれに頷くこともなく、ただただ話を聞いている。


 だが、やはりまともに話を聞いていないのが若干一名だけいて。

 退屈そうに万折は肘を立て、配られた資料をパラパラと捲る。それにも大して興味が無いようで、ペンを筆箱から出すと何かを書き始めた。


「明日からは通常授業が始まる。始めの時期は能力を使った実技はやらない。始めは座学の授業からだ。能力を使うにも、知識が無かったら意味がないからな。明日からは全員もっと気を引き締めて言ってほしいと思う」


 それでは資料に目を通してくれという相楽の言葉に、一斉に生徒が資料を捲り始める音がする。一名を除けば全員真面目に話を聞いていることが解るほどに、その音は完璧に重なっていた。


 その音に万折は一瞬周りを見渡したが、また資料に目を向けペンを動かす。


「その資料に記載してある通りに明日は進めるからな。全員記憶して置くように!まぁ、全部を記憶しておくことなんか無理だろうから、大体は覚えておいてくれると助かる」


 資料に相楽の言葉をメモする者、自分のメモ帳を取り出して書き記す者がいる中で、万折は一切相楽の言葉に耳を貸すことは無い。


 万折の目の前にある資料は、万折が描いた落書きでびっしり埋まっていた。上手くも無いが決して下手でもないその落書きは、動物だったり食べ物だったりと沢山描かれている。

 自分で描いたその落書きに満足したのだろう。満足げな顔をして、やっと視線を前に向けた。


「では以上でホームルームを終えようと思うが、質問とかある奴はいるか?」


 その問いに誰も手を上げる者はいなかった。それに頷いた相楽は資料をしまい、新たに電子機器を取り出した。


「じゃあ、各自持参してきたであろうタブレットを出してくれ」


 生徒達はバッグから各自持ってきたタブレットを机の上に置き、相楽の次の言葉を待つ。


 しかしその中で、万折はガサガサとバッグの中を漁ったままだ。


「そこの、えーっと、………鈴原。タブレット忘れたのか?」


 相楽はただ一人だけ未だにタブレットを出していない万折に目を向けた。入学初日でまだ生徒の顔と名前が一致していないのだろう。教卓の上にある座席表に目を向け、その席に座っている者の名前を確認すると、その生徒にその場から声をかける。


 その声に生徒達は一斉に万折の方向に目を向けた。万折はその視線を気にしていないようで、ふぅっと息を吐き相楽に真っ直ぐな視線をぶつけた。


「持ってきたと思ったんすけど、バッグの中から見つからねぇんでたぶん忘れたっすね」


 必需品を忘れたら、人は罪悪感と不安感で声が小さくなることだろう。しかし万折に至っては、そんな感情は持ち合わせていないかの如く、あっけらかんとしているのだ。


 そんな万折に相楽も一瞬戸惑ったが、すぐに何事も無かったかのようにそうかと一言返した。


「忘れたものはしょうがない。近くの者に一緒に見せてもらえ」

「ういーっす」


 万折はその指示に素直に従い、左隣の生徒に声をかけて一緒にタブレットを見る。

 その姿を確認すると、相楽は生徒に向けて話を始めた。


「入学前に自分の端末に学園の見取り図はダウンロードしてあるな?していないものは時間をやるから今すぐダウンロードしてくれ」


 万折が何となくあたりを見渡すと、生徒達は当然のように見取り図をダウンロードしているらしくタブレットをしている者はいない。

 隣の席の少女もその反対の席の少女も皆が皆、画面に見取り図を出し相楽の次の指示を待っている。


「では、今からこの教室から出て校舎の中を案内して回ろうと思う。この学園はありとあらゆる施設があるが、それと同時に毎年迷子の生徒が出るほど広く、解りにくい造りになっている。俺も赴任当初は毎日これと睨めっこだった」


 端末をトントンと叩き、困ったように笑う。


 見取り図は何段階にも分かれている。それは通常のマップのように階毎に分かれているのだが、何せだだっ広い校舎の見取り図は、入学したての者には暗号のようにわかりにくい。


 万折はタブレットに顔を近づけ、「迷子にさせようとしか思ってねぇような造りだな」と小声で言った。


「それじゃあ今から校舎を回るが、決して自分勝手に行動しないように!さっき言った通り、この校舎は迷いやすい。俺だってまだ全員の顔と名前は把握しきれていないんだ。その状態で迷子になってなってしまったら探し当てるのにも時間がかかる。だから絶対に俺から離れないでくれよ」


 今までにも自分勝手に行動してしまった生徒がいたのだろう。相楽は眉間に皺を寄せ、厳しい顔をしながら生徒を見る。

 その相楽の言葉に生徒は声を合わせて返事をした。


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