3.……キラキラとピカピカと
会場に着くとそこにはすでに数え切れないほどの人がいた。ステージ前には二人と同じ新入生が背筋を正して静かに座っている。会場の半分より後ろは恐らく保護者達の席だ。
しかしながら高校生にもなって保護者が入学式を見守ると言うのも中々妙だ。世間一般的には大人として扱われるのに、ここではまだ子どもとしか扱われない。それがこの現状なのだろう。
「新入生はステージ横にクラス表が提示されているので、自分のクラスを確認したらそのクラスの席に座ってください。なお、席順は出席番号順なので自分の番号は必ず覚えて置いてください」
会場入り口の近くでスーツに身を包んだ女性が案内していた。
この女性がここの学校の職員であろうことは誰でもわかる。その証拠に女性の胸元には学校の校章がプリントされたブローチがついている。
二人は女性職員の指示に従い、クラス表が貼られているステージ横へと向かう。
「……え~と、き~から始まる来柄奏はどこかな~。来柄、来柄…っと。あ、あった~!D組だって~☆まおはどっこかな~」
「私はC組だな。よっしゃ、騒がしい奴と離れられた!」
「えぇ~…。計画的だ~陰謀だ~悪魔だ~!」
万折とクラスが離れたことに不満がある奏は、先ほどより大きな声で騒ぎ出した。その奏から数歩後退りし、耳を塞ぎながら万折は距離をとる。
「あー、うるせぇうるせぇ。早く自分の席に座れよー」
そのまま奏に背中を向け、万折は自らのクラス席に向かう。後ろで奏がまたギャーギャーと騒いでいるが、万折はきつく耳を塞いでいたのでその言葉は届かない。
無事に奏から逃げ延びて万折は自分の席を探す。
万折の出席番号は十二番。クラス全体の人数は二十九人と平均的な人数と言える。多くもないし、少なくもない。そんなクラスの真ん中くらいの番号。
椅子に貼られている番号を確認しながらゆっくりと歩く。
数秒で自分の番号を見つけた万折は、肩に掛けていたバッグを降ろし椅子の下にしまいこむ。
年はまだ十五歳だというのに、座るときに「おいしょ」と年齢を感じるような言葉を言い、年寄りのように椅子に腰をかける。
背凭れに背中をくっつけリラックスした状態で座る。周りの生徒は緊張や不安、好奇心でキョロキョロとしていたり、背筋を正していたりする中で万折は興味関心が無いかのように目を瞑る。
奏とのやりとりに疲れたのか、それともただこの学校に来ただけで疲れたのか、はたまたその両方かは不明だが、傍から見れば目を瞑ったその姿は睡眠をとっているように見える。
「――…ねぇ」
目を瞑って数分もしないとき、左隣から声をかけられる。
ゆっくりと瞼を開き、声のした方向に目を向ける。そこにいたのは、万折にも引けを取らないほどの鋭い目つきの少女。
万折も決して目付きがいいとは言えない部類だが、目の前の少女も中々に目付きがきついものだ。きりっと上がった目じりに、薄い眉毛。地毛なのかと疑問を投げかけたくなるほど色素の薄い髪質。その髪を耳の辺りでツインテールに結んでいる。
「ちょっと聞いてるの!?」
じっと万折が少女を見つめていると、顔をずいっと近づけてきた。それに少なからず驚いた万折は咄嗟に顔を後ろに避ける。
「……何」
十分に距離ができたとわかってやっと万折は言葉を発した。
「もうすぐ式が始まるって言うのに寝こけてる人がいるから、親切に声をかけてあげたのよ。隣でぐーすか寝てて、なんで起こさないんだって先生に怒られるのはアタシだしね」
親切なのか自分の保身の為なのかよくわからない言い訳をしながら、少女は腕を組みながら万折を見る。
「……で?ちゃんと目は覚めたの?」
ツインテールの少女は横目で万折のほうを見る。
「別に寝てたわけじゃねぇが。……まぁ、あんがと」
万折は軽く頭を下げ、感謝の言葉を少女に向かって言う。少女はその言葉に気分を良くしたのか、ふんと鼻を鳴らしながらも少し笑顔だった。
「同じクラスでしかも隣の席って言うのも何かの縁よね。ねぇ、あんたの名前なんて言うの?」
「鈴原万折」
「ふーん。というかあんた、めちゃめちゃピアス空けてるのね。そこまで空けてると先生に何か言われたりしない訳?」
少女は耳元を覗き込むように見てくる。万折は覗き込まれると、耳を掻き分けそれが見やすいようにする。少女がいる方向が左なので、左耳を見せる。
「別にここは【そういう所】なんだから特に何も言われたりしねぇよ」
ニヤリと万折が笑うと、少女が呆れたように溜息を吐く。
「まぁそうなんだけど…。あ、てかアタシの自己紹介してなかったわね。アタシは笹城干奈って言うの。とりあえず一年間はよろしくね」
大して興味もないように、干奈はそれだけ言うと万折から目線を外し正面のステージに目線を向ける。それに万折も何か言う訳でもなく、同じように干奈からステージに視線を移す。