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困り果てています

「お前は何も喋るな。笑って頷いていればいい」


いやいや、それはないだろ。

あれか?俺に喋らせたくないんだな?なら連れて来んなよ


当時14歳ぐらいだった俺は社交の場に無理矢理連れ出され、しかしその野蛮な行いから、黙って立っている事を強要されうんざりしていた。


一応俺は長男だったからな。

対面的にも弟のジェラルドを連れてくる訳にはいかなかったみたいだが、俺はよくそれを抜け出しては少し離れにある庭園で時間を潰していたんだ。


そんなある日、その庭園でいつもは誰もいない人を見かけたんだ。どうやら何処かのご令嬢らしいが、多分歳はジェラルドと同じくらいだろう。


せっかく誰も居なくて居心地が良い場所だったのに。

邪魔だな。そう思った。


「なんだお前、そんな所でしゃがんで何してんだ?」


「え?貴方はどちら様?」


振り向いたその顔はとても愛らしかった。

瞳は大きく目の色は薄いグリーンで、真っ白は頬は少しふっくらしててマシュマロみたいなのに、ほんのりとピンク色だった。正直触ってみたいと思った事は認めよう。


「俺?俺は親父の付き添いでここに来てるんだけどよ?堅っ苦しいのがどうも苦手で抜けて来た。お前は?」


「私は、私も、父に連れられて。私も社交場は息苦しくて・・・」


お?なんだよ、お仲間じゃん?

じゃあ俺の邪魔はされねぇかな?


「ふぅん?俺もここで少しサボっていいか?邪魔はしねぇから」


「はい。どうぞ」


セラとの初対面はこんな感じだ。

お互い自分の好きなように時間を潰す。

セラはいつも静かに刺繍をしてたな。



でも、それからしばらく、そんな日が続くと何となく近況を教えあったりするようになって、自分の話もするようになって。でも、お互いどこの家の人間かは口にしなかった。だって、面倒だったんだ。


「学者になりたい?すげぇな。お前頭良いんだな?」


「良くないから勉強するんですよ。でも、どちらにせよ学者にはなれないです。お父様が許してはくれませんもの」


へぇ?セラ凄えじゃん?

俺正直セラがそんなもの目指してるとは思わなかった。

見直したわ。


「まぁどの家にも色々な事情があるよな。その点俺は気楽でいいな。俺の所は弟が後を継ぐって決まってるんだ」


「え?ギャド様長男なのにお家をお継にならないのですか?何故?」


「馬鹿だからだとよ?」


全く。だったら最初からジェラルド連れて来いっつーの!

まぁ、そのお陰でこうやってセラに会えるから別にいいけどよ。


「そんな。ギャド様まだお若いですし、馬鹿だなんて、失礼ですわ!」


そんな、本気で怒らなくても。

いい奴だよな。セラ。それに、凄く可愛いしな。


「・・・ハハ!ありがとな?でも俺気にしてねぇし。それに、俺自由な方がいいから良いんだぜ?」


悪りぃな。ちょっと照れた。

そんでどさくさに紛れて頭に触ってる。

凄い柔らかいなセラの髪。凄え触り心地いい。


「わっ!おい!なんだよ!」


「ギャド様ばっかりずるいですわ!!私もわしゃわしゃします!!あはは!」


セラの手は小さいな。

やっぱり女の子だなぁ。

俺女は苦手なんだけどセラは苦手じゃないんだよ。

寧ろ・・・・・。


「あ、あのギャド様・・・」


「あのさ、もしセラがどうしても学者になりたいんならまず俺と婚約すれば良いんじゃね?俺は学者が奥さんでもかまわねぇよ?」


は、はは。俺何言ってんだか。

どこのご令嬢か分からないのに、こんな事・・・。


「ほ、本当に?ギャド様それ、本気で言ってくれてます?」


「おう。俺モテねぇから大人になってセラが俺でいいと思ったら約束守ってやるよ。きっとこうやって会えるのも後少しだろ?だから、辛くなったらそれを思い出せ」


「や、約束ですよ?本当に、婚約して下さいね?」


あれ?セラもしかして結構本気で喜んでる?

でもよ、大きくなったらきっと今より綺麗になって、俺なんて相手にしなくなるんだろうなぁ。


「おう。だから、自分のやりたい事を最後まで諦めんなよ。もし、無理矢理他の奴と結婚させられそうになったら俺が攫いに行ってやるよ」


本当に、ずっとセラが俺の事好きでいればいいのに・・・。






阿呆か俺は!!それでこれかよ!!もう、もう・・・俺は今すぐあの日に戻って人生をやり直したい!!


あの後、色々あった。家を飛び出し騎士団に入団しそこから毎日鬼のような扱きを受けて、必死に生活してた。


あの家から少しでも離れる為に。


自分の事で手一杯で、そんな子供の頃の甘い記憶なんてかき消えてた。思い返す暇もなかったし、恋愛をする気もなかったから思い出すわけもなかったんだ。


それに、俺はセラの家の事を一切聞いていなかったからな!!あの時聞いていればこんな事にならなかった。

あんな事口には出さなかったのによ!!


「ゔゔゔ・・・クソォ」


ここだけの話だから正直に言おう。

昔の記憶を思い出してから俺はセラが可愛いくて可愛いくてしょうがない。だってセラ中身が昔と全然変わってないんだぜ?俺が好きだった頃のまま。そのままなんだ。


そんな子が俺を好きだと必死で追いかけて来るんだから、俺は平静を保つのに凄ぇ苦労している!!最早苦行だ!


「俺は一体どうしたいんだよ・・・・」


結婚したくないのに、こんな形でセラを束縛するなんて間違っている。しかも、彼女にその事を言えずにいる。


だってよ。そんな事口には出したら即結婚だぞ?無理だ。


「俺に、こんな血が流れて無ければ・・・・」


いや、違うな。

そうじゃない。俺は臆病なんだ。まだ、全てを捨てる覚悟が足りねぇんだな。きっと。


だから、こんな俺じゃお前を幸せには出来ねぇよ。セラ。

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