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エピソード4 遠い記憶*

最近庭園で知り合った女の子はいつも静かに刺繍をしている。余計な事は何も言わず黙々と。


最初はせっかく見つけた静かな場所を取られて鬱陶しいと思っていたけど。なんだか逆に悪い事をした気分になってきた。俺、邪魔なんじゃないかな?


「なぁ。刺繍なんてして面白いか?」


「え?全然楽しくないです」


「え?じゃあ何でやってんの?」


「他にする事も無いので。適当に時間を潰すには丁度いいのです」


そう言った彼女の顔はちょっと不服そうだ。

刺繍好きじゃないんだな。


「何か他に趣味はないのかよ」


「趣味はあります。水晶を集めたり生物の観察をして、その生態を調べたりですね。でも、父に嫌がられますから、隠しています」


え?女で石集めが趣味とかなんなの?それに生物の生態を調べるってなんだ?


「生物の何を調べるんだ?」


「その生き物が何を食べてどんな環境で生活し、どの様な特徴を持っているのか、そして、彼らの存在が私達にどの様な影響を及ぼすのかなどを研究します。小さな虫から人間、人ではない者達まで幅広く」


何だそれ!面白そうだな!!ちょっと興味があるぞ?


「お前もしかして将来研究者にでもなりたいのか?」


「まぁ、その手専属の学者になりたいとは思いますが・・・」


「学者になりたい?すげぇな。お前頭良いんだな?」


「良くないから勉強するんですよ。でも、どちらにせよ学者にはなれないです。お父様が許してはくれませんもの」



そうか。コイツも貴族の娘だもんな・・・・。自由なんてないか・・・。


「貴方はどんな趣味があるのです?」


「俺か?俺は剣術が得意だな!将来は騎士になりてぇ」


「・・・・騎士、ですか?お強いのです?」


「全然。でも、強くなりてぇ」


偶に会えるペシュメル様に剣を教えて貰ってるんだ。

強くなって早くあの家から出て行きたい。


「きっと貴方ならなれます。応援しています」


「お前もな!先の事なんて誰にもわかんねえよ!諦めんな!」


そうだ。いつか、あそこから抜け出す。絶対に。







「ギャド。無駄な抵抗はやめて?扉を開けて?」


クソ!親父なんで急に出掛けんだよ・・・今日は大丈夫だと思ってたのに・・・・。


「もう、数日貴方に触れていないわ・・・ギャド・・貴方の顔が見たい」


あんなに鍛えているのに、まだ力ではあの人に勝てない。

それに・・・・・・。


「・・・・そう。じゃあ、いいわ。今日は・・・・ジェラルドの部屋へ行く・・・・」


チキショウ。チキショウ!!


「・・・・・・・・・・」


「良い子ね?ギャド。さぁ中に入れて頂戴」


早く・・・・早く夜が明ければいいのに。








「どうしました?疲れています?」


「・・・・・別に」


気持ちが悪い。もうずっと・・・触れられた場所が腐って行くみたいに・・・。


「本当に?我慢なさらないでください。真っ青」


やめろ。触るな・・・・俺に。


「凄い汗。少し、こちらで横になっては?」


・・・・なんだろう。爽やかな甘い香り・・・。

ハンカチから?それとも・・・・。


「名前、聞いてない」


「え?」


「俺は、ギャド。お前は?」


「・・・・・・セラと申します」


セラ。セラか・・・・。

なんでだろう。女は嫌いなはずなんだけどな・・・不思議とコイツは平気だ・・・。逆に・・・安心する。


「ベンチ使って下さい。私は花でも愛でて来ますわ」


コイツは俺に関心がない。必要以上に踏み込んで来ない。

一定のこの距離が今の俺にはとても心地いい。


友達にぐらい、なれるかもな。






「ギャドお前社交界を毎回毎回抜け出すらしいな?マッティア殿がぼやいていたぞ?」


「あんな所に俺を連れて行く親父が悪い!ただ突っ立てるだけならいなくても同じだろ?」


でも、最近はセラに会えるからそう嫌でもないんだけどな。アイツ面白いんだよな。弱そうに見えて結構しっかりしているというか、強い。


「ハハ!確かになぁ?」


早く大人にならねぇかな・・・親父もあの人も黙らせられるほど強い力を手に入れたい。早く。







「兄様。今日はご自分の部屋で寝て下さい。私が母に叱られるのですよ?」


やっぱり・・・手を回してきたか・・・。

この手は長くは使えないと思ってたけど・・・。


「兄様?」


「・・・・・そうか。悪かった」


もう、どれくらい経ったろう?

あの人がおかしくなってから。いや、最初からおかしかったのか・・・・。あの人は、俺にどうして欲しいんだろう・・・・・。


「・・・・・ギャド。お帰りなさい」


何故。こんな事を繰り返すんだろう。俺が、そんなに憎いのだろうか?


「愛しているわ。ギャド」


・・・・・・嘘だ。

本当に愛しているのなら、俺をこの苦しみから解放してくれる筈だ。アンタは俺を愛してなんていない。


もし、愛しているのなら、俺が苦しむ姿を見て笑ったりなんてしない。アンタは俺が泣き叫ぶ度、嬉しそうに笑うじゃないか。


「さぁ言って?貴方が愛しているのは誰なの?」


俺は誰も愛さない。

だから、俺を解放してくれ。








「あ、こんばんわ。今日は月が綺麗です」


「ああ。月・・・・」


もう暫く空なんか見上げてなかった。


「ギャド様といると、小さい事で愚痴愚痴悩んでいた自分が馬鹿らしくなりました。もうすぐ社交界のシーズンも終わりますね」


そうか、そうだ。

もう少ししたら、鬱陶しいこの行事から解放されて・・・。


「もう、こんな風にギャド様と会えなくなりますね。でも、影ながら応援しております。貴方の、望みが叶う事を」


・・・・・・セラに・・・・会えなくなる。



「ギャド様?」


俺は、どうしてこんなに衝撃を受けているんだろう。

そんなの、最初から分かってた事じゃないか。



「あ、あのギャド様・・・」


「あのさ、もしセラがどうしても学者になりたいんならまず俺と婚約すれば良いんじゃね?俺は学者が奥さんでもかまわねぇよ?」


嫌だ。そんなのは、もう、セラに会えないなんて。


「ほ、本当に?ギャド様それ、本気で言ってくれてます?」


「おう。俺モテねぇから大人になってセラが俺でいいと思ったら約束守ってやるよ。きっとこうやって会えるのも後少しだろ?だから、辛くなったらそれを思い出せ」


「や、約束ですよ?本当に、婚約して下さいね?」


「おう。だから、自分のやりたい事を最後まで諦めんなよ。もし、無理矢理他の奴と結婚させられそうになったら俺が攫いに行ってやるよ」


なんで、気がつかなかったんだ。


いつの間にか、俺はお前に会える事を励みに毎日を過ごしていた。お前の事を考えて俺は幾度もあの夜を耐えてきた。・・・セラがいなくなったら、俺はどうなってしまうんだろう?


「約束。約束ですよ?」


セラ。俺を置いて行かないでくれ!

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