気高き剣士と無力な少女
私。本当に愚かです。
真っ暗な空間に落とされて、体が言う事を聞かない中で思いもよらない生き物と遭遇したんです。
「ぷきゅ〜?」
何故かこんな所に竜の子供がいたんです!
伝説級の生き物の筈なんですが何故ここに?
まさかこの子も私みたいにこの空間に攫われて来たのでしょうか?
「まだ、目印はつけれそうですね。失くなったら引き返しましょう」
きっとそれで少し気が緩んでしまったんですね。
私は、あの場から動かず待つべきでした。
だって私には力も無ければ扱える武器もなかったんです。
とくに危険が迫っていた訳ではないのだから奥になど行かず、助けを信じて待っていれば、こんな事にならなかったのに。
「ぶきゅ!?きゅー!!きゅー!!」
「・・・・・・・え?」
それは、見た事も無いような恐ろしい獣でした。
その体は空間を覆う程の大きさで頭にはいく本の角があり顔は獰猛な獣そのもので目は金色にギラギラとこちらを睨んでいました。そして獣なのに二足歩行で、その手足には鋭い爪。見た瞬間に、私は抵抗を諦めました。
・・・・私はここで殺される。
冷静にそう思ったんです。
多分これは、生物の本能に近いものなのかも知れないです。ただ、浮かんだのはギャド様が最後に私に向けた、表情でした。
どうか、私が死んだ事を気に病まないでほしい。
獣の爪が私のドレスに引っかかり、足が地面から離れた瞬間。
彼女達は来ました。
「はぁああああああああああ!!!」
「ガァアア!」
え!?今、物凄い速さで何かが横を横切りました!
アレは・・・・ティファ様!!何故ここに!!
ガキィイイイン!
「ベロニカ!!」
「わかってる!!」
ベロニカ様も?あ、さっきの攻撃で魔物が私を放り出してくれたみたいです。でも、体が思うように動きません。
なんで!!さっきまで平気だったのに!
「ティファ!!横!」
「ーーーーー!」
きゃあ!!ティファ様!!
大変!肩から血を流しています!
早く逃げて手当しないと・・・・。
「グルルルルルル!」
「そう。こっちですよ?貴方の獲物は私です」
私、こんな状況なのに・・・ティファ様に魅入ってしまったんです。本当に、そんな場合ではないのに・・・。
なんて・・・美しい。
凛と剣を構える姿からは普段のティファ様の面影など全く感じられません。・・・あれは、洗練された剣士の姿。
そして、無駄のない動き。素人の私が見ても、彼女が只者ではないと分かります。
「す、すご、い。あれが、ティファ、様?」
「セラ嬢?良かった。まだちゃんと自我が保ててるわね?さぁ逃げるわよ」
「え?で、でも。ティファ様・・・・」
逃げるとはどうやって?
ティファ様まだ戦ってます。
私はまともに動けませんし・・・。
ガキィーーーーーン!!
「ーーーーーーーー!?」
メリッ
「え?」
え?嘘・・・・・魔物の振り上げた拳がまともにティファ様の体に当たりました。あれでは、もう・・・。
「ベロニカ!!!走って!!」
駄目です!!あのままではティファ様が死んでしまいます!!動いて、動いて下さい!!私の体・・・!!
「待っ、て。ベロニカ、さま」
「行くわよ!セラ嬢!舌噛まないでね!」
待って!なんで・・・どうしてティファ様だけ!
一緒に逃げないと!!どうしよう!!どうしてこんな事に!!
「う・・あぁ・・・」
ギャド様!
ギャド様!ギャド様!ギャド様!!
ごめんなさい。
私の所為です。
「泣くのはやめて。ティファはまだ諦めてないわ」
「ベロ・・ニカ様?」
「そんな簡単にあの人が死ぬ訳ないでしょ!私が死なせなりなんてしないわ!絶対に!!」
そう、そうです。
私がすべき事は、足手まといにならないように、邪魔しないようにする事です。それしか、出来ないのですから。
「あの人はね最強の騎士のよ。誰よりも気高く、そして強い。だから、信じなさい」
「は・・・い。ベロ・・・ニカ・・さ、ま。しんじ、ま」
ああ。
ギャド様。
私、自分の所為で貴方の大事な人に傷を負わせてしまいました。きっと帰ったら今度こそ愛想を尽かされるかもしれませんね。でも、それでもいいです。
どうか、どうか神様!!
ティファ様を守って!!
「え?セラ嬢?光って・・・」
何?ティファ様とササラ様の姿が、見える。
あの子は、さっきの竜の子供?
[成る程?ではその願い、ついでに叶えて差し上げましょう]
あら。いい声。
大人の男性の色気が感じられるそんな声音です。
[でも秘密だよ?私達は人の願いを叶えてはいけないんだ。本当はね?]
「セラ、セラ!!入り口が開いてる!!後もう少しよ!頑張って!!」
[辛いだろうとは思うが君に貸した魔力を返してもらうよ?大丈夫。もう、出口が近いからね。また外で会おう。小さき可憐なお嬢さん]
あ、もう・・・・意識、が・・・・。
ティファ様。・・・・・ギャド、さま。