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白い鳥  作者: いしい 皐
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第ニ話



「ようするに、お前もファルミリア様のお姿を拝見したかったんだろう?」

マリオン達は、妹の結婚式に巫女として立ち会うたまに神殿から、村へ下がって来るファルミリアの行列が通る道を見渡せる高い切り立った崖の上にいた。

「オレはお前がどうしてもって言うから…」

「おい!」

と、マリオンはジギアスの言葉を遮った。巫女の行列が来たのである。

人が五人は楽に乗れそうな大きな甲虫が三匹、御者に駆られて、ゆっくりと歩いて来た。

先頭を山岳の民の男達が四列に並んで歩き、その後を甲虫が続く。

甲虫には四方に一人づつ、山岳の民の男が護衛に付き従っていた。

三匹の甲虫の後には何人かの白い衣装を着た巫女が続き、その後にはやはり山岳の民の男達が付き従っている。

甲虫は三匹とも背に輿を乗せていて、遠くからでも先頭の甲虫には男が、次には女が乗っているのが分かったが、最後の輿には天蓋があって、中は見ることが出来なかった。

この甲虫に乗っている男と女がエクセリオンとエンディエッタの二人で、天蓋のある輿に乗っているのが、ファルミリアなのであろう。

「ちぇっ、残念」

「うん。

でも、なんで、あのお二人があそこにいらっしゃるんだ?」


「マリオン、知らないのか。

一族の前で式を挙げる前に、アーシア神の前で巫女の立会いのもとに、二人きりで愛を誓い合うだぜ」

「へえー」

と、マリオンは言った。その目は恨めしそうに、ファルミリアが中にいるであろう天蓋を見つめていた。

「今日は祝い事には絶好の日だなぁ」

と、ジギアスは、もう、ファルミリアの行列には気にも止めず、空を見上げた。

陽はだいぶ高くなって来た。彼はグルっと空を見渡し、ある一点で目を離せなくなった。

砂漠の広がる方向から何か飛んできたのだ。

はじめ、一つだと思ったものが、近づくにつれ数が増し、一瞬にして数え切れない大群と化した。

マリオンは気付かないでいる。

ジギアスは声が出なかった。

羽音が微かに聞こえ来た。

マリオンが羽音に気付いた―意外と耳がいい―

「何?」

「さ、砂漠の民…だ!」

しかし、その時には遅かった。

彼女達は一声も立てずに、ファルミリアの行列を襲った。

二人には今、自分達の目の前で起こっていることが理解出来なかった。たぶん、ファルミリアの行列の人達も理由の分からぬまま抵抗しているのだろう。

「た、助けなくちゃ!」

マリオンは突然立ち上がると、ジギアスの鳥に乗ろうとした。

「待てよ、オレも行く!」

二人は鳥に跨がり、ファルミリアの行列が襲われている渦中に飛び込んで行った。


「砂漠の民」は、アーシア神を信仰する三つの部族、「水の民」「山岳の民」「平原の民」と、いつの頃からか敵対していた。

元々は「平原の民」と、同じ種族だったらしいが、彼女達が穏和で、農業をして暮らしているのに対して、「砂漠の民」は好戦的で、山や平原の鳥獣を狩ったり、略奪することがほとんどである。


「砂漠の民」の中の一匹がマリオン達が向かって行くのに気付いたらしく、近付いて来た。

その姿は、マリオンが今までに見たことのある種族には全く似ていなかった。

身体は、はっきりと三つの部分に分かれている。つるりとした毛の生えていない丸い頭には、黒い大きな複眼があり、二本の紐のような触角が生えている。そして、大きな卵型の尻。まるで全身が鎧で覆われているように見える。そして、背中には、四枚の薄い膜のような羽を持っていて、手足が六本ある。


「来るんじゃない!」

ファルミリアの行列の中の一人が叫んだ。だが、眼前に現れた、ただ一匹の敵さえ彼らはどうすることも出来なかった。

目の前では、砂漠の民に傷つけられ、倒れる山岳の民の姿が見える。

甲虫の上の輿が壊され、中に居た少女が引きずり出されるのが見えた。白い長い髪に、白い柔らかな衣装をまとっているのが分かった。

周りにいる人が助けよう とするが、力が足りないようだ。

少女は、砂漠の民に両脇を支えられ、あっと言う間に空へ舞い上がっていった。

それが合図とでも言うように、「砂漠の民」は、一斉に去って行った。

「あの、少女が目的だったのか…」

マリオンは、少女の救いを求める声を聞いたような気がした。


「砂漠の民か…。

はじめて見たよ、オレ」

と、「砂漠の民」が去ってから、だいぶ経って、ジギアスの方が沈黙を破った。

二人は取り敢えず下へ降りることにした。

「砂漠の民」に襲われたファルミリアの行列は燦然たる有り様だった。ほとんどの人が何の抵抗もできずに殺されていた。

助かった人も酷い傷を負っている。

その中で、良く透る凛とした声が聞こえた。

「なぜ来た?」

「エクセリオン様!」

それは、エクセリオン-エディホークの声だった。彼はマリオンよりも、頭が一つ半ほど背が高いせいか、少し痩せているような感じがする。面長で、目鼻立ちがはっきりとし、目と髪は同じ茶褐色をしている。

「危険だということぐらいわかるだろう!」

エクセリオンのそ顔は、やり場のない怒りと悲しみを押さえ、微妙に歪んでいる。

白い儀式用の衣装が、血と汗と泥で汚れ、右手の形ばかりの儀式用の剣が柄のすぐ近くで折れている。

彼はそれきり、歪んだ口を開こうとしなかった。

そして、くるりと二人に背を向けると、比較的に怪我が軽くて動ける者は、動けない者を甲虫の上の輿に乗せるよう指示をし、自らも動いた。

そうして、二人にも手伝うよう促した。

傷ついた人達を乗せた甲虫が動き始めると、エクセリオンは二人のところに近付いて来た。

「疲れ だろう?」

「エクセリオン様こそ、怪我をして…」

と、ジギアスは左足を少し庇いながら歩いて来る

エクセリオンに駆け寄った。

「おまえは確か、ウィーライトの息子だったな」

「ジギアスです」

「あの少年は…?」

エクセリオンははじめてマリオンが自分達と違う種族だと気付いたようであった。

「君は水の民だね」

「はい、マリオン-レダンと言います」

「では、水の民の首長アビ-オーバンの片腕オウゼン-レダンの息子か?」

「はい!」


この時初めて将来それぞれの部族の代表となる若者達が顔を合わせたのである。

ジギアスはエクセリオンに簡単にマリオンと知り合った切っ掛けを話した。

彼の父、ウィーライトはやはり「山岳の民」の首長の片腕で交易を任されていた。当然、ジギアスはいずれ、父のあとを継ぐ。

この夏、彼は父について、「水の民」の村を、海産物や塩を買いに訪れた。そこで、マリオンと出会ったという。

「何度か会ううちに、すっかり気が合って」

「仕事を怠けて、遊んでいたのか?」

と、エクセリオンは少し余裕を見せた。

だが、そんな時、海から砂漠に向かって、何かが空を飛んで行ったのを誰も気付かなかった。


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