3.メルヒェン・K・エアーツェレンという女
次に目を開いたのは、
明らかに日本人顔でない人達が自分を囲んでいる時であった。
後にわかるが、両親と姉と、姉の幼馴染みである。
私は新たな生を受け、生まれ変わったのである。
名を、メルヒェン・K・エアーツェレンという。
愛称はメリーだ。
この国の三大貴族である、エアーツェレン家に生まれた私は、国の財務省トップである父と、歴史省の家系から嫁いできた母、婚約者を持つ3つ上の姉の元へやってきた。
大きくなるにつれて、この世界についてわかったことがひとつある。
5歳の時に初めて会った、
婚約者である令嬢のキスがないと起きれないいつも寝ているいとこのお兄ちゃん、
7歳で王立学院の初等部に入った時に会った、
林檎に目がない7人の付人を従えた王子様に
綺麗好きなグラスを生業とする貴族の息子、
骨董品を愛するこの国唯一の宗教の教皇子息、
海の国と呼ばれる隣国からきた歌のうまい留学生。
13歳、中等部で出会った
お菓子に目がない製菓業のトップ貴族の姉弟。
これ以外にも沢山いるが、
全て私たちの知っている童話の登場人物が元になっている者ばかりである。
しかも性別は基本逆。
国の王子は白雪姫だし、ヘンゼルとグレーテルは兄妹のはずが姉弟だ。
そして、この世界が童話モチーフなことは私しか知らないらしい。
童話で育てられた私になんてチートな世界。
ただ、自分含めエアーツェレン家だけは何がモチーフなのかわからない。
世界は広いのだから、私が知らない話が沢山あるってだけの話なのだけれど……
(自分のモチーフ位は知りたいのになぁ。)
調べようにもこの世界には童話という概念がなく、
どんな書庫に行っても童話の本はなかった。
もやもやしつつも、家族や友達に恵まれた私はすくすく育ち、王立学院の高等部に進んだ。
「お嬢様、そろそろ眠らないと明日につかえますよ。」
と、専属メイドの声が掛かる。
「そうね、そろそろ寝ようかしら。」
状況整理を改めてしながら嗜んでいた紅茶のカップを
静かにソーサーに降ろす。
「明日は学校の前にヘクセンハオス家にて朝茶会でしたから、少し早めに起こしますね。おやすみなさい」
「ありがとうモカ。また明日ね。」
笑顔で電気を消したモカ(メイド)が、扉を閉めた。
そう、明日から二学期なのだ。
いくつになっても勉強は好きではない。
少し憂鬱な気分になりながら私は眠りについた。