3話 初めての異種族との出会い
2人が食事をしながら他愛ない話をしていると、そこに1人の男が近づいて来た。
「ジーク!久しぶりじゃねぇか!」
「おお、バートンじゃないか!元気してたか?」
「あたりまえよ!この儂が元気じゃないように見えるか?んん?」
「いや、お前は相変わらずだ。」
ジークが軽く鼻で笑う。
「あら、バートンさん戻ってきたんですね。」
いつの間にかアリシアが後ろに立っていた。
手に何か持っているようだ。
「おお、アリシアちゃんじゃねえか!いつも通り麗しいな!」
「バートンさんも変わらずお元気そうですね。」
「わかるか!儂はいつでも元気たっぷりよ!」
2人にバートンと呼ばれたやや背の低い小太りの男はいちいち大きな声で話すが、なぜかやかましいと感じはしなかった。
「ところでジーク、そこにいるのはお前の新しい相棒か?」
「ああ、しばらく俺はこいつの付き添いで旅をすることになった。」
「ほお!お前が人の旅についていくとは珍しいな!」
「この方は今日からハンターになったんですよ。それでジークさんが同行するんです。」
「なるほど!お前もとうとう人の師匠になるのか。」
バートンは何やら感慨深そうな表情をしている。
「師匠とか、そんなガラじゃねぇよ。ハンターの基本的な事を教えるだけだ。」
「がっはっはっ、基本でも教えるなら師匠さ!ところで坊主、ハンターになったならハンター流の自己紹介は知っているか?」
「いや、さっきハンター登録をしたばかりなので・・・。」
「なんだ、まだエンブレムを持っていないのか?」
「さっき作ったんだが・・・アリシア?」
ジークがアリシアに確認する。
「はい、出来てますよ。」
そう言うとアリシアは石で出来たプレートを取り出す。
「なんだ、出来ているじゃないか!じゃあハンター流の自己紹介の仕方を教えてやろう!」
バートンが鼻息を荒げてふんぞり返る。
彼の顎に蓄えられた豪勢な髭が前面に押し出されて妙に暑苦しい。
「はは・・・ではお願いしよう。」
「何てことはない、エンブレムを相手に見せて自分の階級と称号と名前を言うだけだ!」
「なるほど。」
「はい、これエンブレムです。」
アリシアがエンブレムを手渡す。
「これが私のエンブレム・・・!」
石で出来たエンブレムにはGと数字のⅡが彫られており、裏側には登録書に書いた[ロイ・フォード]の名が彫られていた。
「ハンター登録したばかりだから階級が低いと思っていたが、G?階級はFまでじゃなかったのか?」
「Gクラスはまだ登録したばかりのハンターに与えられる階級だ。」
ロイの質問にジークが答える。
「登録したばかりのうちはまだ右も左もわからない駆け出しだからな、G級はまだ半人前のハンターって事だ。他のクラスと違ってG級は2等までしかない。ハンターの階級はAからFまでの3等と合わせて全部で20段階ある。」
「なるほど・・・すこし腑に落ちないが、では私はGの2等で称号は無しって事か。」
「その通りだ。」
「ではエンブレムを受け取ったところで改めて自己紹介といこうか!儂はバートン・ボギンズ、鉄塊の称号を持つE級ハンターだ!」
バートンが自分のエンブレムを見せながら自己紹介をする。
鉄で出来た彼のエンブレムには数字のⅡとインゴットの絵柄が彫られていた。
「えと・・・私はロイ・フォード、G級ハンターで、称号はまだ無い。・・・こんな感じでいいのか?」
「おお!上出来だ!これでめでたくお前も立派なハンターだな!」
「ハンターになるためには関係ないですけどねぇ・・・。」
アリシアが呆れるように軽くため息をつく。
ジークも同じような表情をしている。
「ところでさっきから気になっていたんだが、聞いていいかな?」
「おお!なんだ?なんでも聞いてくれ!先輩としてなんでも答えてやるぞ!」
「あなたの背格好から見るに、もしやあなたはドワーフ族ではないか?」
「おお!その通り!儂はドワーフだ!」
「やはりか!私は人間以外の種族に出会ったのはあなたが初めてだ!」
少年のように目を輝かせながら、興奮ぎみにロイが言う。
「ほぉ!それは光栄だ!儂がお前さんの初めての出会いとなれるとはな!」
「ええ!こちらこそ、お会いできて光栄です!」
2人は握手を交わす。
「そうか、あんたは人間以外と会うのは初めてか。」
「ああ、王宮の中は人間しかいなかったからな。」
「ん!?王宮だと?」
ロイが何気なく口にした言葉にバートンが食いつく。
「あっ・・・。」
「自分で言っちゃいましたね。」
アリシアが苦笑いを浮かべる。
「おいおい、さっき身分を隠そうって話わしたばかりだろ。」
ジークは呆れた表情をしている。
「なんだ?お前さん達一体何を話している?」
「いや、これは・・・その・・・。」
「坊主のその態度・・・儂に何か隠そうとしているな?」
バートンは疑いの眼差しを3人に向ける
「はぁ・・・もう隠そうとしても無駄だろう。」
「みたいですね。」
「すまない・・・。」
「いいさ、それにバートンは口が固いから他言はしないだろう。信頼できる。」
ジークは観念して、バートンにロイがローレンシア王国の王子、ローレンシア・フォン・アウスレーゼである事を告げる。
「なんと!そのようなことだったとは!」
バートンは驚いて目を見開きながらロイを見る。
「ま、そんなとこだ。一国の王子が今日からハンターとして旅立つのさ。」
「ふぅむ、なるほど。突然の事で大変だったな。」
「確かに大変だが、私は楽しんでいるよ。旅に出たお陰でこうしてあなたと出会えたのだから。それにこれからもっと色んな出会いがあるはずだからな!」
ロイは満面の笑顔を浮かべながら話す。
「そうか、楽しんでいるのなら何よりだな!おっとそうだ。」
バートンは何かを思い出したように自分の荷物を漁る。
「ええと、あれは・・・おっ、あったあった。」
目当ての物を見つけると袋から取り出す。
その手には拳よりも一回り大きいサイズの鈍く光る黒い球があった。
「これを旅立ちの記念にやろう。」
「これは?」
「これは炸裂球か!」
バートンが答えるより先にジークが声をあげる 。
「炸裂球?」
「ああ、ここの丸いのがあるだろ?これが押しボタンになっていて、これを押すと衝撃が加わるか一定時間が過ぎると爆発するんだ。」
「爆発!?物騒だな・・・。」
「適切に扱えば冒険の大きな手助けとなる道具だ。さすがバートン良いものをくれるな。」
「はっはっ!なーに、今回の行商で色々仕入れて来たからな。これぐらいサービスしてやるさ!」
「行商?」
「ああ、バートンはハンターだが行商もやっている商人ハンターなんだ。遠方から様々な道具や食料品を仕入れて来て売ったりもしているのさ。」
「行商を行う為遠くに行くには、積荷を野党とかから守るためにはハンターになっていた方が便利だからな!それにハンターになっていればモンスターの素材とかも自分で手に入れれて一石二鳥よ!」
そう言うとバートンは高らかに笑う。
「バートンさんは国外から物資や珍しい香辛料とかも持ってきてくれるから旅団としても助かるんです。」
「なるほど。」
「ハンターは兼業を禁じていないからな。他に医療士や鍛冶屋のハンターもいるな、治療薬や製錬に使う薬草や鉱石を自分で取りに行くんだそうだ。」
「いろんな人がいるんだな。」
「ハンターになるのに職業や種族は問いませんからね。」
「そうだ、種族といえばドワーフであるバートンのように、話に聞くエルフや小人族、森の妖精族のハンターもいるのか!?」
そう尋ねるロイの目は輝いていた。
「まあ話には聞くが、小人族はともかく、エルフと妖精族はこの大陸にはいないんじゃないか?どちらも向こうの大陸に住んでるしな。俺も向こうの大陸には行った事は無いから詳しくは知らん。」
「そうなのか・・・。」
ジークの答えにロイはガックリ肩を落とす。
「儂は知っとるぞ。」
「ほんとか!?」
ロイの目が輝きを取り戻す。
「うむ、向こうの大陸に行商に行った時、エルフのハンターと人間の魔法使いのハンターに会ったぞ。妖精族はめったに森から出てこんから会う事は無かったが。」
「ほぉ、さすが魔法大陸、向こうじゃ人間も魔法が使えるのか。」
「エルフ・・・魔法使い・・・!」
「こっちの大陸で科学技術が発達しとるように、あっちでは魔法技術が発達しとるが、あれは凄いぞ!」
「バートンはもう1つの大陸には行った事はあるのか?」
「暗黒大陸か?あそこは儂は近寄る気にならん。商売出来る相手がいるとも思えんしな。」
「暗黒大陸はモンスターが支配する土地なので、旅団でも調査が進んでいませんからね。」
「暗黒大陸・・・いつか渡ってみたいな・・・。」
モンスターが支配する土地とゆう明らかに危険とわかる話でも、ロイにとっては未知の世界で好奇心がそそられる話だった。
「冒険に心を踊らせるのもいいが、まずは目の前の依頼をこなしてランクを上げないとな。」
「あ、そうだな。まずはハンターランクを上げないと。」
ジークのの一言でロイは我に返る。
「ロイさんはまだG級ですから、受けられるクエストに限りがありますが。」
「そうなのか?」
「坊主はまだ駆け出しだろ。初心者がいきなり無茶をして危険な目に遭わんようにするためだ!」
「バートンが貰った炸裂球はしばらく使わなさそうだな。」
「そういえば炸裂球ってどんな仕組みなんだ?」
そう言ってロイは手に持っている炸裂球を見る。
「坊主は鉱石を知っておるか?」
「それは知っているよ、火や雷や風といったエネルギーが結晶化したものだろう?」
「うむ。今の坊主が言った3つの他に光が確認されているな。炸裂球はそのうちの火の鉱石を使っておる。」
「火の鉱石?でも火の鉱石って火を着けると燃えはするけど、爆発するほどでは無いぞ?」
「確かに火の鉱石はゆっくりと燃え、灯りに使われるが、それは塊の場合だ。炸裂球の中には粉塵状に細かく砕かれた鉱石が入っており、この粉塵状の鉱石に火を着けると・・・ボンっ!」
バートンは言いながら手を開く仕草をする。
「爆発するんだよ。」
「なるほどそうだったのか。」
「粉塵になった鉱石なんて普段の暮らしの中では使いませんからね。ましてや大勢の兵士に守られた王宮では耳にする事も無かったんじゃないですか?」
「1つ、それっぽい物の心辺りはあるが。」
「王宮で見たことがあるのか?」
「うむ。最近騎士団に導入された銃とゆう武器があるんだが、その仕組みが筒の中に爆発する粉を入れた後に弾となる鉛の塊を入れ、衝撃を加えて中で爆発を起こしその爆発の勢いで弾を飛ばすとゆうものなんだが。もしかしてあれがそうか?」
「坊主の予想通りだ!まさしくあれが火鉱石の粉塵だ!」
ロイの質問にバートンが感心したように大きな声で答える。
「銃・・・そんな物があるのか。」
ジークが感心したように呟く。
「最近ハンターさんの中でも使ってる人増えてきてますね。弓よりも扱いが簡単らしいですよ。」
「銃もドワーフ族が作ったのか?」
「そうみたいですね。」
「前に故郷に行った時はそんなモノを作っているとゆう話は聞いておらんが。」
「マドガルドじゃなくて、ゲブガルズで作られたみたいです。」
「おお、西の方だったか!ならば話を聞かんわけだな!」
「そのふたつはドワーフの国か?」
ロイがバートンに訊ねる。
「うむ!マドガルドが儂の故郷で、ゲブガルズは大陸南部の西側に位置するもう1つのドワーフの国だ!」
「ちなみにローレンス王国はちょうど2国の間に位置しているな。」
「へぇ~!どんな国なのか、楽しみだ!」
ロイが目を輝かせて言う。
「物作りが得意なドワーフの作る剣は質が良いと評判だ。俺も興味がある。」
「なら最初の目的地はマドガルドに行くべきだな!」
「そうだな、ジークそうしよう!」
「そうしたいが先にお前のランクを上げないとな。まずはFランクにならないと国外に出れん。」
「そうなのか・・・。」
ロイはまたも肩を落とす。
「ハンターさんの身を守るためにも、ある程度の経験を積まないといけないんです。」
「なに!Fランクに上がれば色々と出来ることが増える!それまでの少しの辛抱だ!」
そう言うとバートンは高らかに笑い声を上げる。
「さて、俺の食事も済んだ。そろそろ最初の依頼を受けてみるか。」
「ちょっと話し込んでしまいましたね。私そろそろ戻りますね、失礼します。」
アリシアは軽く会釈をすると受付へと戻っていった。
「では儂も商売を始めるとするか。」
「そういやバートンは昇格しないのか?もうとっくに1等どころか、Dクラスに上がれるだろう?」
「いや、儂は昇格には興味が無いからやらん。ハンターは兼業で、本業はこっちだからな。」
バートンは言いながら商売道具の入った袋を指差す。
「そっか、じゃあ俺はもうしばらくローレンシアにいるはずだから、何か良い物があれば知らせてくれ。」
「おう!任せておけ!」
「頼んだ。」
「坊主も、これからはハンターの仲間だな!頑張れよ!」
そう言いながらバートンはロイの背中を叩く。
本人は軽く叩いたつもりだろうが、その力強さにロイは軽くよろめく。
「はは、逞しいな、わかった。これから色々と学ばさせて貰うよ、その時はよろしく頼む。」
「おうよ!何でも聞いてこい!」
バートンは自分の胸を豪快に叩きながら張り出す。
「じゃあな、バートン。」
「うむ!ではまたな!」
「それでは、また。」
バートンも商売のために荷物をまとめて集会所を出ていった。
「では俺達も行くか。」
「そうだな。」
二人は配膳係に食器の後片付けを頼むと、食堂を後にした。