2話 ハンター登録
---ローレンス王国王都ローレンシア
サインセディア旅団・ローレンシア支部---
街中を進んできた2人は集会所の扉の前にいた。
「着いたな。」
「ここが旅団の集会所かぁ。」
「来るのは初めてか?」
「場所は知っていたが、中に入るのは初めてだ。」
「そうか。だったら登録するついでに色々見て回るか。」
ジークはそう言いながら集会所の扉を開ける。
その向こうは様々な格好の多くの人々で活気に満ちていた。
「これが旅団の集会所だ。」
「すごいな、こんなにたくさんの人がいるのか。」
「ここに限った事じゃないが、集会所は大抵旅団の窓口だけでなく食堂や宿泊施設も兼ね備えている。ハンターだけでなく行商の商人からお腹を空かせた市民まで誰でも気兼ねなく利用する事ができる。」
「ここにいる人全てがハンターって訳ではないのだな。」
「そういうことだ・・・さて、まずは受付でハンター登録を済ませるか。」
ジークはそう言って受付に向かって歩き出し、王子も後に続く。
「ようアリシア嬢、元気か?」
「あら、ジークさん。こんな時間からクエストの受注ですか?」
アリシアと呼ばれた、受付の女性がにこやかに答える。
「いや、今日は付き添いでな。これからハンター登録をするんだ。」
ジークはそう言いながら王子を見る。
「あら、あなたは・・・。」
「前に話したろ、例の件だ。」
ジークが言うとアリシアの表情が変わる。
「殿下がハンターになるとゆう話は聞いております。」
「私の身元は伏せておくんじゃなかったのか?」
「さすがに話は通しておくさ。」
「大丈夫ですよ殿下。この件は当支部の支部長と私の他に一握りの者しか存じていません。」
アリシアが微笑みかける。
彼女の笑顔は不思議と見る者の緊張を解かせ、心が落ち着く。
「そうか、ならいいが・・・。」
「では、これからハンター登録を行いますのでこちらの用紙をお読みいただき、規約に同意できましたら署名をお願いします。」
アリシアは王子に1枚の書類を手渡す。
書類には何やら難しそうな言葉で長々とハンターになる際の規約が書かれていた。
「俺はこうゆうの苦手なんだよなぁ・・・。」
ジークは苦い表情をしながら呟く。
「でも内容自体はそれほど難しい事ではないですよ?」
「いや、なんとゆうか・・・言葉使いが堅苦しいだろ?そこが読んでて嫌になる。」
「たしかに、ジークさんにはこういった事は向いてないですものねぇ。」
アリシアは頬に手を当てながら呟く。
その口調は少し呆れが入っているようだ。
「おいそれは一体どういう意味だ。」
ジークは軽くアリシアを睨み付ける。
「規約は大体わかった、後はサインをすればいいのかな?」
それまで書類に目を通していた王子がアリシアに尋ねる。
「はいそこにサインをお願いします。」
「こんな短時間でここに書いてある意味がわかるのか?」
ジークが怪訝な表情をしながら聞く。
「内容は大まかに言えばみっつ、ひとつめは旅団が身分を保証する代わりにクエストの報酬を一部旅団に納めること、ただしその金は依頼者から受け取った依頼金から引かれるものでありクエストの報酬金から引かれるものではないこと、ふたつめは旅団所属のハンターであれば旅団関連施設は基本的に無料で自由に使えるが一部有料もあること、みっつめはクエストの実行中にハンターの身に降りかかる出来事は例外を除いて旅団は責任を取らないこと、と書いてあるな。」
王子が説明する。
「なんと、そんな事が書いてあったのか・・・。」
「むしろジークさんは今まで意味を理解してなかったんですか?」
アリシアが呆れた表情を浮かべる。
「いや、なんとなくわかってはいたけど細かくは・・・。」
「ちゃんと、この規約のことも知ってましたか?」
「失礼な、規約の事はちゃんと知ってるぞ!」
ジークはさも自慢気に話す。
「旅団所属のハンターならこんなこと知っててあたりまえです。あ、殿下ここに署名する時に書く名前がハンターとしての名前になるので殿下は本名で書いちゃダメですよ。」
「ああ、わかった。」
王子はペンを手に取る。
「あ、そうだ。国外では姓と名の順序が逆になるから気を付けろよ。」
「そっかそういえばそうだったな。」
「ああ、ローレンス王国は生まれを表す姓が先で個人の名が後に来るが、他の国では名が先で性が後になる。」
「わかった、では・・・こうだな。」
そうい言うと王子は書類に署名を済ませる。
「これでいいかな?」
「はい、大丈夫ですよ。ではこれからエンブレムを発行するので少々お待ちいただけますか?」
「エンブレム?」
「旅団所属のハンターであることを証明する物だ。こんな奴だな。」
ジークはそう言って懐から小さな銅で作られた首飾りを取り出す。
エンブレムには靴の絵柄と数字のⅡが彫られており、その裏にはジークの名前が彫られていた。
「これでハンターであることを証明するのか?」
「ああ、そうだ。」
「この紋様は何なんだ?」
「この彫られているのは俺の称号と等級だ。タグの材質自体は俺の階級を表している。」
「これはジークさんが見識人の称号を持つC級2等のハンターって意味なんですよ。」
「そうなのか。見識人ってゆうのはどうゆう称号なんだ?」
「見識人は、各地を旅していろんなことを見て聞いて、たくさんの経験をしてきたハンターに送られる称号です。」
「最近はローレンシアを拠点に活動しているが、その前は色んな国を渡り歩いてきたからな。それでこの称号を貰ったんだ。」
「なるほど、それでジークは旅に馴れているのか。」
「ああそうだ。アリシア、エンブレムが出来るまでどのくらい掛かる?」
「今回は新規の発行になのであまり時間はかかりません、そうですね・・・30分ほどあればできますよ。」
「よし、ではその間軽く昼飯でも食べるか。あんたはどうする?」
「私は昼食は済ませたが、特にすることも無いので一緒していいか?」
「ああいいぞ。ではアリシア、俺達はあっちにいるから出来上がったら知らせてくれ。」
「はい、わかりました。」
「頼んだ。じゃあ行くか。」
「そうだな。では宜しくお願いします。」
アリシアに告げると2人は集会所内の食堂へ向かった。
「さて、今日は何にするかな。」
「へぇ、メニューはこんなに細かく、たくさんあるんだな!」
「なんだ?王宮の食事はメニューは少ないのか?」
「少ないというか・・・そもそもメニュー自体が無いんだ。」
「なんだそりゃ?メニューが無くてどうやって食事をするんだ?」
「王宮では料理長が栄養バランスを考え抜いた料理が毎日決まっていて、我々は出された料理を食べるだけだったんだ。」
「なんつーか、好きな料理を選んで食べれないなんざ楽しく無さそうな食事だな。」
「料理長の作る料理はどれも絶品で毎日異なる料理が出て来たが・・・苦手な料理が出て来た時は大変だったなぁ。」
「王族はやっぱ色々難しそうだ。」
ジークは苦い表情を見せながら呟く
「すみません、雌牛のステーキをお願いします。」
「昼からステーキか、豪勢だな。」
「そうか?肉を食べなければ力が出ないからな。体力をつけておくのは体が資本のハンターにとって大事な事だぞ。」
「そんなものなのか。」
「ああ、体は鍛えておかないとな。あそこが空いてるな、あの席に座ろう。」
ジークが近場の空いてる席を指差して言う。
「ああそうだな、では私は水を入れて来よう。」
「おっ、すまない俺のも頼む。」
王子は無言で頷くと自分とジーク、2人ぶんの水を入れジークと同じ席に着く。
程なくしてジークの注文した料理が運ばれて来る。
「ありがとう。これは礼だ。」
ジークは懐から少額のお金を取り出すと給仕係に手渡す。
給仕係も一言例を伸べるとまた次の料理を運びに戻っていった。
「今のは何をしたんだ?」
「今のはチップだ」
「チップ?」
「ああ、俺らハンターは旅団の施設は基本的に無料で使うことが出来る、それはこの食堂もだ。だが美味い料理を食べさせて貰ってるのに金を払わないのは気が引けるんでな、料理を作ってくれた料理人と運んでくれた給仕係に少しのお礼って訳さ。」
「へぇ。」
「ま、そんな事はいいさ。食べるか。」
ジークはそう言うと料理を食べ始めた。
王子は料理を注文していないので、一杯の水を片手にジークが食べるのを横手眺めていた。
「・・・なぁ?」
「ん?なんだ?」
「俺が食べてるのをまじまじと見られると気が散るんだが。」
「でも私は料理を頼んでないから何もすることが無いからなぁ。」
「何か簡単なものでも頼めばよかっただろ。」
「お腹も空いていないんだ。」
「まったく・・・。」
そんな会話を交わす2人の席に近付く1人の男がいた。