1話 旅立ち
「王宮を出たはいいが、これからどうするんだ?」
王子がジークに尋ねる。
「そうだな・・・まずは旅団に行くか。」
「ユニオン?」
「ああ、旅をする者達を支援してくれる国際機関だ。一般的に旅人ってのは住まいを持たず特定の組織に所属してない者が多いから、そいつらの身分を保証してくれる他に一般市民から受けた依頼を斡旋してくれたりするんだ。」
「へぇ~、そんな所があるのか。」
「ああ、旅人達の全面的なバックアップをしてくれるんだ。ちなみに旅団に所属する旅人はハンターと呼ばれる。」
「ハンター?狩りをするのか?」
「その場合もあるが、ハンターとゆう呼び名は旅団の発足に由来する。昔、村人達の依頼を受けてモンスターの撃退をしていた狩人達が、情報共有をして活動の場を広げる為に発足させた組織が今の旅団なんだ。今では旅人や冒険者が多いが、旅団に所属する者達が総じてハンターと呼ばれるのはこの頃の名残だな。」
「へぇ~そんな歴史があるのか。」
「そうだ。旅団は古くからある組織で各地に支部や派遣所がある。」
「ん?支部と派遣所って違うのか?」
「支部と派遣所で出来る事に違いはないが、大きさが違う。支部はそれぞれの国における活動の中枢を担っていて都市部にある。派遣所は村などにあり支部と比べると活動の規模は小さめだな。ちなみに、市民の依頼を受けてハンターを派遣するから派遣所なんだそうだ。」
「なるほど。」
「ま、この呼び名は公式的な呼び方で、ハンターからはどちらも集会所と呼ばれてるな。」
「そうなのか?」
「呼び分けるのも面倒だしな。」
「そんなものか。」
「そうだ、それで俺達は今城下町の集会所に向かっているわけだが・・・。」
言うのを途中でやめてジークは立ち止まる。
「ん?どうしたんだ?」
王子も歩みを止めてジークに尋ねる。
「その前に1つ確かめたい事がある。・・・あんたの剣の腕だ。」
「え!?どうして急に?」
「共に旅をする上で互いの戦力は知っておいた方がいい、互いに背中を預けるからな。どの程度の相手なら任せられるか判断する為に必要だ。」
「なるほど。確かに一理あるな。」
「わかったなら俺にかかって来い、全力で構わない。」
「ああ、そうゆうことなら・・・。」
王子は剣を抜いて正面に構える。
だが、対してジークは剣を抜く素振りを見せない。
「・・・抜かないのか?」
「俺はいい。」
「怪我するかもしれないぞ?」
「あんたの剣の腕前くらいならその心配はない。」
「言ったな?後悔するなよ?」
明らかに挑発とわかる単純な煽りだったが、王子には効果があったようだ。
「いいから、早く打ち込んでこい。」
「いくぞ・・・はぁっ!」
掛け声と共にジークに向かって剣が振り下ろされる。
だがジークはそれをあっさり躱す。
「くっ!」
王子は振り下ろされた剣を勢いはそのままに今度は振り上げる。
が、今度は後ろに逃げられてしまう。
「ならこれでっ!!」
後ろに下がったジークを追うように突きを放つがこれもひらりと避けられる。
「ここだ!!」
突きを放った剣を戻さず、そのまま横薙ぎに払う。
だがそれもジークはしゃがんで避ける。
つぎの瞬間、王子の喉元にジークの手刀が突きつけられてしまう。
「うっ!?」
「ここまでだな、あんたの実力がだいたいわかった。」
「・・・くそっ。」
思っていた以上のジークの実力に、掠らせることすらできなかった王子は悔しさを口から漏らしながら剣をしまう。
「剣筋は悪くない、教えが良かったんだろう。だが直線的すぎる・・・一般の兵士レベルだな。野党や下級モンスターくらいなら撃退できるだろうが、他は難しいだろう。」
ジークが今のやりとりで見た王子の腕前を評する。
「それは誉めているのかな?」
「あぁ、褒めてる。」
「・・・なんか素直に喜べる気がしないな。」
「そうか?その歳でこの腕前は大したもんだろう。一般の大人では敵わないだろうからな。」
「むぅ・・・そうなのか。」
「ああ、ちなみに剣は誰に習ったんだ?」
「王国騎士団団長のフィッツジェラルド・ホーキンス殿だ。」
「見送りに来ていた白銀の鎧を来ていた人か?」
「そうだ。」
「あの人か・・・確かにあの人は相当な実力者だな、少なくとも今の俺では勝てそうにない。」
「フイッツジェラルド団長はローレンス王国でも最強の剣の腕前だからな!」
自分の剣の師が評価高く評価された事が嬉しいのか、王子は自慢げに話す。
「なんでお前が嬉しそうなんだ。」
「私があっさり負けた相手が師を認めているのだ、これは嬉しいだろう。」
「まぁいいが・・・あの人はハンターで言えば上級クラスの実力はあるだろう。」
「上級?それは何だ?」
「ハンターの個々の実力等を示す階級みたいな物だ。大きく分けて6段階、上から順にAからFまであり、さらにその中で1から3の等級がある。Aの1等とかDの3等って感じだな。もっとも、等級は旅団がハンターの実力を細かく識別するためのものでハンター達は6段階の階級しか呼ばないがな。」
「へぇ・・・。」
「その中でもBクラス以上のハンターは上級と呼ばれ、さらにAクラスは最上級となり、Aクラスになると旅団の名の元に国家間の争い事の調停等もしたりする。」
「1人の人間がそこまで出来るのか!?」
思っていた以上のスケールの大きさに王子は思わず驚きの声をあげる。
「Aクラスともなるとそれまでに貢献してきた実績と実力があるからな。とは言ってもAクラスのハンターなんてのは数多くいるハンター達の中でもほんの一握りしかいないけどな。」
「なるほどなぁ、凄い遠い世界の事みたいだ。」
「そうでもないさ、ハンターの階級ってのは何も戦闘能力だけじゃない。これまで旅団にいかに貢献してきたかも評価される。戦いにはまるで向いてないが、村の治安維持に長年勤めてきた事が評価されてBクラスになったハンターだっている。」
「そうなのか。」
「まぁ、戦闘能力が高い者は功績を上げて早くに階級を上げる奴もいるがな。他には・・・そうそう、階級の他に称号があるな。」
「称号?」
「肩書きみたいなものだ。ハンターの戦い方やこれまでの実績に応じて旅団が授ける。例えば村を襲うモンスターの撃退が得意な者は盾や壁、討伐なら剣や矛、薬草などの採集が得意なら博識者や才人って感じだな。」
「色々あるんだな。」
「旅団には数多くの依頼が寄せられるから、それぞれの依頼に適したハンターを派遣するために個々の能力がすぐにわかる呼び名が必要なんだ。」
「そっか、そうすればそれぞれの依頼を得意とするハンターを割り当てられるからか!」
「そういうことだ。・・・さて、そろそろ城下町に着くな。」
王宮と城下町を繋ぐ街道の門を見やりながら呟く。
「到着か。」
「ああ、城下町に着いたら集会所に行ってハンター登録をする訳だが・・・そこで1つ大事な事がある。」
不意にジークは足を止めて言う。
王子も足を止める。
ジークの眼差しはとても鋭かった。
「大事な事?」
「ああ、名前だ。」
「名前?そのまま登録するんじゃないのか?」
「そのまま登録するわけ無いだろう・・・。」
ジークは呆れた様子で答える。
「あのなぁ、あんたは一国の重要人物だ。そのあんたが例えハンターとしてだろうが他国に入ってみろ、国際問題になりかねんぞ。」
「あ、あぁ・・・。」
「それに、その身元を狙う輩がいないとも限らん。」
「なるほど・・・。」
「だから登録する際には偽名を使って登録する。」
「偽名?そんな事していいのか?」
「決して多くはないが、ハンターの中には本名とは別の名を登録する者もいる。ハンターの中にも様々な事情を抱えている者もいるからな、特に大した問題ではない。」
「なるほど。そうなのか。」
「そうだ。だからこれからはローレンス・フォン・アウスレーゼではなく、1人のハンターとして生きていくことになる。」
「1人のハンターとして、か・・・。」
「これからの人生を共にする大事な名だ。いい名前を考えておけ。」
「わかった。」
王子の返事を確認するとジークは歩き出す。
王子もそれに続き、城下町へと続く門を潜った。