0-5話 出立の時
翌日、王子の姿は王宮の入口にあった。
母である王妃と、王子の出立を寂しがる家臣達と挨拶を済ませた王子は期待に胸を膨らませながら王宮の門を踏み越えた。
「よう、遅れずにちゃんと来たな。」
そう言いながら門の影からジークが現れた。
「挨拶はもう済ませたのか?」
「ああ、もう大丈夫だ。出発しよう。」
「ん。なら行くか。」
王子が言うとジークもそれに応じて歩き出す。
だが、少し歩いた所で王子はふと歩みを止める。
「どうした?早くもホームシックか?」
立ち止まった王子を軽くからかうようにジークが言う。
「・・・父上には旅立ちの挨拶をしていないんだ。」
「そうなのか?」
「もちろん、父上にも挨拶をしようと思っていのだが・・・父上は私と面会をしてくれず、結局最後まで姿を現してはくれなかったんだ。」
王子はそう言うと振り返り、王宮の上層に目を向ける。
スコフォード王の私室がある辺りを見るが、どの窓辺にもその姿は無かった。
「・・・息子の旅立ちだってのに、薄情だな。」
「・・・・・・。」
「ま、自分の子供がかわいくない親はいないと言うし、お前の親父さんにも何かしら考えがあるんだろ。今はわからんだろうが、いずれはわかる時が来るさ。もしくは親父さんの口から話してくれるかだな。」
「そうだと良いのだが・・・。」
「今は考えてもわからん事に時間を割くより、先に進もうぜ。」
そう言うとジークは歩みを進める。
(父上・・・私はいずれ帰ってきます。その時は父上のお考えをしっかり理解することが出来るよう、この旅で成長してきます。それまでどうかお元気で・・。)
王子は心で旅への決意とスコフォード王への別れの言葉を念じるとジークの後を追うように歩き出した。
これから始まる長い旅は様々な出来事が起こり王子を心身ともに大きく成長させてくれるのだが、王子自身はこの時はまだ知る由もない。
---ローレンス王国王宮 最上層階空中庭園---
「陛下、殿下が旅立つ時にこのような場所におられて宜しいのですか?」
衛兵がスコフォード王に尋ねる。
その表情は驚きと困惑が入り雑じっていて、王子の旅立ちに居合わせないスコフォード王へ複雑な思いを抱いている様子だ。
「ああ、これから長い間会えなくなる。そう思うと寂しくなるのでな、私はここから見送る事にしたのだよ。」
「はあ・・・。そうでしたか。」
「うむ、だからこれで良いのだ。」
(そう・・・これで本当に良かったのだ。これで・・・。)