0-2話 父との何気ない会話
「申し上げます、殿下がご到着なさいました。」
衛兵の大きな声が玉座の間に響き渡る。
家臣に息子を連れてくるように命じたのに、息子は1人でやって来たようだ。
家臣の連中は忠誠心が厚く仕事もこなせるし、頼りになる。
賢王などと呼ばれているが、自分1人で国を治めるのは到底無理な話だし、この国を支えているのは家臣達の存在が大きい事はスコフォード王自身も心得ているし、家臣達を信頼している。
だけど家臣達はこうゆうちょっとした仕事はサボりたがる。
またかと思い一つため息を漏らすと「入れ。」と告げる。
「失礼します。ローレンス・フォン・アウスレーゼただいま参上いたしました。」
息子のアウスレーゼ王子が玉座の間に入室する。
手塩にかけた息子で、先王からの教えや自分がこれまで経験し学んできた事や政治術と渡世術だけでなく、王国騎士団団長から戦略と剣の手解きを受けさせ今では一般の兵士くらいには戦える腕前だ。
そのおかげか性格も裏表の無い真っ直ぐで穏やかに成長し、家臣達や国民の評判も良く次期王として期待されている。
自分が存命なのに次期王としての話が挙がるのもどうかと思うが・・・
「父上、お呼びでしょうか?」
「アウスレーゼよ、剣の腕前をあげたそうだな?騎士団の者から兵士達に勝ち越し始めていると聞いているぞ。」
「はい、ですがそれはフィッツジェラルド団長のご指導のおかげです!」
フィッツジェラルド・ホーキンス
ローレンス王国騎士団の団長で、ローレンス王国でもトップを争う剣の腕前だ。
「ホーキンスか、剣の腕は確かなのだが酒癖が悪いのがあ奴の欠点でな・・・剣以外に何か良からぬ事まで教わっていまいな?」
「ははっ、そのような事はありませんよ、フィッツジェラルド団長は素晴らしきお方です!」
まさか、とゆう感じに王子が軽く鼻で笑う。
ふと、稽古の時に団長が話してくれた昔話が王子の頭をよぎる。
「父上は昔フィッツジェラルド団長と共に戦場を駆けていたと伺ったのですが、それは本当ですか?」
「あ奴に聞いたのか?」
「はい。」
「昔の話だ。」
思いがけず息子が出した昔の話に懐かしさを感じながら、スコフォード王は宙に視線を移す。
「今でこそ泰平の世を迎えたが、私が王位に就く前は鉱脈の領有権を巡って北の帝国と小競合いが絶えず起こっていてな、当時私は剣の道を学ぶ為に私の身を案ずる先王、お前の祖父の反対を押切り騎士団に志願したのだ。」
「騎士団の士官だったホーキンスと私は同じ隊に配属され国境を超えてくる帝国の監視任務に当たっていたのだが、その時はホーキンスには幾度となく命を救われたよ。」
「そうだったのですか・・・」
父の予想外にも自分に剣を教えたくれた団長が、自分の父の命の恩人だとゆう話に思わず息を飲む。
「あれからホーキンスは剣の腕をあげ、武勲をあげて騎士団の団長になり、私は先王の死去に伴い騎士団を辞めてこうして国王になったわけだ。」
「騎士団団長として国を守るホーキンスと国王として国を守る私、それぞれ立場は違ってしまったが今でもホーキンスは私の悩み事を聞いてくれ、時に酒を酌み交わしながら互いの愚痴を言える良き友だ。」
「・・・酒癖は悪いがな。」
スコフォード王がくすりと笑いながら言うと、周りの衛兵達からも苦笑が漏れる。