6話 マルコの扱い方
「ん・・・朝か。」
部屋に入り込んだ朝日に目を覚ましたロイはベッドから身体を起こす。
何か夢を見ていたよう気がするが、思い出さないほうがいい気もする。
寝起きでよく回らない頭でそんなことを考えていると、誰かが部屋の戸をノックする。
「起きてるか?」
ジークだった。
「ああ、起きてる。」
「そろそろ朝食にしようと思うが・・・どうする?」
「そうだな、私も一緒にしていいか?」
「ああ、いいぞ。」
「では先に行っててくれ、私もすぐに行く。」
「わかった。ではまた後でな。」
ジークはそう言うと食堂に向かったのだろう、足音が遠ざかっていく。
「今日は初めての昇格試験か・・・頑張ろう!」
ロイは自分に気合いを入れると、部屋を出て食堂へ向かった。
階下へ降りて集会所内を見回すと、ジークが食堂の席に着いていた。
「来たか、料理は注文しておいたんだが俺と同じで良かったか?」
「大丈夫だ、ありがとう。」
「なら良かった。」
ジークに返事を返すとロイも席に着く。
「朝食を食べたらすぐ昇格試験を受けるのか?」
「これと言って他にやる事もない、それでいいだろう。昨日も話したが、昇格試験といっても次のランクのクエストを受けるだけだ。」
「G級1等のクエストか。」
「ああ、1等と言えば薬草とかの採集だろうそこまで難しいものでもない。」
「モンスターに遭遇したら?」
「街からそう離れなければさほど強いモンスターもいない、今のあんたでも問題ではないはずだ。」
「そうか・・・。」
「なに、俺も監督官として同行する。ヤバイ奴に出会ったらさすがに助けるさ。」
「それは心強いな。」
2人がそん話をしているとジークが頼んだ朝食が運ばれてくる。
2人は配膳係に礼を言い、それぞれチップを渡して料理を受け取った。
「そう言えばジークが戦ってるところはまだ見たことがないな。」
「そうか?・・・そうだったか、今までは戦闘が起こるようなクエストを受けていなかったな。」
「私の剣の腕前を見た時も、ジークは抜かなかったし。」
「抜く必要が無かったからな。」
「ジークは剣を2本持っているが両方使うのか?」
「まぁな。」
「扱いにくくないか?」
「慣れればそうでもないぞ。」
「おや?そこにいるのはジークじゃないか。」
ジークが答えると、聞き覚えのある声が会話に割って入る。
「奇遇だね!こんな所でなにをしているのかな?」
マルコだった。
「何って・・・見ればわかるだろ。」
「ちょっと!僕は君に『何をしているのか』と質問をしているんだよ?それなのにそのつれない返事は何だい?」
「・・・朝っぱらからうるさいな。」
ジークは顔をしかめる。
「まったく、なぜ君は朝からそんなに不機嫌なんだい?」
「お前が来たからだよ。」
「僕が来たから?なぜだい?僕は君に何か嫌な事でもしたかい?それともこの間の件かな?」
「・・・うぜぇ。」
「はは、まあまあジーク、抑えて抑えて。」
眉間にシワを寄せるジークをロイがなだめる。
「やぁロイ君、元気かい?」
「まぁ、それなりに。」
「それは良かった!君近頃頑張ってるみたいだねぇ。先輩として鼻が高いよ。」
「ええ、おかげさまで。」
「誰が先輩だ。」
ジークがポツリと呟く。
「今日は昇格試験なんだ。」
「なんと、それは素晴らしい!監督官は決まったのかい?なんなら僕が行こうか?」
「監督官は俺が行く。」
「もうジークが行くと決まっているのか、それは残念だ。」
「なんで残念がるんだ。」
「先輩としては後輩の成長を見てみたいものだからね。そうだ!僕も一緒に行こうか?」
「いいんじゃないか?ジーク?」
「絶対ダメだ!」
マルコが同行することにロイは賛成するがジークは強く反対する。
「ええっ、ジークそれは酷いよ~さすがに僕でも傷付くよ?」
「ダメなのか?」
「こいつがいたら無駄な危険が増える、ダメだ!」
「無駄な危険?」
ロイが首をかしげる。
「この前のお前が怪我してた時の話聞いたぞマルコ。」
「ギクッ」
「お前、E級ハンターの昇格試験の監督官を買って出て同行した時、対象モンスターを討伐した帰りにジャイアントワームの巣にいたずらして、怒ったジャイアントワームに襲われたらしいな。」
「ええっ・・・。」
「な、なんでそれをっ!」
「そのせいでE級ハンター共々怪我しちまって、そのせいでそいつ昇格はしばらく見送りになったそうじゃないか?」
「そ、そうなのか?」
「だって帰りの道中に弱ったジャイアントワームがいて、素材が欲しかったから倒しちゃおうと思って攻撃したら逃げちゃって、後を追うと巣に逃げ込んだから巣穴を覗いてみたら巣の中から群れが湧いて来たんだよ。」
「あのなぁ・・・、監督官が自分の欲しい素材優先してモンスターを攻撃するか?しかも対象モンスターを討伐して帰る途中にだぞ?」
「それは反省してる・・・。」
「監督官ってのはただクエストを不正が無く正式にこなしたか見張るだけじゃなくて、対象者の安全を確保し、1人の先輩ハンターとして色々教えるのも役目だろうが。」
「うぅ。」
ロイの目にはマルコの目が少し潤んでいるように見えた。
「まったく。」
「マルコの怪我にはそんな事情があったのか・・・。」
「どうするロイ?まだマルコを連れていこうとするか?」
「いや・・・またの機会にお願いしようかな?」
ロイの言葉にマルコはがっくりと肩を落とす。
「そうした方がいい。」
マルコは何か言いたげな様子だったが、口を閉ざすとそのまま集会所の外へ出ていった。
「なんとなく、皆がマルコを邪険に扱う理由がわかった気がするな。」
「馬鹿だからな。」
ジークはそう言うと、最後の一口を放り込む。
「さ、朝食も食べ終わったしそろそろ昇格試験を受けるか。」
「そうだな、行こう。」
朝食を食べ終えた2人は食器を片付け、集会所中央の受付へ足を向けた。
「ジークさんにロイさん、おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「アリシア、さっそくだがロイの昇格試験を受けたい。1等の依頼を見せてくれ。」
「そうくると思ってましたよ、こちらになります。」
そう言うとアリシアは依頼書を取り出す。
「今あるのはこの3件だけか?」
「はい。今日は1等の依頼はあまり出されていないですね。」
アリシアの言葉を聞いたジークは依頼書を見つめる。
「内容は・・・近隣の村への護衛、薬草の採集、隣町への荷物の配達か。」
「この中だとどれが簡単そうだと思う?」
「どれも変わらないな。しいて言えば、採集が色々動けるぶんハンターとしての基礎が身に付くだろうな。」
「なるほど・・・。」
ジークの答えを聞いてロイは少し考え込む。
「どうしたんだ?黙りこんで。」
「これ全部同時に受けることって出来ないかな?」
「全部?3つともか?」
「できなくは無いですけど・・・あまり聞いたこと無いですね。」
「そうなのか?」
「通常ならともかく、今回は昇格試験だ。複数受けると評価項目が増えて、全部を満たさないといけないからそのぶん昇格が難しくなる。」
「そうなのか。」
「全部受けても構わんが、どれか一つにした方がいい、俺は評価を甘くしたりしないぞ?」
「うっ・・・ならこれだけにしておくよ。」
ロイはそう言って薬草の採集の依頼書を手に取る。
「わかりました、ではこちらの依頼を受注します。」
「まぁ、妥当だな。」
「依頼の品は薬草の採集を3袋分ですね、依頼者は3丁目の道具屋のご主人です。」
「あぁ、あそこか。」
「知っているのか?」
「ちょくちょく使っているからな。宿と食事は旅団が面倒を見てくれるが、武器防具と道具は自前で用意しないといけないから、ハンターにとって武器屋と防具屋と道具屋はそれぞれ馴染みの店がある。」
「そっか、では私もいつか馴染みの店ができるのか。」
「ハンターをしていればそのうち、な。」
「ではお二人に受注書をお渡ししますね。」
アリシアはロイとジークそれぞれに受注書を手渡す。
「受注書は1枚じゃなかったか?」
「俺のは監督官用の受注書だ、あんたが昇格するにふさわしいか評価する項目がある。」
「そっか。」
ロイは納得して受注書を懐にしまう。
「よし、ではそろそろ出発するか!」
「初めての昇格試験だな。まぁG級1等なんてそうそう落ちるモノでもない、気負わずにな。」
ジークはやや興奮気味のロイの肩に手をやり、なだめるように言う。
「お二人とも頑張ってくださいね!」
背中から激励の言葉をくれるアリシアに手を振ると2人は集会所を後にした。




