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ハルジオン・デイズ - 食に関心の無い世界を料理人が歩み行く  作者: 朧月 夜桜命
第一章:独りきりの旅立ち① - 七節綴文編
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第9話:料理人、煌めき葡萄を見つける

 一夜明けたユゥンの詠一章七節 前一ノ頁前、普段より早く目が覚めてしまったが、概ね何時も通りの朝を迎えた。

 遠足の前日はよく眠れないだとか、そういう日に限って普段早起きしないのに早く起きちゃうとか、そういう類のものだ。

 つまり何が言いたいのかと言うと、初めての冒険らしい冒険にワクワクしている、という訳だ。


「初めて尽くしだし、迷惑かけないように気を付けないとね」


 自分に言い聞かせるように呟き、早速準備を始める。

 私物は殆ど持っていないので、道中の食料や調理に必要な道具類を持物(インベントリ)に入れるくらいなのだが……。

 それに気付いた時、プルミ村の発展具合的に物を増やすのも難しいよな、とも思ったが、この七日間で欲しいと思った物が食料や調味料だけだった事に乾いた笑いが出る。


「ははは……コレはちょっと、人として、女として拙いかな……」


 これから森に行く身故、そこを改善するのはまだ先の事になりそうだ。

 死んだ魚の目よろしく、なんとも言えない顔のまま一階で準備をしている綴文に話しかける勇気ある者はおらず、ルーティですら遠くから様子を伺う事しかできないのであった。


――


 それから程なくして狼の銀尾(シルバーウルフテイル)が降りてきて、朝食の肉を食べながら予定について話をする。

 別段難しい話でもなく、森に入る前に一度休憩を挟み、探索時は食べられそうな物を見つけたら随時報告するだとか、そんな感じで話はまとまっていった。

 ちなみに、朝から肉とか女の子達は大丈夫なのかと思ったが、元気に美味い美味いと食べていたので安心した。


――


「さて、早速出発してもらうわけだが、一人追加メンバーが居る。この村の男で、周辺の事にも詳しいから、何かあったら頼ってやってくれ。当然、戦力としてもな」

「どうも、プルミ村門番のフランツです。多分村に入る時に会ってると思うけど、一応はじめましてって事で」


 セリカの森側にある門の前でフランツが合流し、全員が簡単に自己紹介をしていく。

 どうやら、門番が門から離れる事は、無事許可が降りたようだ。

 出発前に問題も起こらず、ルーティ、エルネ、エルティに手を振り、綴文、フランツ、狼の銀尾はセリカの森へと歩き始めるのであった。


 森の入り口は村から近くはないが、さほど遠いわけでもなく、警戒しつつも約四時間程で到着した。

 時間にしておおよそ昼くらいなので、前六ノ頁前くらいといった所だろうか。

 道中特に何もなく、無難な世間話をしながら歩いてきただけだったが、予定通り入る前に休憩を取る事とした。


「皆さんは近くの大きめの石や、燃やすのに使えそうな、程よく乾燥した枝を拾ってきてください」

「なら、オレとミミカとラリゴは石を探しに行く。スバンはフランツさんと一緒に枝を探してきてくれないか?」

「はい! 任せてください! 行きましょう、フランツさん!」

「あ、あぁ分かった。分かったから強く引っ張らないでくれ」


 ワイワイと石と枝を拾いに行くのを見送り、綴文は自分の作業を開始する。

 持物(インベントリ)から【木の俎板】と【木のボウル】【包丁】【酒】を取り出し、ロケットボアのブロック肉を俎板の上に出し、包丁で少し厚めに切ってボウルに移していく。

 必要な量を切り終えると、【<水流(ウォーターフロウ)>】で真水を生成し、酒を加えて【<水操:浸透>】で手早く血抜きを行うと、綴文がするべき準備は完了だ。


 あとは皆が帰ってきたら簡易的な窯を用意し、火を起こして焼くだけ。

 ちなみに、白々亭で使っていた石の器を使おうかと思ったが、あまりに重くて使いづらかったので、ルーティに頼んで木のボウルを用意してもらっていたのだ。

 ついでに俎板も用意してもらったが、ルーティから「こんな板切れ何に使うんだい」と聞かれたので、故郷で使っている料理用の道具だ、と伝えると、ちゃっかり自分の分も用意していたのは、見ていて心が和んだ。


 そんな事を思い出しながら一人でニコニコしていると、最初にリカル率いる石拾い組が戻り、四人で窯の形に置いていく。

 その作業中にスバンとフランツが戻り、枝を大きさや太さ別に分ける作業をしてもらい、ようやく準備が整った。


 まず細い枝に火を着け、だんだんと太い枝を入れていく。

 すると火力も程よく、料理をするのに丁度良い感じになったので、持物(インベントリ)から鉄板を取り出す。

 これは白々亭で使っている物ではなく、鍛冶屋に頼んで作ってもらった物だ。

 木工屋に木のボウルと俎板を頼む時に、ついでに頼んでもらったのだ。


 リカルとラリゴにお願いして鉄板を窯に乗せ、鉄板が温まった所に、血抜きをした肉を豪快に投入。

 表面に軽く岩塩を振り、しばらくしたら裏替えして再び軽く岩塩を振る。

 ジュウジュウと良い音が鳴り、薄っすらと登る白い煙と一緒に食欲を唆る匂いが広がっていく。

 ふいに鼻を刺激された面々は、腹の虫の合唱で催促してくるが、ロケットボアは豚肉とほぼ一緒なので、しっかり焼けるまで【待て】をする綴文であった。


「さあ焼けましたよ、皆さん自分のお皿出してください」


 綴文の合図と同時に押し合いへし合い列をなし、最初に肉を手にしたのはミミカだった。


「小柄有利、肉汁至福」


 謎の四文字熟語を呟きながらモグモグと食べる様は、本当に幸せそうで、とても気持ちの良いものだ。

 それを見たリカル達は喉を鳴らし、次々と食べ尽くしていくのだった。

 ぺろりと食べてしまったラリゴにおかわりを求められたが、夜の分がなくなるので拒否したら縋りつかれた話は、良い土産話になりそうだ。


――


 改めて準備をしている面々とは離れた場所で石をばら撒き、火の始末をし、【<水流(ウォーターフロウ)>】で鉄板等を洗い、道具を片付けて綴文も再出発の準備が完了。

 お気楽な空気は一瞬にして引き締まり、一変して戦闘準備万端、冒険者の顔になっていく。

 綴文とフランツも直ぐ様それを感じ取り、これから本当の冒険が始まるんだと気を引き締める。


「これから森の中へ入るが、シラカミサマ(・・・・・・)が探す植物以外にも、道中食べられそうな物を見つけたら報告すること。それから、猛獣が出る事を想定した隊列で移動する。元々出る森だし、警戒を怠って命を落とすなんて事は絶対に避けたい」


 リカルがそう言うと、皆で話し合い、どのような布陣にするか決めていく。

 最終的に、先頭にリカル、すぐ後ろに綴文、その両隣にミミカとスバン、その後ろにラリゴとフランツという布陣になった。

 そして、リカルの合図で森の中へと足を踏み入れるのだった。


――


 中に入ってみると、木々が密集しているはずなのに、所々光が漏れているのが分かった。

 どうやら、密集している部分とは別に、隙間もそれなりにあるようで、真っ暗で陰湿な雰囲気は無いようだ。

 とは言え、木の高さは五から十メートル程あり、対して綴文達は十四から十九センチくらいしかない。

 自然の爽やかな空気を感じつつも、覆いかぶさるように生える枝や葉等の上からの圧迫感は半端ではない。


 注意して進む事一時間、目標地点まではまだ距離があり、小休憩を取ることに。

 常に緊張感を持って歩き、周囲を警戒しつつ食べられそうな植物を探すという事をしているせいで、精神的な疲れが出てきているのだ。

 あまり無理をするのもよくないので、魔法で生み出した水を配りながら一息吐くと、程なくして再出発する。


 それから二時間くらい経った頃、フランツとラリゴが声を上げた。


「なんかあるんじゃもん! このツブツブしたやつ食べられるかもしれんじゃもん!」

「こっちはなんか丸っこいのがあったぞ! なんか変なニオイだが、食べられるんじゃないか?」


 その声に一同は足を止め、綴文がそれぞれを確認しに行く。


「ラリゴさんが見つけたのは……どうあがいても食べられない実ですね、一部の鳥なんかが食べますが、人が食べたら麻痺して動けなくなります。それから、フランツさんが見つけたのは……ポイズンベリーじゃないですか! 猛毒ですよ! 虫も食べない危険物ですよ!」

「うわあ! 触っちまったよ! 助けてくれ!」

「食べなきゃ大丈夫ですよ、安心してください」


 えらいこっちゃと大騒ぎになったが、綴文が食べなければ大丈夫だと言うと、徐々に冷静さを取り戻し、顔を真赤にして布で手を拭いた。

 一緒に慌てたリカルもなんだか恥ずかしそうだ。


 そんなやり取りをしていると、今度はスバンが何かを見つけたようで、綴文の服の裾を引っ張って呼んでいる。


「あの、あっちの木に何かあるみたいです。なんか良い匂いがしますし……行ってみませんか?」

「分かりました、行ってみましょう」


 その様子を見ていた一同はスバンの後を着いて歩き、それを前にして感嘆の声を上げる。

 それは見事な黒に近い紫の球体で、大きさも一抱え程もありそうだ。

 ほのかに甘い匂いを発しており、なんとも魅力的な物に見える。


「スバンさん当たりです! これはトゥインクルグレープといって、とても甘い果物です!」

「やったー! 私やりましたよー!」


 嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね、ミミカも自分の事のように嬉しく思い、一緒にぴょんぴょん跳ねる。

 かたやラリゴとフランツは、自分が見つけた物がハズレだったせいか、面白く無い物を見るような、かなり大人げない視線を向けている。


「……それが大人のする事ですか」

「ラリゴ……オレはリーダーとして恥ずかしいぞ……」

「「うっ……」」


 そんなやり取りが行われつつも、綴文はトゥインクルグレープを切り、下にいるラリゴ達に受け取ってもらう。

 数にして二十個程落とし、それ以上は乱獲になってしまうので止めておいた。

 実際は目視できる範囲で千粒程ありそうだったが、他のメンバーには高い位置の実は見えていないようなので、止められたのもあった。


 十九個は持物(インベントリ)に入れ、残しておいた一個をその場で食べる事にした。

 綴文が持つと本当に一抱え程ある事がわかり、直径三から四センチくらいはありそうだ。

 それを丁寧に切り分け、全員に配っていく。

 全員が齧りついた瞬間……。


「「「「「美味しいいいいいい!」」」」」

「美味……」


 口いっぱいに広がる、葡萄特有の甘さと香り。

 味は巨峰のようで、とても濃くて満足感もかなりの物。

 しかも大きさが大きさな為、その肉厚な実の食べごたえは最高だった。


「コレはヤバイですね……世に知れたら争奪戦になりそうです……」

「オレはシラカミサマ(・・・・・・)が良いって言うまで喋らないぞ……いや、喋れないぞ」

「私もです……」

「間違いないじゃもん……」

「至福……至福……うまうま」

「宿に戻ったらルーティさんに相談だな、なんか色々問題になりそうだし」

「「「「賛成」」」じゃもん」


 満場一致でこの先どう扱うか決まった所で、トゥインクルグレープの味に後ろ髪を引かれながらも先を急ぐ事にした。


 それから約二十分くらい経っただろうか、進行方向が黄色っぽい霧に覆われいる事に気が付き、警戒心が一気に高まっていく。

 自然発生した物なのか、猛獣が原因で起こっている事なのか、その判別がつかないまま前に進むしかない一行は、口元を布で押さえながらゆっくりと前進していく。

 すると、目標地点が目の前に迫ってきた辺りである異変に気が付いた。


「リカルさん! 霧の中に誰か倒れているみたいです!」

「なんだって!」


 まだ距離があり、完全に目視確認できたわけではないが、【地図(マップ)】上には人が居るとマーカーが教えてくれていた。

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