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デウス・エクス・マギア ~大いなる幼女とデスメタる山田~  作者: 猫文字隼人
第一章 魔王とデスメタルと俺
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山田、食べられると勘違いする

 ヴェルベットと歩き始めて随分時間が経過していた。


 スマホの時計はバグで表示されておらず、時間経過が全く解らないが体感時間で二時間ほど経過しているはずだ。

 漸く森を抜け街道のような場所に出たのだが人間界のように舗装された道路が有る訳では無く、その場所を通る存在が居たからこそ出来上がった、いわば獣道のような物だった。



「お腹減った……」



 ヴェルベットは唐突にそう言うと、青い顔をしてお腹を押さえている。



「腹減ったって……そういやお前ら悪魔って何喰うんだ?」



 まぁバナナは食べるのだろうが。その問いにヴェルベットは答えずこちらを見てにこりと笑う。うん? 背中に冷たい物が走る。



「俺かよ!?」



 流石に驚いてヒー! という声が漏れそうになるのを必死にプライドで押さえつける。



「はぁ!? 喰うか馬鹿! あー、私たち悪魔は基本的に普通に生きているだけなら食べ物は要らないんだ。でも魔力を余分に使ったりするとお腹は減る」


「なんだ、びっくりした。でも食べ物は要らないってどういう事だ」


「ヤマダは説明が難しいことばかり聞くなぁ。えーと、魔界には魔素というものが満ちていてな、それを吸収して活動エネルギーである魔力に変換しているんじゃ。だから基本的にはあえて食べる必要は無い。勿論かつては命を奪い合って生きていく必要があったらしいんじゃが。ほら、あれを見てみろ」



 そう言ったヴェルベットは手でひさしを作りながらまぶしそうに空を指さした。

 空にあったのは日食を起こしたような黒い太陽だった。



「黒い、太陽?」


「たいよう? いや、あれは黒い月と呼ばれている。伝説によると初代魔王が作り上げた魔素の永久放出機関らしいけど、まぁそういった伝説にありがちな適当な逸話だろう。流石にそんなのを本気で信じている悪魔もいないじゃろ。子供じゃ無いんだから。……あ、ちょうちょ」



 突然ふわふわと飛んでいる蝶に気を取られたヴェルベットの動きには全く説得力が無かったが彼女のプライドを傷つけないように黙っておく。



「こほん! とにかくあれが発する魔素を吸収し、魔力に変換することで魔界の民は生きているという事じゃ。だけど先にも言ったようにどうしても魔法を使ったりすると足りなくなってしまう。そこで当初は生き物の直接捕食により魔力を補っていたんじゃ」



 ふんふんと頷く。

 つまりは生存に必要な最低限のエネルギーは黒い月のエネルギーで補充されるが、魔法を使うには別途調達しなくてはならないという事。



「じゃが食料の安定的な供給が難しいという観点から大地を耕す事になった。そうして作られた果物や野菜に効率的に大地に宿る魔素を吸収させて、それを食べることで足りない魔素を補うという事じゃ。効率性と携帯性、保存性を兼ね備えたそれらのシステムが今の魔界において最もメジャーな方法じゃろう」


「成る程、食事をエネルギー摂取の為と割り切っている訳か?」


「そうだな。我々には味覚という物があるにはあるんじゃが、非常に薄いから嗜好品としてはちょっと弱いかもしれないな。といっても甘みには弱いんじゃがな。ヘルスウィートに関してもそういった理由で珍重されているのじゃ。そうだ、甘いのくれ!」



 あーんと開けた口にご所望のあめ玉を放り込んでやる。



「じゃあの黒いバナナって本当に貴重な物だったんだな」



 ヴェルベットはあめ玉を左右のほっぺたを往復させながら至福の表情を浮かべている。



「あまーい……うむ、そうじゃな。私も魔王じゃ無ければヘルスウィートなんてきっと食べられなかったし」



 そうだったのか。苦手だと思いながらも食べてしまったことに小さな罪悪感を感じた。



「成る程な。となると今は魔法を使えるようになるほどの食べ物は無いと言う事か」


「あるには在るけど……」



 ヴェルベットのポシェットからはもう一本ヘルスウィートが出てきた。



「これを食べればそれなりの魔法は使えると思うけど、流石にそんなに貴重な物をほいほいと食べるのは憚られるからな。多くの悪魔が滅多に食べることは出来ないものだし、私だってそれくらいはわきまえている」



 成る程と頷く。

 見た目は小さな少女ではあるが、それなりに考えるべきことを理解しているらしい。少しだけヴェルベットへの理解が進んだ気がした。


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