大いなる少女とデスメタる山田
「何が『完』なんじゃー!」
ぱりーん! と窓ガラスが割れてそこから何かが突入してきた。
何かって言うか、まぁ端的に言って美少女だった。
「な、何だお前――!?」
飛び散ったガラスの上でふんぞり返って立っている美少女。黒いワンピースに、どこかで見たライダースを羽織っている。
ふわりとカールした淡いピンクゴールドの髪に、血色に燃える大きな目。その周りを彩る長いまつげ。それは言うまでも無く――
「ヴ、ヴェルベッ――あ、いや全然違う。ヴェルベットはもっとぺったんこだからな」
あぶないあぶない、他人と間違えるところだった。
ヴェルベットにおっぱいは存在しない。
目の前の少女にはおっぱいがある。
ゆえに目の前の少女はヴェルベットではない。証明終了。
これ世に三段論法という。
「な――!? お、お前おっぱいで私を認識していたのか――!」
突然胸を隠しつつうなだれる謎の美少女。
いや謎でも何でも無かったのだが。
ライダーキックでガラスをぶち破ってこんな派手な登場シーンをかましてくれるような存在はやっぱりヴェルベットしか居ないのだから。
たとえあり得ない変化があろうとしても、だ。
「……いや、ってかなんでこっちにお前が居るんだ」
「え、えええええ!? 何その反応! なんかめっちゃくちゃ冷たくないかお前!」
天界とのように隣接した世界であるならともかく人間界との次元接続は基本的には出来ない。
俺を召喚出来たのは偶然にも魔界秘宝の力を借りたがゆえだった。
そしてその秘宝は俺が人間界へ帰還する為に持ってきている。
もう魔界には転移を可能とする宝珠は存在しないのだ。
「ふっふーん! ばかめ、私を誰だと思っているのだ!
天才魔王ヴェルベット・チャーチ様だぞ!
お前が言っただろう。たとえ失敗しても、それを糧に先へ進めと。
だから私はやってきたのだ。いくら失敗してもへこたれなかった。
初代が出来たのならば私に出来ない道理はないのだ! はーはははは!」
大股で腕を組み、小さな口を目一杯開けて高らかに笑う。
以前は俺の腰くらいにあった顔が胸に届きそうな程には成長しているが、所作や性格はあんまり変わっていない。
「ま、まぁ随分時間はかかったけどのう」
やや恥ずかしそうに視線をそらしたヴェルベット。
「そっか、おかえり。いや、いらっしゃい、か? ぶっちゃけ俺からしたら殆ど時間経過してないからお前がいきなりでかくなったようにしか思えないんだけどな。つーかなんだこのけしからん乳は。ゲマトリアでズルでもしたのか」
つんと脇乳をつつく。
「きゃ――! な、何ナチュラルに触っとんじゃお前は!
するかそんな事! 成長しただけなのだ! シャーリーは流石の先見の明が――って、え?
時間経過してない? ほ、本当にそうなのか!?
こっちはもう全然違ってるってのに不公平すぎるだろう!」
「ああ、帰ってきて一ヶ月くらいだぞ」
俺の体感時間では少し前まで魔界で暮らして居たくらいの認識しか無い。
どういう理屈でそうなっているのかは解らないが虚数計算ですら考えるだけで頭が痛くなるのだ、
別にそこまでして知りたいとは思わないし考えることを放棄した。
とにかくヴェルベットがこれほど成長しているということは、魔界ではかなりの時間が経過したというのは間違いないのだろう。
そして、それほどまで長い時間をかけて会いに来てくれた事が嬉しくないはずなど無かった。
ドライな対応は、俺なりの照れ隠しではあったのだが、気取られるわけには行かない。
「そ、そうなのか……! くそ、というかシャーリーに聞いてた展開と全然違うんじゃが……!」
ヴェルベットはなにやらメモのような物を見ながらぎりぎりと歯を摺り合わせる。
「なんだ、それ」
ぺっと取り上げて見る。
「ばか! よせ!」
慌てて取り返そうとするヴェルベットだったが身長は俺の方が高い、上に手を伸ばしてメモを広げてみた。
そこにはとんでもなく乙女チックな事ばかり書かれていた!
「――へえ、まじでこれあのシャーリーが書いたのかよ……見なかったことにしよう」
「ひーん」
しょぼくれて部屋の隅っこに直行して体育座りですねるヴェルベット。
「いいんだいいんだ、私なんてどーでもいいんだせっかく次元接続まで会得したのにだーれも褒めてくれないんだあーあ! あーあ! ひどいやつだなヤマダは!」
「……しゃーねーな」
そのまましゃがんだヴェルベットを後ろから抱き上げて、お姫様だっこしてくるりと回る。
以前と違いデカくなっただけに思ったよりきつかったが死んでも口には出さない。
「シャーリー式再会術としてはこれでステップワン、だな。さあ、お次はどれがよろしいか、魔王様? ――本当に俺が嬉しくないと思ってんのか?」
「じゃあ、ちゃんと嬉しいのか? 喜んでいてくれているのか?」
「全然嬉しくねえ」
言葉では否定しつつも表情で肯定する。その意図は十分に伝わったらしい。
「――フフフ! じゃ、じゃあ仕方無しにだが、四番にしておこう!」
恥ずかしげにそう口にして目をそらすヴェルベット。
「四番? ……あー、お前ヘッタクソだから嫌なんだよ、また流血しそうでよ」
「な、なにっ――」
隙有り。四番でその唇を塞ぐ。ヴェルベットは目を白黒させて顔を真っ赤にさせている。
「あ、そうだ。せっかくこっちに来たんだし――」
だが今度はヴェルベットにその言葉を遮られ、してやったり顔で笑みを浮かべられる。
その表情に吹き出して笑った。そして――
「――一緒に、バンドやろうぜ」
一旦ここでお終いです。
最後まで読んで頂けたならそれほど嬉しいことはありません。
有り難うございました!
◆追記
驚いた事に第九回ネット小説大賞のトレジャーハンターに選出頂いたようです。
正直ポイントやブックマークを見ていただいてもわかる通りほとんど読まれておりませんでした。
そんな状態でも通読して頂け、ブックマークやポイントを入れてくださった方、本当に有難う御座いました。
また、選出して下さった運営の方には頭が下がる想いでいっぱいです。
本原稿は本来新人賞用の原稿になります。
新人賞サイズに落とし込むにはやや詰め込みすぎた為かけ足の部分もありますが個人的にお話自体は気に入っており、現在続編プロットと前日譚完成原稿があります。
今のままでは完成度に不満がある為、またいつか公開出来ればなぁと思いますので宜しければブックマークリストの端っこにでも加えて頂ければ作者として励みになりますし、嬉しいです。
とにもかくにも全方面に感謝でいっぱいです。
有難う御座います。




