エピローグ
「おにーちゃーん、カップ麺ばっかじゃ身体壊すよ?」
「あぁん? この通り超元気なわけだが」
キッチンで妹の瑠璃が文句をいいつつも夕飯を作ってくれていた。
魔界から帰ってきて一ヶ月が経過している。
帰ってきて一番驚いたのがこちらでは数日しか経過して居なかった事だった。
不本意ながら仕事を無断欠勤をする事になってしまい、職場から実家に連絡が行った。
電話が繋がらない事から後少しで捜索願が出される所だったらしく、ノロウイルスにより便所にこもりきりになっていたという設定で何とか乗り切ったのだった。
「わー、偉そう。なんかお兄ちゃん怪しいんだもん。
トイレに何日もこもってたっていってもご飯とか食べた形跡も無かったし、電話も出なかったし。
それに変な生傷あるし、トトだって居なくなってるし、お母さん絶対信じてないと思うよ」
「別に元気だけどなぁ」
妹の瑠璃は予想通り親から俺が何か怪しい事でもしていないか探ってこいとでも吹き込まれているのだろう。
まさか魔界で世界救ってきたとは思わないだろうが、最近は物騒な事件もあるので何か良からぬ勘違いされても仕方ない。
「ま、いっか。それじゃ、アタシ帰るねぇ。……ねえ、お兄ちゃんこのおじさんだれ?」
扉に貼り付けられた肖像画を指さして瑠璃が苦い顔をしてこちらを見る。
「あん? ジェロラモ・カルダーノだ」
「あー、またメタルゴッドとかそういう人?」
「違う、数学者であり哲学者であり、賭博師でもあるというすげーおっさんだ」
このトンデモな経歴を持つオッサンが見つけた虚数という概念が無ければあの時世界はバル=ヨハニによって終わらされていた。
「なんでそんな人の肖像画飾ってんの? ヘビメタやり過ぎておかしくなっちゃった?」
「うっせ、メタルを馬鹿にすんじゃねえ」
「馬鹿にはしてないけど昔から変なおじさんのポスターばっかり飾ってるからじゃん」
「別にオッサンが好きなわけじゃねえ。まぁ気付けて帰れよ」
そう言って妹を見送った。
作曲が一段落して気がつくといつの間にか陽が落ちて暗くなっていた。
空には月が昇っていて仄かに光を発している。
魔界に浮かんでいた黒い月とは別物だが、それでもあの魔界での記憶が思い起こされる。
俺はこっちの世界で、もう一度バンドを作ってやり直そうと思う。
だって俺は人間界の魔王なんだから。
色々考えてみたが人間界で魔王になる為にはこの方法しか俺には思い付かなかった。
あいつを嘘つきにしない為にも俺はもう一度音楽で頑張ろうと思う。
「ま、俺はこっちでしっかりやっていくよ。――だから」
俺は一人そう呟いて夜空の月を見上げながら笑みを浮かべた。
――完(?)――
※ここで終わりません(笑)