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デウス・エクス・マギア ~大いなる幼女とデスメタる山田~  作者: 猫文字隼人
第二章 魔界に咲く華
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山田、よくわからないがモテる

 幸いにして襲われた村での死者は居なかった。


 マゴットの村に突然出現した白い異形は謎の毒素をまき散らし、それを媒介として村人の魔力を吸い尽くそうとしていた。

 蚊の唾液が血液の凝固を防ぎ吸血しやすくするように、空気中に散布した毒素によって悪魔の宿した魔力を空気中に放出させていたようだ。

 幸い発見が早かったのも有り、なんとか皆無事で済んだがあの狼煙を見たヴェルベットの決断が遅ければ皆死んでいたかもしれなかったらしい。



「で、あの異形は何なんだ」



 村のマゴット達の治療を行っている間に民家を借りて俺とヴェルベット、そしてマゴットの少年――だった少女――と情報交換を行っていた。



「それが、全く解りません、死体は完全に炭化していたので……」



 申し訳なさそうに応えるマゴットの少女。目玉のような模様が五つ描かれた眼帯を付け、銀髪と浅黒い肌をしている。

 ちらりと見ると……ちゃんと胸はあるようだ。

 べべべ別にスケベ心で見たわけでは無い。あくまでも確認の為だ。そうだったらそうなのだ。



「……そういや、お前名前は?」


「え!? ボクに興味があると!? やっぱり魔王様は……ボクが好き……!?」


「落ち着け」



 どうやったらその回答にたどり着くんだ。デコピンで思考の暴走を止める。



「ああん、愛の鞭! きもちいい!」


「違ぇ。しかも怖ぇ」



 なんだこいつ、完全に変態の領域だ。ていうか変態の大海原をバタフライで横断するくらいの変態だ。

 自分に対して好意を持ってくれているのにやりづらいのは初めての体験だった。

 ヴェルベットはヴェルベットで俺を機嫌悪そうに睨んでいるし。何も悪いことしていないのに。



「こほん、それでは改めまして、ボクの名はリベルシア。マゴットの王リベルシア・ベルゼビュート・ムスカです。気軽にベルちゃんとお呼び下さい!」


「わかった、リベルシア。とりあえず、俺の膝から降りてくれ」



 なんか会話しながらさも当然のような顔をしてしれっと乗ってくるので言及するタイミングに困っていたのだ!



「ああん、つめたい! でもそこも好き! ぞくぞくします! そしてどきません魔王様! このサンクチュアリはボクが守り抜きます!」


「いやそもそも俺魔王じゃねえし。前にも言っただろ」


「そうだぞ! こいつは私が召喚したんだ! だから膝に座って良いのも私だけだ! わかったらそこをどけ!」



 待ってましたとばかりにヴェルベットが叫ぶ――が、残念ながらお前の椅子になった記憶も無い。


 するとリベルシアは真面目な顔をしてヴェルベットに問う。



「……それは魔王としての言葉ですか、そうであるならばボクは命令に従い魔王様の膝をどきましょう。けれどそれは……すなわち地位を利用してのインチキ! つまりは女としての敗北宣言のような物だと心得て下さい。さあどっち!」



「は、はぁ!? 何言ってるんだこいつ! どっかおかしいぞ!」



 俺もそう思う。そしてそれを俺の膝の上でやるのはやめろ。

 何やらぎゃーぎゃー言い合いをしているが正直レベルの低い争いなので対応に困る。だが、ふと気になることを思い出す。



「そういやリベルシア、あの時の親父さんは……」



 確かリベルシアは病気になったマゴットの王、親父さんに栄養のつく物を買いに来ていたのだ。リベルシアが王になったということは、つまり……。



「あ、今頃家で編み物とかしてますね」


「生きてたし! しかも編み物!」


「ん? あ、ボクが王になっているから心配して下さったのですか? さすが魔王様お優しい! ボクたちマゴットは成体に至る為に一定の年齢と、恋というものが必要でした。ボクは恋を知らず成体へと……つまり王へと至ることが出来なかった為、父が老体に鞭を打ち頑張っていてくれていたのですが……けれど、ああ! ボクはついに! 恋に落ちてしまった! ねえ、魔王様ぁん、それって誰にだと思いますぅ?」



 ぐりぐりと指先で俺の胸に文字を書くようにいじくりまわしてくる。



「知らんがな! っていうかお前結局本当は男なのか女なのかどっちなんだよ! すげえやりづらいんだよ!」 


「どっち? ふむ、ご覧になられた方が早いでしょう。ささ、魔王様こちらへ。ささ!」


「行かねえ! だめだこいつすげーつえー!」



 鋼のメンタルすぎる!



「それは残念です……。そうですね、簡単に説明するならばボク達は皆産まれながらに雄なんです。ですけど恋した相手によって性別が変化するんですよ。え? 何故って? それは勿論子孫を残す為なんですけど……きゃっ、言っちゃった!」



 駄目だ結構しんどい! なんかもうぎりぎりだ!



「あー! さっきからでれでれしおってなさけないぞヤマダ! このスケベ人間!」



 ヴェルベットに太ももをばしばしと叩かれながら怒られる。



「ヤマダ……? 魔王様はヤマダ様というのですね、良い響きです。すうはぁ」


「でええ! 至近距離でかぐな! 匂いを!」



 俺の首に手をかけたまま鼻先が触れそうなほど喉元で匂いを嗅がれる。



「嗅いでなどおりません。そんなはしたない真似……! これは魔王様の体表の近くで呼吸しているだけです! すーはーすーはー! うひょー空気が美味しい!」


「ああああ! マゴット怖い!」



 唐突にノックがあり、マゴットの兵士が部屋に入ってきた。一瞬自分たちの王のとんでもない奇行を目にして動揺していたが、即座に表情を戻し、リベルシアへ報告する。



「リベルシア様、先ほどの魔界の(プラハ)への対処の報告を終了致しました」


「有り難う、助かった。我らも村の民を介抱した後合流しよう」



 そう言ってマゴットの兵士へ真面目な顔をして告げた。だがそこはまだ俺の膝の上だ!



「ふう、仕方在りません。ふざけるのはこの位にしておきましょう。ですがボク達の感謝の気持ちは本当です。あの時救って頂いただけでは無く、今回も救援に駆けつけて頂けるとは思いもしませんでした。本当に有り難う御座います」



 今までのノリは影を潜めて、真面目な顔をしてリベルシアは言った。



「いや、いい。そんなもん当然だろ。それに、最初に狼煙に気付いて救援に行こうって知らせてきたのはそこのヴェルベットだ」



 俺が告げるとリベルシアは驚いたようにヴェルベットへ視線を向けた。腕を組んで機嫌の悪そうな顔をしていたヴェルベットは恥ずかしそうに視線をそらす。



「ちんちくりん貧乳……」



 リベルシアの言葉は的確に辛辣だった!



「だーれーがー! 貧乳じゃ! あるわい! いっぱいあるわい! なぁヤマダ!?」


「――すまん!」



 絶壁と言ってもまだ甘い程の虚ろなる乳(虚乳)だった為嘘はつけなかった。



「ぐっ……お前はどっちの味方なんだ!」


「俺は誰の味方でもねえ。ただ男ってのはおっぱいの奴隷なんだ……」



 自分で言っておいてなんだが意味は解らない。



「くっ、私のはな、尻上がりなんじゃ! シャーリーが姫様は大器晩成型だから大丈夫なのですって言ってたし!」



 つまり今は全く大丈夫では無いという意味だった!



「失礼、つい感激のあまり間違えてしまいしました。てっきり魔王様が連れてきてくれたのかと。マゴットの民を代表してお礼申し上げますたんこ」


「おいお前今何て言った! 何て言った! こっそりなんか言っただろ!」


「いえ、マゴットとはこういう特定語尾をつかうものなのですたんこ」


「きいい!! 腹立つ! なーんかお前とは初めて会った気がせんぞ!」



 またしてもヴェルベットVSリベルシアが繰り広げられ始める。俺の膝の上で。



「はいはい、今は喧嘩はいいから。とりあえず予想でも良い、何かあいつの正体に心当たりはないか? さっきプラハって呼んでたよな?」


「魔界の(プラハ)――我々は確かにそう呼称しておりますが、あくまでも仮の名。そしてあの異形は少なくとももう一体存在すると思われます」


「どういうことだ? 何で解る?」


「先日の流れ星をご覧になられましたか」



 確か夜半に二つ夜空を流れる流れ星を見た記憶がある。特に騒ぐことも無く、飯の時にヴェルベットと話題に上ったくらいで気にもとめていなかった。



「ああ、二つ流れていた奴か。つまりあれがそうだってのか?」


「ええ、着弾地点には奇妙な華のような孵化の痕跡が二つ残されていました。あのような存在はこの魔界には存在しません。少なくとも私は知らない。であるならば……天界から投棄された何らかの生物、もしくは生体兵器の可能性も捨てられません」



 魔界の(プラハ)。ならば確かにあの異形が、もう一体存在する可能性は高い。



「だったら、すぐにでも退治しないと」


「ええ。元々二体存在する可能性は把握していましたのでボク達は二手に分かれて調査していました。既に火に弱いという情報は別同部隊へ飛ばしています。この後救援に向かいますが向こうには優秀な魔道士もおります。炎に弱い事は解っていますから恐らくはすぐに片が付くはずです」



 俺が気になったのはあの異形の変貌速度だった。最初に見つけた時はイソギンチャクのような愚鈍な形態だったが、毒の影響を受けない俺の攻撃を受けるとすぐさま身軽に動きやすく、そして物理的な攻撃を無効化させうように変貌したのだ。

 あのスピードは正直尋常な物では無い。もし、火に対しても即座に何らかの対応策をもって変貌、いや進化していたとしたら。


 何かざわついたものが胸に走っていた。


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