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デウス・エクス・マギア ~大いなる幼女とデスメタる山田~  作者: 猫文字隼人
序章 ヴェルベット・チャーチの憂鬱
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ヴェルベット・チャーチの憂鬱 上

第9回ネット小説大賞 トレジャーハンターに選出していただいたようでびっくりです。

読んでくれた方含め、皆さんに感謝いたします。


ハイファンタジーになるのかローファンタジーになるのか悩み……。


※元新人賞用原稿という事でオチのカタルシスに全振りしているタイプです。

「魔王ヴェルベット・チャーチ。魔王の座をかけてこのルキフグスと勝負だ。くくく、今日が貴様の魔王最後の日となるのだ……!」



 漆黒に覆われた魔王城謁見の間。


 安っぽいドラマみたいなピシャーン! という雷鳴をBGMに一人の悪魔が玉座に向かって高らかに宣告した。


 魔王、それは魔界の頂点に君臨する絶対存在を指す。


 その息吹は嵐を起こし、その声一つでイカズチが落ち、ひとたび歩けば大地は割れ、癇癪を起こせば名状しがたきものどもが復活し、大地に隕石が降り注ぐ。


 歴代の魔王とは、その時代全ての悪魔の頂点。まさに桁外れの存在だった。



「…………」


「お、おい。寝てるのか? 我を無視するな!」



 昨晩のリハーサルの甲斐もあってかせっかく噛まずに見得を切れたのに、一切の反応が無い事に焦ったルキフグスが慌てて言うと、玉座でだらけながら漫画を読んでいた魔王ヴェルベット・チャーチはめんどくさそうに頭をあげる。


 その姿は黒いローブに覆われており、わずかに口元と手元が見えるだけだった。



「……ちっ、せっかく盛り上がってきたのに。……ま、そういうルールらしいから仕方無いけどのう。あ、挑戦権は一回だけだからな。これ終わったらもう来るなよ」


「ぬぬぬ! 余裕ぶりおって……! せいぜい今のうちにその玉座の座り心地を楽しむが良い! この我が貴様をなめ腐った性根ごとぎったんぎったんにしてくれるわ!」



 ルキフグスは現魔王ヴェルベット・チャーチを前にしても一歩も引かず人差し指を突きつけて自信満々に言い放った。



 ルキフグスの魔力は魔族の中でもダントツで、魔界第二中学歴代卒業生最強とまで言われていた。


 暴力的な手腕により周囲の弱小中学を次々と傘下に入れ、当時最強とまで呼ばれたデルモンテ三中すらをも支配下に組み込んだ彼を皆は二中の癇癪玉と呼び恐れていた。



「……何でお前はさっきからずっとフルボリュームで叫んどるんじゃ。調整出来んのか」



 耳を塞ぎながらしかめ面で返すと同時にローブ姿の魔王ヴェルベット・チャーチはぴょい、と玉座から飛び降りる。そうしてぺたぺたと裸足のままルキフグスの前にまで歩み出た。


「えーと、それじゃ魔界憲法第……えーと何条だっけ……まぁいいや、とにかくなんかソレの『魔王下克上チャレンジ権』に則って今から勝負を行うぞ。

 勿論決まり通り一回だけじゃから後悔の無いようにな。

 試合のルールはどうする? なんでもいいぞ、好きな物を選べ。必要な物があれば準備させよう」


 

 魔王ヴェルベット・チャーチはフードの中に手を差し込みぼりぼりと頭を掻き、直後ふわあとあくびをしながら、ルキフグスに告げる。



「余裕ぶりおって……! この戦いにルールなど不要! どちらかが音を上げるまで殺し合う! 相手が死んだ場合は生き残った方が勝者としてこの魔界の王となる!」


「……ふーん。つまらん男だな、お前も。まぁ別にその方が時間かからんからいいんじゃが。さ、始めるか。いつでもかかってくるがいいー」



 魔王の投げやりな言い方に若干の苛つきを感じたルキフグスだったが、それでも今の立場は挑戦者。

 頬を両手で強く叩くとたるんだ雰囲気を一気に変える。

 直後身に纏ったマントを軽々と投げ捨てた。

 床に接触すると同時に重い音を立てて謁見の間の床にひびを入れる様子を魔王ヴェルベット・チャーチの視線が追う。



「くくく、驚いたようだな。そう、何を隠そうこのマッスルマントは重量666マトンある。どういう事か解るか? この俺が! 枷を外し! 全力で戦うと言う事だ! くくく、ふはははは! ヴェルベット・チャーチ、相手にとって不足無し!」



「……え? あー、ふうん。そーなんだ。でもそのヒビちゃんと修理してから帰れよ」



「かるぅい!」



 両者の温度差には大きな隔たりはあったが、兎にも角にも!


 魔界の頂上決戦が今、始まる!



――と思ったら予想外に早く勝負は付いてしまった。



「わああああん!」


 

 たんこぶだらけのルキフグスは泣きながら魔王城から逃走していった。



「おい貴様ー! ヒビはちゃんと修理しろって言っただろー!」



 ルキフグスの後ろ姿に叫ぶも、まるで聞こえておらず、そのまま後ろ姿は遙か彼方へ消えていき見えなくなってしまった。



「まったく……税金かかってんのに」



 魔王ヴェルベット・チャーチはしゃがみ込んで床のヒビを指先でなぞりながら渋い顔をして毒づいた。


 ルキフグスの敗因はただ一つ。相手がヴェルベット・チャーチだったこと、それだけだった。

 挑戦者の中で比べるならば、ルキフグスの魔力はダントツだったと言っても良い。並の悪魔では束になっても彼に敵わなかったであろう。


 だがヴェルベット・チャーチの強大な魔力はそれにも増して度を超えていた。恐らく歴代魔王と比べても相手にならぬほどの莫大な魔力。文字通り桁が違ったのだ。


 先代魔王であり、父でもあるヘルデウスより魔王の座を受け付いたヴェルベット・チャーチは当初は無名の存在だった。


 表に出ることを極端に嫌い、姿だけで無く声すら知るものは居ない。唯一魔王挑戦者のみがその小柄な姿を目にすることが出来るのだが敗北した者は代償として見た目や声など一部の記憶は奪われてしまう。

 故にヴェルベット・チャーチなどという悪魔は実際には存在しないのではないかとすら言われていた。


 けれど魔界の有力な魔王候補ルキフグスが泣きながら逃走する場面は多くの悪魔によって目撃された。

 そうしてヴェルベット・チャーチの存在は間違い無く存在すると認知され、魔界の民衆は大いに盛り上がり、ニュースでも連日取り上げられた。



「魔界二中の癇癪玉ルキフグス、魔王ヴェルベット・チャーチ様に完全敗北!」

「求む、新たなる魔王挑戦者!」

「ヴェルベット・チャーチ様、明かされぬお姿!」



 そんな文字がでかでかと印刷された魔界新聞号外がそこかしこでばら撒かれ、本屋にはヴェルベット・チャーチ特集号のゴシップ誌が大量に並んでいた。


 正体のわからない謎の魔王ヴェルベット・チャーチ。

解らないとなると知りたくなるのが世の常である。ヴェルベット・チャーチとは一体どのような悪魔なのだろうかと魔界各地で噂が走った。



「これは友達の友達に聞いた話だが……やはりヴェルべット・チャーチ様の魔力は桁外れらしいぜ。だが強大な魔力の代償としてお顔はふためと見れぬものとなり、それゆえにローブを被ったままと言う……恐ろしい事だ……」

「生まれてすぐに全ての魔界言語と魔法を操り、お亡くなりになった先代魔王、お父上であるヘルデウス様すら手を焼いたという……一説によるとヘルデウス様のお命すら……」

「俺が聞いた話によるとローブで姿を隠しているのは有り余る魔力を拘束するためらしい。その真の姿を目にしたものは目玉が破裂し、永久に燃え続けるというぞ」



 娯楽の少ない魔界においてヴェルベット・チャーチという存在はそれだけで話題たりえたのだ。



 玉座の上で、しかめ面の彼女が手にしているのは巷で売られているゴシップ誌。

 ぱらりとめくると凶悪なけむくじゃらの、真っ黒で角の生えた見るからに強そうな悪魔の肖像画が印刷されている。

それはルキフグスを更に凶悪にしたかのような恐ろしい姿だった。

そして肖像画の上にど派手な色彩で「魔王ヴェルベット・チャーチ様を知る側近により禁断のモンタージュ作成!」などと書かれ、さらには編集部にタレこんだという側近は突然謎の書き置きを残して行方が知れなくなったと書かれている。


 それだけではない。そんなインチキな肖像画に対して魔界の民達から向けられた圧倒的な支持が彼女をさらに憂鬱にさせた。


 彼女の悩み。

 それは……実際の彼女は見た目と声に全くといって威厳がない事だった。



「はぁ……私がもっとムキムキマッチョの毛むくじゃらだったらなぁ……お前もそう思うだろう、キュー?」


自らの膝の上で眠っている黒猫に声をかけるも当然返事は無く、彼女は小さくため息をついた。

 同時に桃色がかった金の髪が小さく揺れる。

 血色に輝く大きな瞳、周囲を彩る長いまつげはまるで魔界曼珠沙華の花弁のよう。

 そして肌は茹でたてのマケコッコの卵に勝るとも劣らぬきめ細やかさだった。


 部位ごとに見ても一切の批判を許さぬ完璧な造型。それが妖艶な美であるならばまだ良かった。


 けれど、彼女はまだ幼い子供。

 可愛らしさの残る容貌は魔王となるにはいささか可憐すぎたのだ。

 絶大な魔力と、幼さの残る容貌。


 相反する二つの要素は彼女をいつも憂鬱にさせる。

 自らの見た目や声が魔王像からかけ離れている事を既に理解していたからだ。



 先代魔王ヘルデウスの崩御と共に魔王の座に付く事となった彼女は父の遺言に乗っ取って立派な魔王となる為、魔王就任の儀式において初めてその姿を魔界全土にさらすことになった。

 緊張の中、ステージに登壇し、目深に被ったフードを下ろす。



「わ、私が魔王ヴェルベット・チャーチだ。コンゴトモヨロシク……」



 あがり症だった彼女はがんばってただのそれだけを口にした後、すぐにフードを被りなおしそそくさと会場を後にした。


 魔界の住人はそれまでローブの下に隠されていた姿、そのキュートな姿に一瞬で魅了された。彼女の前では全ての好み等、些細な問題だった。


 尻派と乳派、ロリコンと熟女派、性別すら問わず魔界の住民全てを魅了した。

 魔界の民は端的に言って彼女に萌えたのだ。


 けれど彼女は民の反応が自らの望んだ父のような偉大な魔王像と大きくかけ離れた反応である事を理解し、動揺した。

 そして、生前の父ヘルデウスに授けられた魔国宝の存在を思い出した。



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