蟒池奇譚
※夢学無岳様の企画「美少女さしあげます」に合わせた小説です。詳しくは、『しろうと絵師による 「なろう小説」挿絵 製作日記』を参照くださいませ。URLは、https://ncode.syosetu.com/n5400en/です。
むかしむかし、あるところに、小さな村がありました。
その村のはずれには、あやかしが出るからちかづいてはいけないという言いつたえがある池がありました。
ある日のことです。
村にすんでいるいたずらずきな少年と、こわがりな少女のきょうだいが、野原であそんでいました。
しばらくは走りまわったり、花をつんだりしていましたが、やがて少年はあそびあきてしまい、少女に言いました。
「なぁ。きょうは父ちゃんも母ちゃんもおそくまでかえってこないからさ、ふたりで池のほうまでたんけんしに行こうぜ」
「だめよ。そんなことしたら、おこられちゃうわ」
「見つかんなきゃ、へいきだって。おまえが行かないなら、おれはひとりでも行くから」
「あっ、まって。おいてかないで」
ふたりは、おやの言いつけをやぶり、村のはずれにある池までやってきました。池のほとりには、古びたほこらがありました。そのほこらは、きりつまの下にむすんであったシメナワが切れていて、シデも雨でふやけてやぶれかけています。
「なんだ。なんにもないじゃないか。おどかしやがって」
「ねぇ。もう、かえりましょうよ。くらくなっちゃうわ」
「そうだな。とっとと引きかえそうか。――あれ?」
「どうしたの?」
少年は、なにかにひきよせられるようにして、フラフラと水ぎわまで近づいていきます。少女は、少年を止めようとしましたが、かなしばりにでもあったかのように、からだが言うことをききません。
「わぁ。きれいなミコさんだ」
――ソレに近づいちゃだめ。もどってきて。
少女はこえをあげようとしますが、のどに布がはりついたようになっていて、ことばひとつを出すことができません。じつは、少年の目にはミコに見えているソレは、ミズヘビがあやかしの力で化けたもので、せのひくい少女には、草の下でとぐろをまいているシッポが見えているのです。
「おやおや。これは、かわいらしいわらわだこと。さぁさぁ、もっと近くまでおいで。いっしょにあそびましょう」
「うん」
ミコがのばした手を少年がつかむと、ミコは少年をひっぱってむねにだきかかえ、あんしんしきっている少年のからだにシッポをまきつけると、チラリと少女のほうをむいてうすわらいをうかべ、そのまま池の中へときえていきました。
それから、すっかり夜がふけたころ。手に手にたいまつをもった村びとたちは、すっかりたましいがぬけたようになっている少女を、池のほとりで見つけましたが、それから少年のすがたを見たものは、だれもいないそうな。
おしまい。
※「蟒」という漢字には「おろち」「うわばみ」という訓読みがあり、どちらも大蛇を意味します。